日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS13] 大気電気学:大気電気分野の物理現象解明から減災への応用まで

2024年5月29日(水) 09:00 〜 10:15 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:菊池 博史(国立大学法人 電気通信大学)、鴨川 仁(静岡県立大学グローバル地域センター)、座長:鴨川 仁(静岡県立大学グローバル地域センター)

10:00 〜 10:15

[MIS13-10] チベット高原における雷雲からの高エネルギー放射線の観測

*土屋 晴文1、日比野 欣也2、川田 和正3、大西 宗博3、瀧田 正人3、宗像 一起4、加藤 千尋4、霜田 進5 (1.原子力機構、2.神奈川大学、3.東大宇宙線研、4.信州大学、5.理化学研究所)

キーワード:雷雲、高エネルギー放射線、チベット高原

地上や高山における雷雲から放射線(雷雲放射線)が観測されており、その生成メカニズムの解明を目指した研究が国内外で進んでいる。これまでの研究から、雷雲放射線は雷雲内の強電場によって高エネルギーに加速された電子が放つ制動放射線であると考えられているが、その観測地点の高度によって、継続時間や発生時期が著しく異なることが分かってきた。実際、北陸地域の柏崎刈羽原子力発電所や金沢市近郊の大学などでは雷雲放射線は冬にのみ観測され、典型的に1分ほど継続する。一方、標高3000 mを超える地点では雷雲放射線は夏の雨季の時期にのみ捉えられ、10分ほど続くことが報告されている。こうした差異の原因は、さまざまな地点での放射線観測データの不足のため未解明である。そこで、高度4300 mのチベット高原において1998年から稼働している宇宙線観測装置(中性子モニタ)が捉えた雷雲放射線のデータを解析し、その特性を調べることによって、この違いの要因について探ることとした。
チベット高原の中性子モニタは2017年までに127例の雷雲放射線を検出した。これらの事例の95%は10分から40分ほど続き、チベット高原の雷雲放射線は北陸地域の雷雲放射線より明らかに長く継続することが分かった。また、雷雲放射線の発生日時と雷や降雨の発生日時の比較から、チベット高原の雷雲放射線は雷や降雨が発生しやすい雨季の5月−9月に頻繁に起こることが分かった。北陸地域の雷雲の寿命は厳冬期には数分である一方、チベット高原を含めて夏の雷雲の寿命は30−60分である。これらの雷雲の寿命の差異が雷雲放射線の継続時間の違いに影響していると考えられる。また、一般的には雷雲が衰退する夜の時間帯である18時ー6時に多くの雷雲放射線が発生している傾向も見られた。これは、雷雲放射線の発生には従来考えられていたほど強い電場が必要ない可能性を示唆した。こうした日変動や季節変動に加えて、観測された雷雲放射線の年ごとの発生頻度が周期的な変動を示す兆候が見られた。この雷雲放射線の変動と太陽黒点数の年ごとの変動との比較から、雷雲放射線の発生は太陽活動の影響を受けているかもしれないことが推測された。
本講演では、上記のようなチベット高原で観測された雷雲放射線の時間特性について紹介し、高山での雷雲放射線の発生要因について議論する。