日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS13] 大気電気学:大気電気分野の物理現象解明から減災への応用まで

2024年5月29日(水) 09:00 〜 10:15 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:菊池 博史(国立大学法人 電気通信大学)、鴨川 仁(静岡県立大学グローバル地域センター)、座長:鴨川 仁(静岡県立大学グローバル地域センター)

09:30 〜 09:45

[MIS13-08] 2023年11月18日に北陸で発生したTGFのチェレンコフ検出器による指向性観測

*大口 真奈里1安藤 美唯1中澤 知洋1大熊 佳吾1、湯浅 孝行2和田 有希3ウ ティン4田中 敦也1、大宮 悠希1、伊藤 大将1、西村 悠太1、坂井 晃生1、久富 章平1王 道洪4一方井 祐子5榎戸 輝揚6,7 (1.名古屋大学、2.spire、3.大阪大学、4.岐阜大学、5.金沢大学、6.理研、7.京都大学)

キーワード:雷ガンマ線、雷放電、電波、高エネルギー大気物理学、大気電気学

雷活動では、雷雲内の電場によって相対論的速度まで加速され、雪崩増幅された電子による制動放射ガンマ線が観測される。特に継続時間が1 ms以下の短時間で大強度の放射はTGF(Terrestrial Gamma-ray Flash)と呼ばれている。そのエネルギーは10-30 MeVにも達し、自然界で唯一観測可能な磁場の関与しない静電場による粒子加速として注目されている。このガンマ線の由来となる電子の加速領域のサイズや高度などは未解明であり、その位置の同定は静電場電子加速のメカニズム解明の鍵を握っている。しかし、衛星から観測されるTGFは、加速領域を特定するには遠く、地上で観測されるTGFは、〜100μsの短時間にMeVのガンマ線が大量に到達する非常に高輝度なもので、ほとんどの検出器が飽和しており、定量的な観測は容易ではない。

 我々は毎冬北陸地方にガンマ線検出器を設置し、冬の雷雲を観測している。2022年度観測では合計5つのTGFを観測し、5地点のガンマ線検出器と岐阜大の雷放電検出システム FALMA (Fast Antenna Lightning Mapping Array)のデータを用いて解析を行なった。放電の発生位置から各ガンマ線検出器までの距離と、各ガンマ線検出器で検出したTGFの最初の光子を観測した時刻(TGF到来時刻)を比較すると、放電位置に近いほどTGFが早く到来しており、放電地点がTGFの発生場所に近いことが強く示唆された。一方、~10 μsのTGFの立ち上がり時間中では光子検出の統計的な揺らぎがあるため、到達時間の差は光速以外の要素にも起因する。以上から、TGF到来時刻差を用いて電波で測定した放電位置がTGF発生点として妥当かどうかの検証は可能であっても、TGF発生地点を決めることは非常に難しい。また電波波形が遅いため電波観測で高度を決めることは難しい。このためガンマ線自身でTGFの到来方向を決定することが重要であることが示唆された。

 そこで我々はTGFの世界初の地上での指向性観測を目指し、ガンマ線と物質の相互作用によって発生した荷電粒子が物質中での光速を超えた時に放射されるチェレンコフ光を利用した検出器を開発した。チェレンコフ光は、長さ70 mmのアクリル棒の両端に取り付けられた光センサーで読み取られ、2つのセンサーの光強度の比から、ガンマ線がどちらから来たかを識別する。このロッド4本を組み合わせて1つの検出器とし、それぞれのロッドから得られた入射角度を組み合わせることで簡易的に方位角と仰角の推定が可能である。中性子施設KUANSで8 MeVまでの即発ガンマ線を本検出器に照射し、十分な統計が得られればガンマ線の到来方向を10度の精度で計測できることを確認した。

 チェレンコフ検出器を2023年10月31日に金沢市内の2地点に1基ずつ展開し、観測を継続したところ、2023年11月18日にチェレンコフ検出器でTGFイベントを検出した。データの一部に放電由来の電磁ノイズ領域が被ってしまったが、波形取得していることを生かし、これを分離した。光子の統計量は限られてしまったが、TGFの到来方向を±20度の精度で決定することに成功した。この到来方向はFALMAから得られた放電位置と一致していた。チェレンコフ検出器はこの放電位置から水平距離2.7kmの位置にあり、仰角~40 度弱でTGFを観測したと思われる。これが正しければ、TGFは高度2.3 km未満で発生したと推定される。本講演では本イベントを中心に、より詳細な解析結果について述べる。