日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 O (パブリック) » パブリック

[O-07] キッチン地球科学:多様な到達点を生む実験

2024年5月26日(日) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:熊谷 一郎(明星大学理工学部)、鈴木 絢子(東洋大学)、下川 倫子(奈良女子大学)、栗田 敬(東京工業大学 地球生命研究所)

17:15 〜 18:45

[O07-P08] 二酸化炭素センサーを用いた高校探究授業の試み 第2報

★招待講演

*栗田 敬1、城戸 文2、小笠原 祥子3 (1.東京工業大学 地球生命研究所、2.都立調布北高等学校、3.浜松聖星高等学校)

キーワード:二酸化炭素濃度、宇宙生物学、地球環境、土中微生物、探求型授業

本発表は2023年JPGUのセッションでの発表:宇宙生物学への道、高等学校における「探究型授業」の試み の続報である。先の発表では高等学校の教育で積極的に導入が進められている探究型授業の抱える様々な問題点を指摘し、その解決策の一例として二酸化炭素センサーを用いた実験授業プランを提案した。我々が指摘した問題点は、効果的な探究実験授業のためには教官の準備と環境整備が欠かせないが、熱意のこもった用意周到な準備をすればするほど「探究」の本質から外れて行ってしまうのではないかという矛楯である。用意周到な準備は得てして先を見通してデザインされた実験となりやすい。このような実験はそれを行う当事者にとっては「やらされている」という意識を持ち、探究心や好奇心を削ぐことになりかねない。この状況・矛楯を回避するためには教官側の意識の変革が必要ではないだろうか?、授業で取り扱う実験は誰がやっても同じことが再現されるものでなければならない、という意識を少し脇に置き、本セッションのテーマである「多様な結果を認める」、結果の読めない実験を導入することにより探究の本質に迫ることができると考える。実験において不確定さの余地を残し、「Open ended」な形の授業を企画することに不安を感じるかもしれないが、まず何よりも先生が指導をしなければならないという意識を捨て楽しめることが重要であると考える。このような意図のもとにこの一年間行ってきた授業の実践例を紹介する。


本授業の位置づけは生徒が後半期に時間をかけて取り組む探究課題の準備として、一通りの研究作業を体験すると言う目的に基づいたものである。謎・疑問の共有、その問題の背景の理解、実験の手作業、データの処理、結果の発表という一連の作業を3~4回の授業で行う。実験はバクテリアの繁殖状況を二酸化炭素センサーを用いて計測するというものであるが、二酸化炭素は地球の気象や環境問題など関心の高い物質で、背景説明として地球上での二酸化炭素の発生・吸収、炭素循環、生物の呼吸活動、光合成、地球の温暖化などの生徒の関心の高い事項に触れる。まず最初に校庭の様々な場所の土、砂を持ち寄り、そこから発生する二酸化炭素を測定し、バクテリアの活動を推定する。使用したセンサーはRATOC システム社製のRS-WFCO2、1分間隔で二酸化炭素濃度、温度、湿度を計測をする。CSV形式の計測データはWiFiを介してダウンロードでき、学内サーバーに格納し、生徒の手元の情報端末を利用しデータ処理を行う。データの処理、グラフ化、データの共有など一連の作業はIT教育、情報教育のよい実行体験となり、教育効果も高い。一連の作業に習熟した後、バクテリアの活動を活性化させるもの・不活性化させるものは何か、各自で考えるという課題を課し、実験で確認をする。あわせてVikingが行った火星での生命探索実験:火星の表層物質に養分を混ぜ、発生する二酸化炭素を測定する、を紹介し、本実験がアストロバイオロジーの研究にも通じていることを説明する。バクテリアが繁殖しやすい環境は公衆衛生上の問題であるとともに、有機農法の土作りや月・火星の長期滞在での作物生産、宇宙農業にも関連し、多様な展開の可能性をもっていることが本課題の特長である。生徒が提案してきたものは様々な奇想天外なものもあり、指導する立場の教官側もどうなるの?、と興味を持ってその結果を見守る事になった。幾つかの予想外の結果はポスターで紹介する。

今まではバクテリア源として市販の腐葉土を用いていたが、腐葉土は不均質性が強く、また雑多なバクテリアが混じり、試料毎に二酸化炭素の発生量が異なり、定量的な比較がしにくいという問題点があった。今回は市販の納豆菌を用い、大豆粉と水を混ぜ合わせてペースト状にしたものを菌源とした。これにより色々な条件下での実験の定量的な比較が可能となった。これ以外にも麹菌、酵母、カスピ海ヨーグルトのもとなども利用できる。実際に使用した実験ボックスはポスター会場で展示し、奇想天外なバクテリア繁殖実験を観察頂きたい。

本発表で報告した探究授業は以下の高校で2023年~2024年に行われたものです。このような機会を与えていただき、ご協力を頂いた高校、先生方に深く感謝いたします。

都立竹早高等学校、都立町田高等学校、都立調布北高等学校、浜松聖星高等学校、社)子供の成長と環境を考える会