日本地球惑星科学連合2024年大会

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[J] 口頭発表

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[O-02] なぜ生物は生体鉱物を作るのか?〜アート思考による科学の進展〜

2024年5月26日(日) 10:45 〜 12:00 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:荒木 優希(金沢大学)、豊福 高志(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、長井 裕季子(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、座長:豊福 高志(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、長井 裕季子(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)


10:50 〜 11:10

[O02-01] 生命形態の根源のかたち 
〜芸術と科学を横断したレオナルドの螺旋を起点に〜

*渡邊 晃一1 (1.福島大学 人間発達文化学類)

キーワード:アート、形態学、螺旋、レオナルド・ダ・ヴィンチ

レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci,1452-1519)をはじめとするルネサンス期の人文主義者は,コスモス(大宇宙)の縮図としてミクロコスモス(小宇宙)を捉えていた。それは当時,出版された『プラトン全集』を発端に「ネオ・プラトニズム」として広く浸透された見解である。古代ギリシアの哲学者,プラトン(Plato,BC427 - BC347)は,形態学やリズムを通して人体と宇宙との繋がりを論じている。アナロジーによって「かたち」を総体的に捉える思想は,ドイツの生物学者,哲学者であるエルンスト・ヘッケル(Ernst Heinrich Philipp August Haeckel, 1834-1919)やドイツの比較解剖学者,クラーゲス(Friedrich Konrad Eduard Wilhelm Ludwig Klages,1872-1956),さらには日本の三木成夫(1925-1987)の『生命形態学』の研究に連なるものである。
 「形態学(モルフィロギー)という言葉を生み出したゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe,1749 - 1832)が「形態」に共通した<原形>を追求したように,レオナルドもまた,肉眼解剖によって得られた近距離の感覚に,広大な宇宙の幅広い時間を織り込み,「螺旋」を基軸に生命の根源形象を解明しようとしている。
 2018年,パリ国立高等美術学校,エコール・デ・ボザール(École nationale supérieure des Beaux-Arts de Paris,以下ENSBA)の客員教授として論者はフランスに滞在した際,「美術解剖学(Artistic Anatomy)」を中心に,「芸術と科学」との関わりを考察した。「美術解剖学」は主に人体を中心とした,生物の解剖学的な構造を美術制作に応用するための知識体系である。時代の要請とともに授業は「形態学(Morphologie)」という講義名で開催され,人体の美術解剖学的把握に留まらず,人体と空間との関係性やものの見方に対する問題意識を喚起するものとなっていた。そこで扱われていた「自然の生命」への探究は,レオナルドの創造の源泉を育んだものとして位置づけられる。彼は人体解剖学,動植物や鉱物,地形や山岳などの生命を持った形態を横断して研究していた。彼の天才的な素質は,単に複数の学問分野を跨いでいたことではない。それよりも,学問を複合的に関連させて,研究を深化させたことにある。さらにその創造の源泉として彼を育んだものは,「自然を師としなければならぬ」とする信念であった。
 西洋においてArtは,philosophyとともにScienceと結びついてきた歴史的背景がある。本発表では古代ギリシアに始まり,ローマ,ルネサンスから近代までの「Art」と結びつく,philosophyとScienceの歴史的な流れを提示するとともに,レオナルド・ダ・ヴィンチの芸術と科学を行き来する視点から,生命の根源を「螺旋」をキーワードに提起していきたい。