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[MIS14-P06] 伊豆半島のサクラ類に含まれるクマリン含有量と地質の関係
キーワード:伊豆半島ジオパーク、オオシマザクラ、高速液体クロマトグラフ、クマリン
駿河湾に面した伊豆半島の西部に位置する松崎町は、変化に富んだ美しい海岸線と豊かな自然環境に囲まれ地域で、町の特産である「桜葉漬け」は全国シェア7割の生産量を誇る。桜葉漬けに使われるのは、この地域の山地や海岸に自生していたオオシマザクラ(Cerasus speciosa)で、かつては山地に生育する樹から採葉されていたが(山採り)、現在は里山に設けられた桜葉畑にて集約的に管理・栽培がおこなわれている。オオシマザクラは一般に潮風や強風といった過酷な環境に強い特徴があるとされ、冬季に西よりの季節風が卓越する伊豆の南西海岸の風土に合った樹種であるいえる。桜葉漬けは採取された葉を束ねて、専用の樽で半年程度塩漬けされた後出荷される。地元生産者の間では経験的に、サクラ類の中でもオオシマザクラが、また伊豆半島地域の中でも松崎町や南伊豆町など西南地域のものほど、また畑で栽培されたものより山採りのサクラのほうが香りが高いと言われてきた。本研究はこうした経験則を裏付けるデータを得る目的で、桜葉の香りのおもな成分であるとされるクマリン含有量の分析をおこなった。伊豆半島各地から採取されたオオシマザクラを含むサクラ類34サンプルについて、葉を約3か月塩漬けして含まれるクマリン含有量を高速液体クロマトグラフ法(HPLC)により求めた。その結果、単位重量あたりのクマリン含有量が最も高いのは、伊豆半島の東海岸に位置する城ヶ崎海岸に自生するオオシマザクラの葉であることが明らかになった。この結果は生産者の経験則とは異なるものであり、単純に伊豆半島南西地域のオオシマザクラのクマリン含有量が高いわけではないことがわかった。また、分析によりサクラ類の生育環境とクマリン含有量に若干の相関がみられ、畑地で栽培されたサクラは含有量が低い結果となった。このことは生産者の経験則を裏付けるものである。桜葉中のクマリン含有量と地質環境との関係をみると、畑地などの土壌が厚く、比較的栄養状態の良好な場所に生育する個体ほど含有量が低くなる傾向がみられた。