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[MIS23-08] 堆積岩化学組成データの解析法:新旧手法による古気候と構造場判別の比較
キーワード:組成データ解析、多変量統計解析、機械学習、堆積岩
基本的な前提として、堆積物の地球化学データに対して統計分析、多変量分析、および人工知能(AI)を適用することができない。これは、地球化学データが実数ではなく組成データであり、サンプル空間が実空間ではないことによる。そのため、組成データでは四則演算、単位元(ゼロ)、距離関数、確率密度関数が定義されていない。さらに、組成データには固有の定数和制約が存在するため、統計解析、多変量統計解析、および人工知能を実施する前提条件を満たさない。 幸いなことに、対数比解析、単体解析、絶対量変動法の開発により、現在では堆積物の地球化学組成に対して多変量統計解析とAIが適用できるようになった。本公演では、具体的な例を通じて、多変量統計解析とAIが堆積物地球化学組成の解釈に与える影響と旧来の手法との比較について議論しする。 多変量統計解析の事例としては、土壌の地球化学組成から抽出された風化指標であるW値を紹介する。まず、未風化な火成岩とその風化産物(土壌)の地球化学データを世界中から収集した。このデータベースに対して単体解析を通じて主成分分析を実行した。その結果、「源岩の種類による化学組成変動」および「風化(W値)による化学組成変動」を数学的に直交化することに成功した。これら2つの化学組成変動は、生の地球化学組成データでは分離できないので、従来の風化指標では風化度を正確に定量化することができなかった。一方、W値は風化作用を独立化して定量化できる。さらに、W値を世界中の現代土壌に適用したところ、土壌が形成された気候を推定することができることがわかった。したがって、W値を地質記録(堆積岩と古土壌)に適用することで古気候を推定するのに利用できる。 次に、堆積物の地球化学組成からテクトニック構造場を識別するために、AIを適用した事例を示す。この研究では、現世の島弧(58)、大陸弧(89)、クラトン(99)、衝突帯(59)の堆積物の地球化学データを世界中から収集し、対数比解析を介した機械学習の一種であるランダムフォレストを実行した。構造場の正答率は、従来の識別図では47-67%であった。対照的に、対数比解析を用いたランダムフォレストの結果では、正答率は93.4%だった。この手法を堆積岩の化学組成に適用すれば、過去の構造場を復元することができる。 これらの事例は、対数比解析と単体解析を通じて堆積物の地球化学組成に多変量分析とAIを適用することは、さまざまな堆積学的問題を解決するための有望な方法であることを示唆している。