[M-TT37] 稠密多点GNSS観測が切り拓く地球科学の新展開

[MTT37-01] GNSSの統合解析によって明らかになった2020-2024年能登半島地震活動に伴う地殻変動

*西村 卓也¹、平松 良浩²、太田 雄策³ (1.京都大学防災研究所、2.金沢大学、3.東北大学)

キーワード：GNSS、地殻変動、群発地震、能登半島、ソフトバンク独自基準点

2020年11月30日から、能登半島においてM1以上の地震の総数が22,000回以上の活発な群発地震活動と時間変化する遷移的地殻変動が観測されている。2023年5月5日は、M_w6.2、2024年1月1日には、M_w7.5の大地震も発生した。本発表では、ソフトバンク株式会社の独自基準点を含む、複数機関のGNSS観測網を統合解析することによって明らかになった遷移的地殻変動と地震時地殻変動について報告する。遷移的な地殻変動は、2020年11月末の小規模地震のバースト型活動とともに始まった。最初の2年間の全体的な変位パターンは、群発地震の震源域を中心とした水平膨張と最大約60mmの隆起を示している。地殻変動の変動速度は、M_w6.2の地震時変動と余効変動の期間を除けば、時間とともに徐々に減少している。2024年1月1日の地震時地殻変動は、水平変位と鉛直変位が約2 mに達した。地震後４週間の余効変動のパターンは、地震時変動と類似しているが、震源域からの距離減衰が地震時よりも緩やかであるという点で異なっている。このような特徴は、マントルや下部地殻の粘弾性緩和が余効変動の主要因であることを示唆する。M_w6.2とM_w7.5の地震前の過渡的な変形を説明するために，観測された地震活動と地域テクトニクスに基づいて南東に傾斜した断層面を仮定し、その断層面上の逆断層すべり成分と開口成分の分布を推定した。最初の3ヶ月では、深さ〜15km付近で大きな開口成分が推定された。推定された体積の増加は〜1.4×10⁷m³である。その後15ヶ月間にわたって、観測された地殻変動は深さ14-16kmにおける南東傾斜の断層帯上に仮定した断層滑りと開口の両方によってよく再現された。この断層滑りと開口は、主に群発地震の震源の下方延長に位置する。このような推定結果に基づき、一連の活動のメカニズムを推定すると、群発地震震源域の南部において、2020年11月末に深部から上昇してきた流体が、深さ〜16kmで既存の低角な断層帯を通って拡散し、地震発生深度以下では長期間継続する非地震性すべりを引き起こした。これらの流体拡散や非地震性すべりが、地震発生深度でのM_w6.2やM_w7.5の大地震を含む激しい群発地震を誘発したと考えられる。

謝辞：本研究で使用したソフトバンクの独自基準点の後処理解析用データは、「ソフトバンク独自基準点データの宇宙地球科学用途利活用コンソーシアム」の枠組みを通じてソフトバンク株式会社とALES株式会社より提供を受けたものを使用しました。また、国土地理院から公開された後処理解析用データを使用しました。