日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS12] 古気候・古海洋変動

2024年5月29日(水) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、長谷川 精(高知大学理工学部)、小長谷 貴志(東京大学大気海洋研究所)

17:15 〜 18:45

[MIS12-P13] 氷期における海洋炭素ポンプ応答とその大気CO2濃度への影響

*西田 雅音1岡 顕1 (1.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:海洋炭素循環、氷期/間氷期サイクル、海洋物質循環モデル、海洋大循環モデル

海洋は炭素の巨大なリザーバーであり、海洋の炭素循環の変化は気候システムに大きな影響を与える。古気候プロキシを用いた復元から、氷期の大気中の二酸化炭素濃度が産業革命前と比べて90ppmほど低かったことがわかっている(e,g. Lüthi et al., 2008)。これは氷期には海洋内部に炭素を多く保持できていたためと考えられている。具体的なメカニズムとしては、鉄フラックスの増加による生物生産の増加、成層化による表層水と深層水の鉛直交換の弱化、氷床の拡大によって大気との二酸化炭素交換が行われにくかったことなどがあげられる。気候モデルを用いた氷期における大気中二酸化炭素濃度の低下を再現する研究は数多く行われているものの、各過程の二酸化炭素濃度の低下に対する寄与はモデル間でばらつきがあり、GCMによる氷期の大気中二酸化炭素濃度低下の再現はプロキシによって示されるデータの半分ほどにとどまっている。特にモデル内での表現に課題があるとされる南大洋が氷期の炭素循環において重要な役割を果たす可能性が指摘されている。このような背景のもとKobayashi et al., (2021)では南大洋の成層化を再現した上で、鉄肥沃化に加え炭酸塩補償を考慮し二酸化炭素濃度77ppmvの低下を再現した。
 本研究では、LGMでの大気中二酸化炭素濃度低下における海洋炭素循環の変化の役割を理解することを目的とし、LGMにおける海洋炭素ポンプの変化に着目する。具体的には、最も現実的に二酸化炭素の濃度の低下を再現したKobayashi et al.(2021)やその先行研究であるKobayashi et al.(2015)において、二酸化炭素濃度の低下を示す原因となった過程やその定量的な寄与をOka(2020)による海洋炭素ポンプ分解により明らかにすることを目的としている。Kobayashi et al.(2015)では、海洋大循環モデルCOCOのオフライントレーサモデルを用いて、ロス海、ウェッデル海の最深層をそれぞれ37.0psuと38.0psuに高塩化する実験(ERW実験)、ERW実験に加え30Sの鉛直拡散係数を0.10に変更した実験(ERWs実験)、全球の鉛直拡散係数を0.10に変更した実験(ERWa実験)を行い南大洋の成層化を表現している。本研究では、これらERW実験, ERWa実験, ERWs実験と標準LGM実験について海洋炭素ポンプ分解による解析を行った。
 大気中二酸化炭素の分圧はPIと比較して標準LGM実験で44.1ppmv、ERW、ERWs, ERWaではそれぞれ39ppmv, 50.5ppmv, 57.2ppmv低下した。二酸化炭素分圧の低下は、海洋炭素ポンプにより表層から深層へ炭素が運ばれることによって起こる。海洋炭素ポンプには有機物ポンプ、炭酸塩ポンプ、ガス交換ポンプ、淡水フラックスポンプの4つの過程があり、海洋炭素ポンプ分解によりそれらを定量的に解析することができる。標準LGM実験において、有機物ポンプ、炭酸塩ポンプ、ガス交換ポンプはPIと比較して、11.6ppmv, -1.4ppmv, 6.2ppmvの二酸化炭素分圧低下に寄与した。なお、負の符号は二酸化炭素分圧を増加させたことを示す。ERW実験では、有機物ポンプ、炭酸塩ポンプ、ガス交換ポンプの順に、4.1ppmv, -2.4ppmv,4.0ppmvであり、 ERWs実験では、11.4ppmv, -6.8ppmv, 4.2ppmv、ERWs実験では11.5ppmv, -6.9ppmv, 4.2ppmvであった。また、淡水フラックスポンプは表層のDICとアルカリ度を共に下げたため大気中の二酸化炭素分圧を大きく変化させなかった。これらの結果から、大気中二酸化炭素濃度の低下には有機物ポンプが最も重要であることがわかった。有機物ポンプの強さを比較すると、標準LGM実験、ERWa実験、ERWs実験、ERW実験の順に強かった。地理的な分布について、標準LGM実験、ERW実験、ERWs実験ではPIと比較して特に北太平洋、北大西洋の中緯度域とインド洋の生物ポンプが弱まっていることがわかった。一方、ERWa実験では、北太平洋、中緯度域とインド洋の生物ポンプが強まり、さらに大西洋の中低緯度域と南太平洋の中緯度域にも生物ポンプが強まった地域が見られた。炭酸塩ポンプについて、成層を強めた実験ほどポンプは強まった。ガス交換ポンプはPIと比べて弱まり、二酸化炭素分圧の増加に寄与した。実験間の比較では標準LG M実験、ERW実験、ERWs実験、ERWa実験の順に弱かった。淡水フラックスポンプは二酸化炭素濃度の低下への寄与は少なかったものの、表層のDICとアルカリ度を大きく減少させた。発表ではこれらの結果からどのような条件の場合にポンプの強化、弱化が起こるのか、またその地理的な分布について議論する。