日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ44] 地質と文化

2024年5月26日(日) 13:45 〜 15:00 展示場特設会場 (1) (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:先山 徹(NPO法人地球年代学ネットワーク 地球史研究所)、川村 教一(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、鈴木 寿志(大谷大学)、座長:先山 徹(NPO法人地球年代学ネットワーク 地球史研究所)、川村 教一(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、鈴木 寿志(大谷大学)

13:45 〜 14:00

[MZZ44-01] 変動帯の地質と文化

*鈴木 寿志1 (1.大谷大学)

キーワード:地質文化、変動帯、日本文化、地質多様性

平成29年度(2017年度)〜平成32年度(令和2・2020年度;令和4年度まで延長)に実施された科学研究費助成事業・基盤研究B「変動帯の文化地質学」(課題番号 17H02008)での研究成果に基づき,書籍『変動帯の文化地質学』が京都大学学術出版会から上梓された。この本の中では,科研費研究の成果に加えて,新たな執筆も依頼し,5部編成31章,557ページに達する大著となった。総勢29名に達する執筆者の専門は,地質学に加えて歴史学・仏教学・造園学・文学・教育学・地理学と多岐にわたり,極めて学際性の高い内容となった。本講演ではこの書籍での執筆内容に基づき,変動帯の文化特性を安定大陸と比較しながら明らかにしていきたい。
 石材利用の観点で地質文化をみた場合,西洋の「石の建築物」との対比において,日本の「木と紙の建築物」が強調されがちである。しかし,城郭石垣・棚田・シシ垣に加え,明治期以降の近代石造建築物などの事例をみると,日本文化における石材の役割は決して軽視されるものではない。書籍の中で高橋直樹が指摘しているように,新成系・第四系の卓越する千葉県においてさえ,凝灰岩層を探し出して石材利用しているのである。
 一方で地質は日本の精神文化とも密接な関わりをもつ。縄文人は河原の石を集めて祭祀のための環状列石を作った。山地地方では岩石そのものに神性をみる岩石信仰の事例が多数確認される。崖には磨崖仏が彫られ信仰の場となった。修験者は山に登り荒業の場として祈りを捧げた。松尾芭蕉は宮城県の松島湾や山形県の立石寺などを訪れ,俳句の題材とした。宮沢賢治は岩石や鉱物を擬人化して生き生きと描いた。農作物を生み出す大地の性質は,栽培種の生育特性と密接に関わり,地域の食文化を形成した。
 このようにみると,日本の地質文化が単なる材としての利用だけでなく,精神文化や食文化とも密接に関わり,多種多様なことがみて取れる。その背景には,日本列島が大陸プレートの下に海洋プレートが沈み込む「プレート収束域」に位置することと無縁ではない。海洋プレートの沈み込みに伴う火成活動により,凝灰岩や花崗岩,安山岩といった比較的硬い岩石が生み出され,石材として利用されるようになった。急峻な山地地形や入り組んだ海岸地形の景観は,付加体の形成と断層活動によるところが大きい。このことは,日本列島に産する岩石の種類が極めて多種多様であり,地質多様性が高いことと関係している。一方で安定大陸の卓状地では,水平な地層が延々と続く。すなわち大地の表層地質は,同じ地層の連続に過ぎず極めて単調である。日本における多種多様な地質文化は,プレート収束域という変動帯に位置することによって育まれてきたといえよう。
 なお本講演の内容は,書籍『変動帯の文化地質学』の執筆成果に負うところが大きい。ここに演者を除く28名の執筆者にお礼申し上げたい。また科学研究費助成事業・学術成果公開促進費(学術図書)(課題番号 23HP5183)の助成ならびに京都大学学術出版会のご尽力により,本書の出版が実現できた。ここに感謝申し上げる。