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[O08-P89] 与論島における赤土,肥料および日焼け止めの流出状況と沈砂池・浸透池の効果についての研究
キーワード:誘導プラズマ発光分析装置、赤土、肥料、日焼け止め、沈砂池/浸透池
鹿児島県奄美群島の最南端に位置する与論島は,石灰岩を主とする琉球層群が発達し,その琉球石灰岩が風化して形成された赤土が表層を覆っている。また,島の総面積の半分以上を農耕地が占めている(鹿児島県与論町,2024)。海にはサンゴ礁が発達しており,年間約6万人の観光客が訪れる観光地である(鹿児島県,2024)。近年,人間活動による与論島の海洋汚染が問題となっており,重要な観光資源であるサンゴ礁の減少(池田・光,2022)による,観光業への多大な影響が懸念されている。与論島には赤土や農耕地からの海への流出の防止のため,沈砂池・浸透池が100箇所以上設けられているが,降雨後に多くの赤土・肥料が海に流出している可能性が考えられる。そこで,本研究では,与論島の海の汚染源として懸念されている赤土・肥料および日焼け止めに着目し,これらの成分の海への流出量と、沈砂池・浸透池の効果について、評価を行った。
本研究では,与論島において2023年6月17日(雨後),6月18日(雨後)と7月1日(晴れ),7月3日(晴れ)に,赤土の流出が確認されている排水路の下流,沈砂池・浸透池内の水及びその上流と下流,排水路の下流周辺の海水を含む計23地点において採取した。また,日焼け止めの成分の海水への溶出量を評価するため,聞き取り調査を実施し、与論高校生が使用している日焼け止め4種類,日焼け止め成分が規制されているビーチでも使用が可能な日焼け止め1種類の計5種類を海水に溶かし,恒温水槽中に,人の体温に近似した37℃の条件下で一昼夜静置した。これらのサンプルを東京大学大気海洋研究所にてICP-AESを使用し,P,Fe,Kの濃度を求めた。本研究では,Fe濃度を赤土,P濃度及びK濃度を肥料,P濃度を日焼け止めの流出や溶出の指標として議論を行った。先行研究で報告されている日本の雨水のFe濃度(0.107mg/l;片山・岡田ほか,1986),P濃度(0.04mg/l;田渕,1985),K濃度(0.08mg/l;高島,1955)の平均値と本研究で得られた各濃度の比較を行い,海への流出について議論を行った。
雨水と各排水路の下流のFe濃度の値を比較すると,雨水よりも排水路から採取された水のFe濃度が高くなっていることから,排水路の水には赤土が流出していることが示唆された。また,沈砂池・浸透池の上流,池の表層,下流,海岸から採取した水中に含まれるFe濃度は,それぞれ0.24mg/l,検出限界値以下,0.11mg/l,0.11mg/lとなっていた。上流と海岸のFe濃度を比較すると海岸のほうがFe濃度が低いことから,沈砂池・浸透池の効果はあると考えられる。また,P濃度とK濃度も同様に,雨水よりも排水路の水のほうが濃度が高濃度となっていたため,肥料の流出が示唆された。日焼け止めを溶かした水については,いずれの溶液もP濃度が全てICP-AESの検出限界以下であり,いずれの日焼け止めからもPの水への溶出は極微量であることが判明した。
本研究では,雨が降ることによってより多くの赤土由来のFe,肥料由来のP・Kが海へ流出していることが確認された。また,日焼け止めからのPの海水中への流出は確認されなかったが,赤土・肥料の流出状況や日焼け止めの成分の溶出の海洋環境への影響はより長期的な調査が必要であると考えられる。加えて沈砂池・浸透池については,赤土流出を完全に防止することはできないが,赤土の流出を減少させるという沈砂池・浸透池の効果があることが確認された。
参考文献・引用文献
池田香菜・光俊樹(2022).サンゴ礁生態系保全計画モデル事業後の与論島における取組 状況(環境省).
鹿児島県(2024-03-29).観光統計令和5年度奄美群島入込・入域客数
https://www.pref.kagoshima.jp/aq01/chiiki/oshima/chiiki/zeniki/oshirase/documents/38010_20240326195555-1.pdf, (参照2024年4月6日),2‐4.
農林水産省(2024).統計情報わがマチ・わがムラ鹿児島県与論町. https://www.machimura.maff.go.jp/machi/contents/46/535/index.html.
片山幸士・岡田直紀・山下洋・井上治郎・青木敦 (1986).環境指標としての降水中の微量元 素,京都大学農学部演習林報告,57,341.
田渕俊雄(1985).降水中の窒素とリン,水質汚濁研究,8,19.
高島良正(1955).雨水中のカリウムについて,日本化學雜誌,76,1150-1151.
本研究では,与論島において2023年6月17日(雨後),6月18日(雨後)と7月1日(晴れ),7月3日(晴れ)に,赤土の流出が確認されている排水路の下流,沈砂池・浸透池内の水及びその上流と下流,排水路の下流周辺の海水を含む計23地点において採取した。また,日焼け止めの成分の海水への溶出量を評価するため,聞き取り調査を実施し、与論高校生が使用している日焼け止め4種類,日焼け止め成分が規制されているビーチでも使用が可能な日焼け止め1種類の計5種類を海水に溶かし,恒温水槽中に,人の体温に近似した37℃の条件下で一昼夜静置した。これらのサンプルを東京大学大気海洋研究所にてICP-AESを使用し,P,Fe,Kの濃度を求めた。本研究では,Fe濃度を赤土,P濃度及びK濃度を肥料,P濃度を日焼け止めの流出や溶出の指標として議論を行った。先行研究で報告されている日本の雨水のFe濃度(0.107mg/l;片山・岡田ほか,1986),P濃度(0.04mg/l;田渕,1985),K濃度(0.08mg/l;高島,1955)の平均値と本研究で得られた各濃度の比較を行い,海への流出について議論を行った。
雨水と各排水路の下流のFe濃度の値を比較すると,雨水よりも排水路から採取された水のFe濃度が高くなっていることから,排水路の水には赤土が流出していることが示唆された。また,沈砂池・浸透池の上流,池の表層,下流,海岸から採取した水中に含まれるFe濃度は,それぞれ0.24mg/l,検出限界値以下,0.11mg/l,0.11mg/lとなっていた。上流と海岸のFe濃度を比較すると海岸のほうがFe濃度が低いことから,沈砂池・浸透池の効果はあると考えられる。また,P濃度とK濃度も同様に,雨水よりも排水路の水のほうが濃度が高濃度となっていたため,肥料の流出が示唆された。日焼け止めを溶かした水については,いずれの溶液もP濃度が全てICP-AESの検出限界以下であり,いずれの日焼け止めからもPの水への溶出は極微量であることが判明した。
本研究では,雨が降ることによってより多くの赤土由来のFe,肥料由来のP・Kが海へ流出していることが確認された。また,日焼け止めからのPの海水中への流出は確認されなかったが,赤土・肥料の流出状況や日焼け止めの成分の溶出の海洋環境への影響はより長期的な調査が必要であると考えられる。加えて沈砂池・浸透池については,赤土流出を完全に防止することはできないが,赤土の流出を減少させるという沈砂池・浸透池の効果があることが確認された。
参考文献・引用文献
池田香菜・光俊樹(2022).サンゴ礁生態系保全計画モデル事業後の与論島における取組 状況(環境省).
鹿児島県(2024-03-29).観光統計令和5年度奄美群島入込・入域客数
https://www.pref.kagoshima.jp/aq01/chiiki/oshima/chiiki/zeniki/oshirase/documents/38010_20240326195555-1.pdf, (参照2024年4月6日),2‐4.
農林水産省(2024).統計情報わがマチ・わがムラ鹿児島県与論町. https://www.machimura.maff.go.jp/machi/contents/46/535/index.html.
片山幸士・岡田直紀・山下洋・井上治郎・青木敦 (1986).環境指標としての降水中の微量元 素,京都大学農学部演習林報告,57,341.
田渕俊雄(1985).降水中の窒素とリン,水質汚濁研究,8,19.
高島良正(1955).雨水中のカリウムについて,日本化學雜誌,76,1150-1151.