17:15 〜 18:45
[MIS20-P05] 津波痕跡高分布から推定される明応東海地震の波源断層モデルによる津波堆積物の数値的再現性
キーワード:歴史地震、津波堆積物、明応東海地震、津波土砂移動計算
南海トラフ沈み込み帯で発生した明応東海地震に伴う津波は和歌山県から千葉県の太平洋沿岸部の広範囲にわたって被害を及ぼした.これまで安中ほか(2003)や阿部(2017)による津波波源モデルの推定やKitamura et al. (2020)により海底地すべりが津波を励起した可能性が示唆されているが,昭和東南海・南海地震や安政東海・南海地震,宝永地震に比べて津波痕跡が少なく波源推定にはさらなる検証の余地がある.そこで本研究では津波痕跡高分布(津波痕跡データベース;東北大学・原子力規制庁)と三重県南伊勢町こがれ池の浜提高さを拘束条件として推定した津波波源モデル(楠本ほか,2023)と津波土砂移動解析モデル(TUNAMI-STM; 高橋ほか,1999; Sugawara et al., 2019)を用いて,三重県南伊勢町こがれ池(Shimada et al. 2023)・静岡県湖西市白須賀(Komatsubara et al. 2008)・静岡県焼津市浜当目(Kitamura et al. 2020)の津波堆積物の数値再現および観測事実との比較に基づいた検証を行う.
こがれ池は外海との間に約5 mの浜堤を持つ沿岸湖沼である.白須賀と浜当目は海抜標高5 m以下の沿岸低地で,海岸線に沿って幹線道路や海岸構造物が整備されている.いずれも沿岸の地形を地震発生当時のものに近付けるため,国土地理院が公開している数値標高モデルから主要な幹線道路や海岸構造物を除去し,デジタル伊能図(村山監修,2015)の旧汀線を参考に海岸線を復元した.津波波源モデルは楠本ほか(2023)の五枚小断層モデルを採用した.計算時間は地震発生から3時間後までと設定した.また明応東海地震に相当する津波堆積物の粒度は三地点とも細粒砂から粗粒砂で構成されることから,土砂移動数値解析で用いる平均粒径は0.267 mmとして計算を実行した.
こがれ池には最大4.6 mの津波が来襲して,少なくとも3回浜堤を乗り越えてこがれ池内部に侵入した.土砂の堆積量は地震発生からおよそ22分後に到達する第一波による寄与が最も大きい.地震発生から3時間後にはおよそ40 cmの土砂が池内部に堆積した.一方,堆積物コアの明応東海地震に相当する津波堆積物の堆積層厚は1 cm未満であったと報告されており,計算結果と大きな差異があった.これは地震当時の浜提高さが不確かであるため,数値計算では現実よりも大きな津波が侵入して過剰な土砂の堆積が生じたためだと推測される.
白須賀には最大6.8 mの津波が来襲して,少なくとも7回浜堤を乗り越えて沿岸低地に侵入した.土砂の堆積量は地震発生からおよそ110分後と130分後に到達する第五波と第七波による寄与が大きく,地震発生から3時間後にはおよそ49 cmの土砂が堆積した.堆積物コアの明応東海地震に相当する津波堆積物の堆積層厚は最大50 cmであったと報告されており計算結果と概ね整合した.
浜当目には最大5.8 mの津波が来襲して,少なくとも8回浜堤を乗り越えて沿岸低地に侵入した.土砂は津波が押し寄せるたびに堆積と浸食を繰り返し,地震発生から3時間後にはおよそ28 cmの土砂が堆積した.堆積物コアの明応東海地震に相当する津波堆積物の堆積層厚は最大35cmであったと報告されており計算結果と概ね整合した.
以上の検証から,計算結果と観測事実は概ね整合的で津波波源モデルに対する津波堆積物の利用可能性を示すことができた.一方で,こがれ池の結果から津波来襲時における地形復元(浜堤の高さ・汀線の位置など)の重要性が明らかとなった.今後こがれ池の浜提高さを調整して津波土砂移動解析を実施する,地中レーダーによる観測事実に基づいて過去の浜提高さを定量的に復元するなど,津波波源モデルに対する津波堆積物の利用可能性について検証を行う.
謝辞:本研究は R2-6年度文部科学省「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」(研究代表者:海洋研究開発機構 小平秀一)の一環として行われました.
こがれ池は外海との間に約5 mの浜堤を持つ沿岸湖沼である.白須賀と浜当目は海抜標高5 m以下の沿岸低地で,海岸線に沿って幹線道路や海岸構造物が整備されている.いずれも沿岸の地形を地震発生当時のものに近付けるため,国土地理院が公開している数値標高モデルから主要な幹線道路や海岸構造物を除去し,デジタル伊能図(村山監修,2015)の旧汀線を参考に海岸線を復元した.津波波源モデルは楠本ほか(2023)の五枚小断層モデルを採用した.計算時間は地震発生から3時間後までと設定した.また明応東海地震に相当する津波堆積物の粒度は三地点とも細粒砂から粗粒砂で構成されることから,土砂移動数値解析で用いる平均粒径は0.267 mmとして計算を実行した.
こがれ池には最大4.6 mの津波が来襲して,少なくとも3回浜堤を乗り越えてこがれ池内部に侵入した.土砂の堆積量は地震発生からおよそ22分後に到達する第一波による寄与が最も大きい.地震発生から3時間後にはおよそ40 cmの土砂が池内部に堆積した.一方,堆積物コアの明応東海地震に相当する津波堆積物の堆積層厚は1 cm未満であったと報告されており,計算結果と大きな差異があった.これは地震当時の浜提高さが不確かであるため,数値計算では現実よりも大きな津波が侵入して過剰な土砂の堆積が生じたためだと推測される.
白須賀には最大6.8 mの津波が来襲して,少なくとも7回浜堤を乗り越えて沿岸低地に侵入した.土砂の堆積量は地震発生からおよそ110分後と130分後に到達する第五波と第七波による寄与が大きく,地震発生から3時間後にはおよそ49 cmの土砂が堆積した.堆積物コアの明応東海地震に相当する津波堆積物の堆積層厚は最大50 cmであったと報告されており計算結果と概ね整合した.
浜当目には最大5.8 mの津波が来襲して,少なくとも8回浜堤を乗り越えて沿岸低地に侵入した.土砂は津波が押し寄せるたびに堆積と浸食を繰り返し,地震発生から3時間後にはおよそ28 cmの土砂が堆積した.堆積物コアの明応東海地震に相当する津波堆積物の堆積層厚は最大35cmであったと報告されており計算結果と概ね整合した.
以上の検証から,計算結果と観測事実は概ね整合的で津波波源モデルに対する津波堆積物の利用可能性を示すことができた.一方で,こがれ池の結果から津波来襲時における地形復元(浜堤の高さ・汀線の位置など)の重要性が明らかとなった.今後こがれ池の浜提高さを調整して津波土砂移動解析を実施する,地中レーダーによる観測事実に基づいて過去の浜提高さを定量的に復元するなど,津波波源モデルに対する津波堆積物の利用可能性について検証を行う.
謝辞:本研究は R2-6年度文部科学省「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」(研究代表者:海洋研究開発機構 小平秀一)の一環として行われました.