日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] 生物地球化学

2024年5月30日(木) 09:00 〜 10:30 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:福島 慶太郎(福島大学農学群食農学類)、木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、座長:山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、福澤 加里部(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)

09:00 〜 09:15

[MIS14-01] サンゴの窒素同位体比を支配する要因:独立栄養および従属栄養の影響評価

*李 謹岑1、力石 嘉人1 (1.北海道大学)

キーワード:アミノ酸、同位体、混合栄養

サンゴは、様々な海洋環境に生育する刺胞動物であり、海洋生態系の主要なメンバーである。また、サンゴの多くは「共生生物」としても知られ、彼らは自身の「ポリプ」という組織内に渦鞭毛(褐虫藻)を住まわせている。これは、サンゴが、捕食を介した「従属栄養」だけでなく、共生藻類が「独立栄養」で獲得した物質も利用できる「混合栄養」的な生き方も行える生物であることを示す。しかし、実際に彼らが、どのようにして物質・エネルギーをやりくりして生きているかについては、従来の研究手法では評価が難しく,定量的な議論ができなかった。本研究では、海洋生態系の物質循環における「混合栄養性を示す共生生物の役割」を定量的に理解することを目的として、約20種のサンゴを対象として、①サンゴが独立栄養で成長する場合(共生藻類由来の光合成産物のみを用いて成長する場合)と、②従属栄養で成長する場合(共生藻類由来の光合成産物に加えて、エサとして、植物プランクトンと動物プランクトンの混合物を与える場合)を実験室内で再現し、それぞれの栄養摂取バランスについて、近年生物内での窒素利用や循環を知る手段として広く用いられている「アミノ酸の窒素同位体比(δ15NAA値)」を用いて評価した。
得られた結果は、独立栄養および従属栄養で育てたサンゴの間で、同一種内および異種間において、δ15NAA値に大きな多様性を示した。独立栄養で成長した場合、δ15NAA値は、共生藻類由来の光合成産物の吸収と、サンゴの生体内におけるアミノ酸分解に伴う同位体分別(脱アミノ化)によって説明できた。具体的には、スターポリプCLのδ15NAA値は、共生藻類の値とほぼ同一であり、アミノ酸分解の同位体分別の影響が少ないと考えられた。一方で、スターポリプFGのδ15NAA値は、共生藻類の値より顕著に大きいため、アミノ酸分解の同位体分別の影響が大きいと考えられた。また、従属栄養で成長した場合には、δ15NAA値には、従属栄養の程度(エサをほとんど利用しないか、あるいはかなりの割合で利用するか)によって大きなバラツキがあった。具体的には、スターポリプMGのδ15NAA値は、エサの利用がほとんどないことを示し、一方で、スターポリプLPのδ15NAA値は、ほとんど従属栄養で成長していることを示した。
本研究により、サンゴの栄養状態、すなわち、「混合栄養」的な物質・エネルギー獲得形態の種内および種間の多様性が、サンゴの窒素同位体比を決定する要因であることが明らかになった。またこれらの知見は、天然の海洋生態系における「混合栄養を示す共生生物の役割」の栄養獲得経路を識別したり、栄養状態を定量的に評価したりするために有用であることを示唆している。