17:15 〜 18:45
[MTT38-P03] 微気圧変動の超多点集中観測に見られる接地境界層擾乱の特徴
キーワード:微気圧変動、接地境界層、乱流、風速測定
1.研究背景
今田・中島(2022)は津波の早期警戒を念頭において,安価で広範に多数設置可能な微気圧観測システムを開発した[1].そのシステムは,気圧測定精度0.5Pa程度で35ms毎に測定でき,雷や乱流等による気象に起因する微気圧変動も捉える可能性が考えられる.平峯・今田・中島(2023)は渦や乱流といった接地境界層擾乱による微気圧変動の観測を試みるため,上の観測システムを適宜改良しつつ微気圧計を100台作成し,室内観測による較正方法を確立した後,野外の狭い範囲に集中的に配置して多点同時観測を行った[2].本発表では,そのデータの解析で今までに得られた結果について報告する.
2.構築した微気圧多点観測システム
静電容量式MEMS気圧センサDPS310をマイクロコンピュータM5Stack ATOM Liteに接続し乾電池で駆動する微気圧計を100台作成した.測定データはWi-Fiアクセスポイント経由でUDPパケット通信によりDebian GNU/Linux小型PCに収集する.測定頻度は35ms毎とした.微気圧計の時刻は各々の起動時に上記PC上のNTPサーバと同期した.
3.野外観測
2023年4月8日15時12分~17時20分に,九州大学理系図書館近くの平らな広場で観測を行った.100台の微気圧計は10×10の30㎝間隔の格子点に配置した.観測領域の形は正方形だが,一つの対角線が南北方向である.また,超音波風向風速計ULSA BASICを微気圧計領域から約2.8mの地点に置き,地上約1.5mの風を計測した.以下では,16時10分~16時44分のデータを解析した結果を示す.この間,安定したWi-Fi通信が実現し,35ms間隔で連続的にデータが得られた.これを5ms間隔で線形補間し,さらに100秒移動平均が揃うと仮定してバイアス補正をかけたものを解析に用いた.
4.結果
4.1 擾乱の構造
まず,気圧変動の定性的な特徴を捉えるため,観測された気圧の水平分布の時間変化を動画にした結果,孤立渦的な擾乱や波動的な擾乱が認識できた.擾乱の移動方向と風向は概ね対応していたが,擾乱の移動速度は対応する時刻の風速の半分程度であった.
4.2 孤立渦的な擾乱の追跡
明瞭な孤立渦的な擾乱について,中心付近の気圧分布を楕円放物面で近似[3][4]して中心位置を推定し,移動速度を計算した.その結果,擾乱が観測領域の十分内側にあれば,算出された移動速度は動画で見た場合と矛盾しなかった.今後,追跡可能な擾乱についてさらに調べる予定である.
4.3 時空間スペクトル
時空間フーリエ変換を行い,水平波数軸を東西・南北に変換し,東西波数について積分した結果を図に示す.パワーは低周波側ほど大きく,パワーの大きい部分は北進成分に偏っている.図の中に期間平均風速(2.66m/s)と対応する直線を引くと,その線に沿ってパワーの値が大きくなっている.このことは擾乱の移動が風速と対応することを意味しており,4.1及び4.2の結果と異なっている.理由については今後考察する.
Reference
[1] 今田衣美,中島健介,“地面の運動に伴って励起される大気ラム波観測のための微気圧観測システムの開発”,MTT45-P04,日本地球惑星科学連合2022年大会.
[2] 平峯拓実,今田衣美,中島健介,“微気圧変動の超多点集中観測の試み” ,MTT37-P03,日本地球惑星科学連合2023年大会.
[3] 林昌宏,下地和希,“大気追跡風算出アルゴリズム”,気象衛星センター技術報告,第58号,2013年2月.
https://www.data.jma.go.jp/mscweb/technotes/msctechrep58-1.pdf
[4] 浜田忠昭,“3.風計算”,気象衛星センター技術報告(特別号Ⅱ―2),GMSシステム総合報告,Ⅱ データ処理解説編,その2,p.15-42.
https://www.data.jma.go.jp/mscweb/technotes/msctechrep-sp_197903.pdf
謝辞
本研究はJSPS 科研費 22K18872 の助成を受けて行った.
今田・中島(2022)は津波の早期警戒を念頭において,安価で広範に多数設置可能な微気圧観測システムを開発した[1].そのシステムは,気圧測定精度0.5Pa程度で35ms毎に測定でき,雷や乱流等による気象に起因する微気圧変動も捉える可能性が考えられる.平峯・今田・中島(2023)は渦や乱流といった接地境界層擾乱による微気圧変動の観測を試みるため,上の観測システムを適宜改良しつつ微気圧計を100台作成し,室内観測による較正方法を確立した後,野外の狭い範囲に集中的に配置して多点同時観測を行った[2].本発表では,そのデータの解析で今までに得られた結果について報告する.
2.構築した微気圧多点観測システム
静電容量式MEMS気圧センサDPS310をマイクロコンピュータM5Stack ATOM Liteに接続し乾電池で駆動する微気圧計を100台作成した.測定データはWi-Fiアクセスポイント経由でUDPパケット通信によりDebian GNU/Linux小型PCに収集する.測定頻度は35ms毎とした.微気圧計の時刻は各々の起動時に上記PC上のNTPサーバと同期した.
3.野外観測
2023年4月8日15時12分~17時20分に,九州大学理系図書館近くの平らな広場で観測を行った.100台の微気圧計は10×10の30㎝間隔の格子点に配置した.観測領域の形は正方形だが,一つの対角線が南北方向である.また,超音波風向風速計ULSA BASICを微気圧計領域から約2.8mの地点に置き,地上約1.5mの風を計測した.以下では,16時10分~16時44分のデータを解析した結果を示す.この間,安定したWi-Fi通信が実現し,35ms間隔で連続的にデータが得られた.これを5ms間隔で線形補間し,さらに100秒移動平均が揃うと仮定してバイアス補正をかけたものを解析に用いた.
4.結果
4.1 擾乱の構造
まず,気圧変動の定性的な特徴を捉えるため,観測された気圧の水平分布の時間変化を動画にした結果,孤立渦的な擾乱や波動的な擾乱が認識できた.擾乱の移動方向と風向は概ね対応していたが,擾乱の移動速度は対応する時刻の風速の半分程度であった.
4.2 孤立渦的な擾乱の追跡
明瞭な孤立渦的な擾乱について,中心付近の気圧分布を楕円放物面で近似[3][4]して中心位置を推定し,移動速度を計算した.その結果,擾乱が観測領域の十分内側にあれば,算出された移動速度は動画で見た場合と矛盾しなかった.今後,追跡可能な擾乱についてさらに調べる予定である.
4.3 時空間スペクトル
時空間フーリエ変換を行い,水平波数軸を東西・南北に変換し,東西波数について積分した結果を図に示す.パワーは低周波側ほど大きく,パワーの大きい部分は北進成分に偏っている.図の中に期間平均風速(2.66m/s)と対応する直線を引くと,その線に沿ってパワーの値が大きくなっている.このことは擾乱の移動が風速と対応することを意味しており,4.1及び4.2の結果と異なっている.理由については今後考察する.
Reference
[1] 今田衣美,中島健介,“地面の運動に伴って励起される大気ラム波観測のための微気圧観測システムの開発”,MTT45-P04,日本地球惑星科学連合2022年大会.
[2] 平峯拓実,今田衣美,中島健介,“微気圧変動の超多点集中観測の試み” ,MTT37-P03,日本地球惑星科学連合2023年大会.
[3] 林昌宏,下地和希,“大気追跡風算出アルゴリズム”,気象衛星センター技術報告,第58号,2013年2月.
https://www.data.jma.go.jp/mscweb/technotes/msctechrep58-1.pdf
[4] 浜田忠昭,“3.風計算”,気象衛星センター技術報告(特別号Ⅱ―2),GMSシステム総合報告,Ⅱ データ処理解説編,その2,p.15-42.
https://www.data.jma.go.jp/mscweb/technotes/msctechrep-sp_197903.pdf
謝辞
本研究はJSPS 科研費 22K18872 の助成を受けて行った.