日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 O (パブリック) » パブリック

[O-09] 令和6年能登半島地震の発生と被害のメカニズム

2024年5月25日(土) 13:45 〜 15:15 コンベンションホール (CH-B) (幕張メッセ国際会議場)

座長:野々村 敦子(香川大学)、田村 和夫吾妻 崇(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、松本 弾(産業技術総合研究所)

14:55 〜 15:15

[O09-04] 2024年能登半島地震で観測された強震動のサイト増幅特性と建物被害

★招待講演

*川瀬 博1、仲野 健一2、伊藤 恵理3、王 自謙4、孫 紀凱4 (1.(一財)日本建築総合試験所、2.安藤・ハザマ技術研究所、3.建築研究所、4.京都大学防災研究所)

キーワード:強震動、水平上下比、盆地応答、一般化スペクトルインバージョン

2024年能登半島地震では震源域内で20地点以上の強震観測点で強震動記録が得られた。特に珠洲・輪島・穴水の3市町村では市街地に位置する強震観測点で特徴的な波形が得られ、その周囲の木造家屋が30%以上の全壊被害が生じていたことが報告されている(中澤・ほか, 2024)。ここでは初めに観測加速度波形に対して一切のフィルターを使わずに積分して得た速度波形・変位波形を図化してその特徴について述べる。顕著なのは被害の甚大だった地区に敷設してあった強震観測点における水平方向の最大速度値PGVであり、珠洲で112cm/s、輪島で122cm/s、穴水で159cm/sを記録している。その卓越周期はいずれも1秒かそれ以上に長く、しかも波の数も1波ではなく何波も繰り返している点が特徴的である。
次に、本地震の発生以前に中小地震の200cm/s2以下の非線形性の顕著でないと考えられる弱震記録を収集して一般化スペクトルインバージョン手法(Generalized Spectral Inversion Technique, GIT)を用いて分離して得た水平動と上下動のサイト増幅特性(Horizontal Site Amplification Factor, HSAFとVertical Site Amplification Factor, VSAF*)について報告する。この際に波形のS波部分(マグニチュードに応じて5~15秒)と波形全体(全波と呼ぶ)のフーリエ・スペクトルを対象としてGITを行った。用いたレファレンスはYMGH01の地表観測記録から表層風化層をはぎ取って得た地震基盤相当のS波部の水平成分スペクトルである。なお上下動の増幅特性についてVSAFではなくVSAF*と記載しているのはレファレンスとしてHSAFと同じ地震基盤相当の水平成分を用いているからである。
図に示したのは珠洲市のK-NET観測点ISK002のHSAFである。赤い線が全波のHSAF(wHSAF)で黒い線がS波部のHSAF(sHSAF)である。この増幅特性から、ISK002地点でのHSAFが1Hzで100倍近い非常に大きなものであること、そして1Hz以下でwHSAFはsHSAFよりも大きく、後続動部の影響が示唆されていることがわかる。この低周波数域での差が大きいサイトは通常は関東平野や大阪平野などの大規模な堆積盆地内のサイトであり、盆地の端部で生成された盆地生成表面波などの寄与でsHSAFよりも増幅率が大きくなるのであるが、ISK002は背後に丘陵地が迫っている狭い沖積平野の海岸寄りの地点に設置されており、通常の意味での堆積盆地内の観測点ではない。特徴的なことはこのISK002地点では上下動の増幅も非常に大きく、wVSAF*では1Hzで約30倍、sVSAF*でも1Hzで約10倍で、通常のP波の増幅特性では到底説明できない大きな上下動増幅が得られている。
同様なことは輪島市の気象庁観測点JMA_E10においても観測されている。その1HzでのwHSAF・sHSAFの増幅率はそれぞれ90倍・40倍であり、wVSAF*・sVSAF*の増幅率は10倍・6倍である。輪島市内の表層地盤(沖積地盤)はいくつかのボーリング調査結果を参照すると高々20m程度しかなく、その下には比較的速度の速い堆積岩層が存在しており、表層による地盤増幅ではこの分離で得られている増幅率は全く説明できない。
被害率については中澤ら(2024)による強震観測点周辺での木造構造物の観測被害率(全壊率)が調査されているが、それによると珠洲市のISK002周辺では45.7%、輪島市のJMA_E10周辺では29.1%、穴水のK-NET観測点ISK005周辺では22.8%という高い被害率が観測されている。これに対して我々は兵庫県南部地震の神戸市内での建物被害率(大破以上率)を説明できる木造構造物被害予測モデルを構築しており(長戸・川瀬, 2002; 吉田・ほか, 2004)、今回の震源域の観測加速度波形に1Hz~2Hzのハイカットフィルターを施してそのモデルに入力して計算被害率を求めた。その結果、年代区分なしの場合には珠洲市のISK002で29%、輪島市のISK003で24%、穴水町のISK005で29%と観測とほぼ対応した計算結果を得ることができた。さらに、年代区分を考慮したモデルでは、例えば輪島市のISK003の場合、1950年以前の建物の計算被害率は42%であるのに対して、1981年以降の建物の計算被害率は2.3%に留まり、新しい建物ほど生き残る確率が高かったことがわかった。従って、予測モデルのチューニングにはこれら被災都市域での年代別の被害率の把握が不可欠であり、また将来の地震被害を予測する際にも建物の建設年代の影響を考慮した予測モデルを用いることが必要不可欠である。