日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS21] 地球流体力学:地球惑星現象への分野横断的アプローチ

2024年5月29日(水) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:伊賀 啓太(東京大学大気海洋研究所)、吉田 茂生(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、柳澤 孝寿(国立研究開発法人海洋研究開発機構 海域地震火山部門)、相木 秀則(名古屋大学)

17:15 〜 18:45

[MIS21-P08] 無限段のCIP法とその仲間たち

*川田 佳史1 (1.海洋研究開発機構・海洋機能利用部門・海底資源センター)

キーワード:CIP法、微分方程式、数値計算法

かつてCIP法と呼ばれる数値計算法が一世を風靡した(矢部ほか, 2003)。CIP法は元々は移流方程式を解くために考案された手法であるが、偏微分方程式一般に適用可能である。この方法では通常、元の微分方程式と、元の微分方程式を空間で微分した式の両方を解く。また、従属変数(場の変数)として、元の変数と、元の変数を空間で微分した変数の両方を取る。手持ちの情報が多いので高精度であり、かつ格子法としてみた場合の空間的な広がりは小さい(ただし境界条件の設定は面倒である)という特徴を持つ。元々のCIP法(Tatewaki and Yabe, 1985)はセミラグランジュ系の手法であったが、通常の差分法として定式化したIDO法(Aoki, 1997)、有限要素法として定式化したCIP-BS法(Utsumi and Kimura, 2004)、有限体積法として定式化した方法(肖ほか, 2009)もある。いまやCIP法系の手法は空間微分した量だけを扱うのではなく、場合によっては積分量も扱うことになったため、一連の手法はマルチモーメント法(肖ほか, 2009)と呼ぶのが適切である。

さて元々のCIP法は空間微分1段までを考えていたのだが、これを多段階に拡張したらどうなるだろうか?その答えはCIP-BS法の原論文(Utsumi and Kimura, 2004)にある。そこでは、CIP-BS法を無限段階適用すると区分的に連続な関数で補間したことになり、それは関数の直交関数による展開そのものであることが記されている。ただし、彼らの論文で実装されているのは2段までであり、多段解法におけるふるまいは必ずしも明らかではない。事情は差分系のIDO法でも同様である。本発表では、CIP-BS法およびIDO法を多段階適用した場合の実装を行い、そのふるまいについて考察したい。

本発表の内容は以下のとおりである。まずCIP-BS法およびIDO法で必要になる係数をできるだけ一般的な形で求める。差分系のIDO法を空間1次元に適用した場合を例にとる。着目する格子点およびその両隣の格子点にある変数を利用するものとし、両隣の点に配置された従属変数とその空間微分(達)を着目点に対してTaylor展開する。その結果を微分係数について解くことで、空間微分に対する差分近似が求まる。空間微分の段数が増えるとTaylor展開の係数が大量になり、手計算では手に負えなくなる。そこで数式処理ソフトウェアMaximaを用いて係数を求める。

次に、求まった係数を用いて基本的な微分方程式を解く。ここでは例として空間1次元のPoisson方程式をIDO法に適用した特殊な場合について述べる。係数一定のPoisson方程式の場合、多段法を適用して元の変数のk階微分までを従属変数を取ると、2階以上の空間微分は元のPoisson方程式から構成できてしまう。そこで、解く式は元の式のk階微分の式と、元の式のk+1階微分の式の2つとなり、求める量は従属変数の0階および1階微分だけである。つまり(ソース項が既知であるという強い制約のもとでは)2つの式だけから任意の制度の解が得られる。なお、係数一定のPoisson式については、Numerov法と呼ばれる3点差分で4次精度が得られる方法も適用できる。これを1段の通常のIDO法に適用すると、3点差分(情報としては6点)で6次精度が得られる。このNumerov-IDO法を多段IDOに適用することもでき、より高い精度の微分係数が得られる。(この場合、表題にある無限段CIPは得られなかった!)

発表では、IDO法やCIP-BS法を他の微分方程式にも適用する。この場合、Poisson方程式であったような特殊な性質はなく、元の式をk階微分した式(k=0,1,...)すべてを用いて解を求めていくことになり、無限段のCIP法が得られる。