日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS15] 地球表層における粒子重力流のダイナミクス

2024年5月29日(水) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、酒井 佑一(宇都宮大学農学部)、志水 宏行(砂防・地すべり技術センター)、田邊 章洋(防災科学技術研究所)

17:15 〜 18:45

[MIS15-P05] 一冬期の積雪状況を反映させた確率論的雪崩ハザードマップの試作

*田邊 章洋1砂子 宗次朗1、西村 浩一2 (1.防災科学技術研究所、2.名古屋大学名誉教授)

キーワード:雪崩、ハザードマップ、不確実性

雪国において雪崩は古くから被害が記録されている重力流災害である。そのような雪崩災害に対抗する手段の一つとして、雪崩の到達範囲を推定するために、見通し角を用いた手法が用いられてきた(Bakkehøi et al., 1983)。見通し角を用いた手法は簡便である一方で、流れの厚さや速度、圧力などを得ることが困難である。そのため、近年の数値モデルや計算機の発達に伴い、ダイナミクスモデルを用いたハザードマップも作成され始めている(Issler et al., 2023)。このようなハザードマップでは、雪崩発生危険区(Potential release areas: PRAs)を推定し、各PRAにおける典型的な雪崩のパラメータ(発生量や摩擦係数等)を設定して数値計算を実施し、到達範囲が示される。このようにして得られたハザードマップは、見通し角を用いたものよりもよい結果を示すことが知られているが、数値計算に用いられるパラメータは、本来発生以前には不確実性を持つ。本研究では入力値の持つ不確実性を反映させて得られる確率論的雪崩ハザードマップを試作した。
本研究では、まず、地形条件等からPRAsを推定する。推定したPRAsに対して、不確実性を持つモデルの入力値を考慮してダイナミクスモデルの計算を実施する。この時、入力値の不確実性は確率分布で表されると仮定する。このような不確実性を考慮したハザードマップを確率論的ハザードマップと呼び、到達範囲とその確率値を示す。この不確実性を表す確率分布として、例えばあるPRAにおける一冬期の間の積雪量や取りうる摩擦係数の上下限を持つ一様分布を考えれば、そのPRAで発生しうる潜在的な雪崩の危険性を示す。不確実性の評価方法はモンテカルロ法など複数存在しているが、本研究ではDalbey et al., (2008)で提案された多項式カオス求積法(Polynomial chaos quadrature:PCQ)を用いる。PCQ法は、例えば最大流れ厚さのような数値計算の結果を、不確実性を持つ入力値の多項式で近似する手法である。この手法は入力値が少ないという条件の下で、モンテカルロ法よりも早い収束を示すため、PCQ法により、省計算コストで任意の確率分布を考慮した確率論的雪崩ハザードマップ作成が可能となる。発表では、具体的な地域におけるPRAsの推定及び各PRAにおいて一冬期の積雪状況の変化を反映させた確率分布に対する確率論的ハザードマップを試作した結果について紹介する。