日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS21] 地球流体力学:地球惑星現象への分野横断的アプローチ

2024年5月29日(水) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:伊賀 啓太(東京大学大気海洋研究所)、吉田 茂生(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、柳澤 孝寿(国立研究開発法人海洋研究開発機構 海域地震火山部門)、相木 秀則(名古屋大学)

17:15 〜 18:45

[MIS21-P07] 相変化を伴う流れの数値計算:遅い流れを速く解くその4

*川田 佳史1 (1.海洋研究開発機構・海洋機能利用部門・海底資源センター)

キーワード:相変化、浸透流、数値計算

これまで、非圧縮のNavier-Stokes流れおよび浸透流(Darcy流)の熱対流に対して、弱圧縮近似を用いた陽解法の適用およびRunge-Kutta法による陽解法の加速化を行ってきた(川田, 2020, 2023, JpGU)。本発表では、この方法を、Navier-Stokes式に従うふつうの流体とDarcy則に従う浸透流が共存する系に適用する。例題として、両者が決まった幾何学で配置している場合、時間変化する相変化を伴う系を扱う。前者の系は、たとえば熱水プルームの系に適用できる。後者の系は、地球形成初期のマグマオーシャンの固化、地球中心核の成長、マグマだまりの固化、海底熱水噴出孔での硫化物チムニーの形成、など幅広い応用課題につながる。

まずNavier-Stokesの系とDarcyの系の接続が可能であることを確認しておく。両者には、非圧縮性流体に対するNavier-Stokes式の粘性項を速度に比例した項(Darcy抵抗)としたのがDarcy則であるという関係がある。また、境界条件を自由滑りとした場合の Navier-Stokes流れの速度場・圧力場は、そのままDarcy流の速度場・圧力場となり得る(ただしFourier成分が異なるため、片方の定常解がもう一方の定常解、とはならない)。この性質から、たとえば速度場を粘性抵抗とDarcy抵抗の和で与え、その配分が浸透流の空隙率に応じて変化する(あるいは両者をある基準で切り替える)設定を行えば、両者が共存する系を構成できる。粘性抵抗とDarcy抵抗をなめらかにつなげることは、マントル対流における相変化の古典的な扱い(Christensen and Yuen, 1985)と類似である。

例題の一つとして、ここでは地球中心核の固化を模擬した2相共融系の固化の問題を取り上げる(たとえばWorster, 1991; 中心核では、内核の上側が固化し、そのさらに上側にある液相の外核に軽元素が放出される)。ある組成を持った2成分系の流体を下から冷却する。ここで共存する液体の組成(密度)は低温側あるいは幾何学的には下方ほど薄い(軽い)とする。簡単のために局所熱力学平衡が成り立つと仮定しておく(液相の組成は与えられた相平衡図だけで指定できる)。固液共存領域において液体は下側ほど軽いため、この系では密度不安定を伴う組成対流が駆動され得る。軽く薄い流体が上昇して上側の固液共存領域に侵入すると、相図にしたがって固相を溶かすことになる。逆に、重く濃い流体が下降すると相図に従って固相を増やすことになる。したがって、上昇流では空隙が少なくなり、下降流では空隙が詰まっていくフィードバックもはたらく。

このように、空隙率が変化する系の数値計算を行った。固相と液相が共存する場合はDarcy抵抗が働くが、空隙が小さいほど抵抗は大きくなるため浸透率(流れやすさ。抵抗の逆数に比例)は空隙率の増加関数となる。Darcy抵抗の浸透率が変化することは、粘性抵抗で粘性率が変わることと類似である(抵抗が何桁も変わるこの系を陰解法で解くのが大変であることは容易に想像されよう)。この系をSIMPLE系の手法で解くと、固相が少ない間は計算は軽快に進むが、固相が増えてくると収束は極端に悪くなる。そこで陽解法の出番である。陽解法をNavier-Stokesで粘性率が何桁も変わる系に適用可能なことは確かめられており(Takeyama et al., 2017)、本研究の系にも適用可能である。