日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] 生物地球化学

2024年5月30日(木) 09:00 〜 10:30 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:福島 慶太郎(福島大学農学群食農学類)、木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、座長:山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、福澤 加里部(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)

09:15 〜 09:30

[MIS14-02] 硝化細菌によるN2O生成の海洋酸性化に対する応答

*豊田 栄1、佐藤 健1、平根 達朗1、松井 智哉1、藤原 健智2吉田 尚弘3,4 (1.東京工業大学物質理工学院、2.静岡大学理学部、3.東京工業大学地球生命研究所、4.情報通信研究機構)

キーワード:一酸化二窒素、硝化、海洋酸性化

大気中二酸化炭素濃度の増加による海洋酸性化が海洋生物および生物地球化学過程に及ぼす影響が懸念されている。近年、酸化的環境における微生物の主要な窒素代謝である硝化(アンモニア酸化)速度および一酸化二窒素(N2O)生成速度が酸性化に呼応して変化することが数例報告されている。N2Oはアンモニア酸化の最初の過程で生じるヒドロキシルアミン(NH2OH)が亜硝酸(NO2)へと酸化される過程で副生成物として、あるいは生成したNO2の一部が還元されることにより生成する。N2Oは主要な温室効果気体の一つであると同時に最も主要なオゾン層破壊気体であるため、海洋酸性化に対する硝化によるN2O生成の応答を調べることは将来の地球環境を予測するのに不可欠である。本研究では、海洋性硝化細菌によるN2O生成速度および生成経路が種々の溶存酸素(DO)条件において示すpH依存性を,N2O濃度および安定同位体比を用いて明らかにすることを目的とした。
Nitrosococcus oceani strain NS58を1Lの模擬海水培地中で25℃、DO 4条件(大気に対する飽和度100%, 70%, 35%, および3%)においてpH 7.7, 8.0, 8.3の3条件で50-70時間培養した。アンモニア濃度(初期値38 mM)は時間経過とともに減少したが水温、溶存酸素濃度とpHは連続通気培養装置を用いることにより一定に制御した。系外に排出される空気(200 ml/min)を赤外吸収式ガス分析計に導入してN2O濃度をリアルタイムで測定するとともに、随時1Lガラス容器に分取しGC-IRMSを用いてN2Oの安定同位体比を測定した。
培養期間中の気相N2O濃度(供給空気中濃度からの増分)は0.1–3 ppmの範囲で推移し、N2O生成速度は1–11×10−17 mol h−1 cell−1 と推定された。培養初期を除くと、N2O生成速度はpHが低いほど大きくなる傾向が認められた。NO2の濃度変化から求めたアンモニア酸化速度も同様のpH依存性を示した。
培養槽で生成したN2Oのd15Nbulk, d18O, SP(= d15Na − d15Nb, a, bはそれぞれ分子内中央と端を表す)はそれぞれ−57–−10‰, 10–35‰, 11–31‰の範囲で変動し、d15NbulkはpH減少に伴って減少し,律速段階の変化による同位体効果の増大を示唆した。d18OはDO100%ではpH依存性を示さなかったが,DO35%および3%では培養時間の経過とともに減少し,pHとの間に正相関がみられた。SPもDO35%および3%で培養時間の経過とともに減少したが,pHに対する正相関はDO3%でのみ観察され,他のDO条件ではほぼ一定であった。これらの結果から, NH2OH酸化経路とNO2還元経路いずれのN2O生成速度も酸性化により増加し,後者は低DO条件で前者よりもpHに対する感度が高いことが示唆された。