14:15 〜 14:30
[MIS17-02] 清朝時代の日記による中国近代の降水量降雨量の復元:改良Green Amptモデルを用いて
キーワード:古日記、土壌水分
過去の気候を再現することは、将来気候の変動要因を理解する上で重要であり、日記や公式文書を用いた古気候の推定が数多く取り組まれてきた。本研究では中国北西部の甘粛省における、清朝時代に公的に記録された、1747年~1860年までの92地点、31347個の降雨後の土壌浸透深データ(Yu-Fen-Cun)を活用して、当時の雨量の再現を試みる。
Yu-Fen-Cunを用いた雨量の再現を行った既往研究は複数存在する。しかし、それらは全て現代での現地観測・浸透試験を基に、雨量および初期土壌水分量と浸透深さの関係を回帰分析により求め、過去の土壌浸透深データに適用している。ただし観測や浸透試験を行うためのコストは大きく、全ての観測点について現地実験を行うことは現実的でない。また回帰分析を行うためのサンプル数は豊富ではないため、この回帰モデルは観測地点ごとに差異があることが予想される。このため、観測地点の違い・時間的に頑健な物理モデルによる雨量の再現が求められるが、そのような取り組みはなされていない。
本研究では浸透に関する理論的な解析として最初期に提示されたGreen and Amptモデル(以下GAモデル)を、本研究の対象地域である乾燥帯への適用を目指した改良により降雨量の再現を行う。GAモデルは水分の土壌への鉛直一次元浸透を、ダルシー則と連続式を連立し表現している。GAモデルは浸透深さを過大評価する傾向にあり、様々な補正がなされてきた。本研究では、透水係数を伝達帯と不飽和帯の鉛直平均とするGill(1978)の方法に基づいた補正を行った。さらに、伝達帯は飽和しないという観測事実から、伝達帯の含水率もパラメータとした。
まず、中国北方において2008年に行った4.06~14.93mmの降雨を10分間降らせた人工降雨実験をもとにモデルの再現性を確認したところ、相関係数は0.86であった。
この改良された物理モデルを用い、年間180日以上の浸透深さのデータが存在した1801~1850年における雨量を、浸透深データの存在する92地点で再現した。
第一に、感度実験を行った。モデルのパラメータである初期含水率と伝達帯の含水率は、上記の中国北西部における実験値の平均値とし、同実験の最小値から最大値まで変化させた。伝達帯の含水率と初期土壌含水率の差に対する感度は低く、全てのシミュレーション結果は、平均値による計算結果から±10%の幅内であった。一方、初期含水率においては、値が0.05以下である場合を除き、同様に感度が低かった。このことから、極度に乾燥していた場合を除き、モデルは入力パラメータに対して頑健であることがわかった。
次に、実験で得られた平均値を用い降雨を再現した。各地点での平均年間雨量は0.1~121mmであり、全地点での平均雨量は46mmであった。月別の平均雨量は全観測点で12 ~ 2月には0mm、7~9月にピークを持ち、現在の中国北西部の乾燥帯の気候の傾向と一致している。時系列変化では、1813年にKoranで500mmを超える降雨量が再現された。他の44地点でも1801~1850年の50年間で1813年が最大の降雨量となっていた。Ge et al (2004)においても同じく50年間で最大の1000mを超える雨がShijiazhuangで再現されたと報告されている。さらに、空間分布については、経度100°以西では平均19.72mm,以東では平均88mmとなった。これは、北西から南東にかけて降水量が増加する現代の中国の分布と一致している。
Yu-Fen-Cunを用いた雨量の再現を行った既往研究は複数存在する。しかし、それらは全て現代での現地観測・浸透試験を基に、雨量および初期土壌水分量と浸透深さの関係を回帰分析により求め、過去の土壌浸透深データに適用している。ただし観測や浸透試験を行うためのコストは大きく、全ての観測点について現地実験を行うことは現実的でない。また回帰分析を行うためのサンプル数は豊富ではないため、この回帰モデルは観測地点ごとに差異があることが予想される。このため、観測地点の違い・時間的に頑健な物理モデルによる雨量の再現が求められるが、そのような取り組みはなされていない。
本研究では浸透に関する理論的な解析として最初期に提示されたGreen and Amptモデル(以下GAモデル)を、本研究の対象地域である乾燥帯への適用を目指した改良により降雨量の再現を行う。GAモデルは水分の土壌への鉛直一次元浸透を、ダルシー則と連続式を連立し表現している。GAモデルは浸透深さを過大評価する傾向にあり、様々な補正がなされてきた。本研究では、透水係数を伝達帯と不飽和帯の鉛直平均とするGill(1978)の方法に基づいた補正を行った。さらに、伝達帯は飽和しないという観測事実から、伝達帯の含水率もパラメータとした。
まず、中国北方において2008年に行った4.06~14.93mmの降雨を10分間降らせた人工降雨実験をもとにモデルの再現性を確認したところ、相関係数は0.86であった。
この改良された物理モデルを用い、年間180日以上の浸透深さのデータが存在した1801~1850年における雨量を、浸透深データの存在する92地点で再現した。
第一に、感度実験を行った。モデルのパラメータである初期含水率と伝達帯の含水率は、上記の中国北西部における実験値の平均値とし、同実験の最小値から最大値まで変化させた。伝達帯の含水率と初期土壌含水率の差に対する感度は低く、全てのシミュレーション結果は、平均値による計算結果から±10%の幅内であった。一方、初期含水率においては、値が0.05以下である場合を除き、同様に感度が低かった。このことから、極度に乾燥していた場合を除き、モデルは入力パラメータに対して頑健であることがわかった。
次に、実験で得られた平均値を用い降雨を再現した。各地点での平均年間雨量は0.1~121mmであり、全地点での平均雨量は46mmであった。月別の平均雨量は全観測点で12 ~ 2月には0mm、7~9月にピークを持ち、現在の中国北西部の乾燥帯の気候の傾向と一致している。時系列変化では、1813年にKoranで500mmを超える降雨量が再現された。他の44地点でも1801~1850年の50年間で1813年が最大の降雨量となっていた。Ge et al (2004)においても同じく50年間で最大の1000mを超える雨がShijiazhuangで再現されたと報告されている。さらに、空間分布については、経度100°以西では平均19.72mm,以東では平均88mmとなった。これは、北西から南東にかけて降水量が増加する現代の中国の分布と一致している。