日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS13] 大気電気学:大気電気分野の物理現象解明から減災への応用まで

2024年5月28日(火) 15:30 〜 16:45 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:菊池 博史(国立大学法人 電気通信大学)、鴨川 仁(静岡県立大学グローバル地域センター)、座長:菊池 博史(国立大学法人 電気通信大学)

16:15 〜 16:30

[MIS13-04] マルチセル対流雲におけるダウンバースト前の雷活発化の発生条件

*近藤 誠1佐藤 陽祐1 (1.北海道大学理学研究院)

キーワード:雷、ダウンバースト、霰、数値シミュレーション

ダウンバーストをそれに先行する雷頻度の増加から予測するLightning Jump (LJ[1])という予測指標が観測研究から提案されているが,ダウンバーストと雷の両現象に重要な霰の特性に基づくLJの発生メカニズムは関する理解が不足している.本研究では雷活動を直接計算できる気象雷モデルSCALE[2][3][4]を用いてLJの発生が多いマルチセル対流雲を対象とした数値実験を行い,霰の電荷分離環境と雲粒捕捉成長環境の形成に着目してLJの発生メカニズムを調査した.
理想化実験はCTL実験の初期値を1994年9月8日に発生した埼玉県美里町で発生したダウンバースト[5]を対象としたGuo et al. (1999)[6]と同様にし,計算領域南西側に気温が領域平均から最大で4 K高い暖気塊を配置し90分間の計算を行った.また,感度実験としてx方向の風を1.2倍にして風の鉛直シアを強くした実験を行った.
理想実験の結果,CTL実験では初期暖気塊由来のコールドプールによって形成されたマルチセル対流雲において発雷相当数が増加(33.3分)した14.7分後にダウンバースト(48.0分)が発生するにLJに相当する現象が計算された.一方,感度実験ではCTL実験と同様なコールドプールによって形成されたマルチセル対流雲において,ダウンバースト(33.0分)が雷のピーク(36.6分)の3.6分前に発生しLJは発生しなかった.
このLJの発生の有無の要因をコールドプールと鉛直シアのバランス[7]に由来する対流の傾きから調査した.CTL実験では最初に世代交代した対流セルで傾いた対流となり電荷分離に適した環境が形成されたのちに,次の世代の対流セルで直立した対流となり活発な雲粒捕捉成長での霰が成長しやすい環境が形成されることでLJが発生したことが示唆された.一方,感度実験では最初に世代交代した対流セルがCTL実験に比べて直立した対流となり電荷分離に適した環境が形成されず,ダウンバーストが発生したがLJが発生しなかったことが示唆された.

参考文献
1. Williams, E. R., and Coauthors, 1999: The behavior of total lightning activity in severe Florida thunderstorms. Atmos. Res., 51, 245–264. doi:10.1016/S0169-8095(99)00011-3
2. Nishizawa, S., Yashiro, H., Sato, Y., Miyamoto, Y. & Tomita, H. 2015: Influence of grid aspect ratio on planetary boundary layer turbulence in large-eddy simulations. Geosci. Model Dev. 8, 3393–3419 (2015).
3. Sato, Y. S. Nishizawa, H. Yashiro, Y. Miyamoto, Y. Kajikawa, & H. Tomita. Impacts of cloud microphysics on trade wind cumulus: which cloud microphysics processes contribute to the diversity in a large eddy simulation? Prog. Earth Planet. Sci. 2, (2015).
4. Sato, Y., Y. Miyamoto, and H. Tomita, 2019: Large dependency of charge distribution in a tropical cyclone inner core upon aerosol number concentration. Prog. Earth Planet. Sci., 6, 62, doi:10.1186/s40645-019-0309-7.
5. Takayama, H., H. Niino, S. Watanabe, and J. Sugaya, 1997: Downbursts in the northwestern part of Saitama Prefecture on 8 September 1994. J. Meteor. Soc. Japan, 75, 885–905, doi:10.2151/jmsj1965.75.4_885.
6. Guo, X. L., Niino, H., & Kimura, R., 1999. Numerical Modeling on a Hazardous Microburst-Producing Hailstorm. Toward Digital Earth Proceedings of the International Symposium on Digital Earth (Vol. 1, pp. 383– 398). Science Press.
7. Rotunno, R., Klemp, J. B., & Weisman, M. L. (1988). A Theory for Strong, Long-Lived Squall Lines. Journal of the Atmospheric Sciences, 45, 463–485. https://doi.org/10.1175/1520-0469(1988)045<0463:ATFSLL>2.0.CO;2