14:30 〜 14:45
[MIS19-04] 湿った砂表面における高速度斜め衝突:クレーター形成に伴う温度上昇およびクレーター形態に対する表面含水量の効果
キーワード:衝突実験、含水砂、クレーター、衝突プリューム、ハビタビリティ、火星クレーター
はじめに 近年、火星斜面もしくはクレーター壁面において、地下の氷が溶けて染み出したような季節性の黒い筋模様(RSL)が観測された。このような季節変化をはじめとする表層付近の温度上昇を伴うイベントは、水の三重点近傍環境下の火星表層において一時的な液体の水の存在可能性を左右する。火星表層で普遍的に発生する温度上昇イベントの一つとして小惑星衝突は、衝撃圧力による圧縮加熱で衝突点近傍を2000˚C以上まで温度上昇させ、弾丸の蒸発や標的内の揮発性物質からの衝突プリュームを発生させる。さらに、衝撃波伝播後の標的内物質間では速度差によって摩擦が生じ、摩擦熱によりエントロピーが増大するため、衝撃圧力解放後も衝突残留熱として標的内部に熱が残存する。氷や液体の水を含んだ標的の場合、この衝突残留熱は標的内部での液体の水の生成または加熱、あるいは蒸発に使われる可能性がある。しかしながら、湿った砂標的でのクレーター形成に伴う温度変化に関する研究もまだ未踏な部分が多い。というのも、衝突加熱に関する摩擦熱を伴う複雑な現象を数値計算で再現するのが難しい上、シミュレーション結果が物質の状態方程式と空隙の圧縮特性などの物性に強く依存してしまう為、モデルの改善には実験データが必要である。一方実験的研究についても、実験室内において水を液体状態に保つことのできる大気圧近くでの高速度衝突実験が技術的に難しいため、不足している。小惑星探査機「はやぶさ2」の打ち上げ前に野外で行われたS C I(Small Carry-on Impactor)による湿った砂への高速度衝突実験では、標的からプリューム状の高温物質が噴出する様子が赤外線カメラによって捕らえられ、水蒸気プリュームの観測に成功したものの 、クレーター周囲の温度上昇や周辺大気の温度上昇については確認されなかった。そこで、本研究では水の三重点近傍条件下において湿った砂表面に対する高速度衝突実験を行い、クレーター形態だけでなく形成に伴う表面及び地下、周辺大気の温度上昇を定量的に調べた。
手法 衝突装置には神戸大学および宇宙科学研究所の横型二段式軽ガス銃を用いて、直径4.7mmのポリカ球を2km/s~4km/sで衝突させた。標的には粒径500μmの石英砂と水を様々な割合(0-13wt.%)で混合した試料を用い、クレーター形態、及び形成に伴う温度上昇の標的含水率依存性を評価した。温度観測には高速赤外線カメラ(3000fps)を用いて、標的表面やエジェクタ表面の温度変化を観測した。さらに、衝突点直上に表面からの高度が異なる5地点に熱電対を設置し(1cm, 5cm, 10cm, 15cm, 20cm)、標的周辺大気の各高度における温度変化を計測した。ただし、使用した熱電対はK型の線形127µmでサンプリングレートは10msである。
結果 衝突直後にはプラズマや衝突方向(下流)に広がるジェットが観測され、高含水率の標的(≧8 wt.%)では標的表面に対して垂直上方に噴出する白いプリュームが視認され、衝突後0.1sほどで消滅した。クレーター内部の標的物質は250˚C以上まで温度上昇し、そのうちのほとんどが高温のエジェクタとして衝突方向(下流)に放出された。一方、衝突方向(下流)以外には、クレーター地下から掘削された15˚C以下の低温のエジェクタが放出された。これらの温度は含水率が低いほど低温であり、含水率0 wt.%標的のエジェクタの最高温度は350˚C、含水率12 wt.%では250˚Cであった。しかし、含水率が高い標的ほど冷却速度は遅く、含水率0wt.%標的では衝突後0.4sで100˚Cを切るが含水率12 wt.%では衝突後1.5sでも100˚Cを超えており、含水率12 wt.%標的の冷却曲線は熱伝導による冷却では説明できなかった。これは、含水率0 wt.%では砂粒子が個々に放出されるため、砂粒子の体積に対して大気に触れる表面積の割合が大きく放射効率が高い一方、含水率12 wt.%では砂粒子が互いに付着し合い塊を形成するため、エジェクタ塊の体積に対して大気に触れる表面積の割合が比較的小さく放射効率が低いことに起因するかもしれない。さらに、クレーター形成に伴う周辺大気の温度上昇がエジェクタの冷却曲線と整合的であったことから、大気中に放出される高温のエジェクタと低温のエジェクタがクレーター周辺大気の熱源および冷却源となっている可能性が示唆された。本発表ではこれら温度上昇の含水率依存性について議論する。
手法 衝突装置には神戸大学および宇宙科学研究所の横型二段式軽ガス銃を用いて、直径4.7mmのポリカ球を2km/s~4km/sで衝突させた。標的には粒径500μmの石英砂と水を様々な割合(0-13wt.%)で混合した試料を用い、クレーター形態、及び形成に伴う温度上昇の標的含水率依存性を評価した。温度観測には高速赤外線カメラ(3000fps)を用いて、標的表面やエジェクタ表面の温度変化を観測した。さらに、衝突点直上に表面からの高度が異なる5地点に熱電対を設置し(1cm, 5cm, 10cm, 15cm, 20cm)、標的周辺大気の各高度における温度変化を計測した。ただし、使用した熱電対はK型の線形127µmでサンプリングレートは10msである。
結果 衝突直後にはプラズマや衝突方向(下流)に広がるジェットが観測され、高含水率の標的(≧8 wt.%)では標的表面に対して垂直上方に噴出する白いプリュームが視認され、衝突後0.1sほどで消滅した。クレーター内部の標的物質は250˚C以上まで温度上昇し、そのうちのほとんどが高温のエジェクタとして衝突方向(下流)に放出された。一方、衝突方向(下流)以外には、クレーター地下から掘削された15˚C以下の低温のエジェクタが放出された。これらの温度は含水率が低いほど低温であり、含水率0 wt.%標的のエジェクタの最高温度は350˚C、含水率12 wt.%では250˚Cであった。しかし、含水率が高い標的ほど冷却速度は遅く、含水率0wt.%標的では衝突後0.4sで100˚Cを切るが含水率12 wt.%では衝突後1.5sでも100˚Cを超えており、含水率12 wt.%標的の冷却曲線は熱伝導による冷却では説明できなかった。これは、含水率0 wt.%では砂粒子が個々に放出されるため、砂粒子の体積に対して大気に触れる表面積の割合が大きく放射効率が高い一方、含水率12 wt.%では砂粒子が互いに付着し合い塊を形成するため、エジェクタ塊の体積に対して大気に触れる表面積の割合が比較的小さく放射効率が低いことに起因するかもしれない。さらに、クレーター形成に伴う周辺大気の温度上昇がエジェクタの冷却曲線と整合的であったことから、大気中に放出される高温のエジェクタと低温のエジェクタがクレーター周辺大気の熱源および冷却源となっている可能性が示唆された。本発表ではこれら温度上昇の含水率依存性について議論する。