日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM16] 太陽圏・惑星間空間

2024年5月28日(火) 15:30 〜 17:00 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:岩井 一正(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)、成行 泰裕(富山大学学術研究部教育学系)、西野 真木(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、坪内 健(電気通信大学)、座長:岩井 一正(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)、坪内 健(電気通信大学)


15:30 〜 15:45

[PEM16-01] モデルシミュレーションを用いた次世代太陽風観測装置のCME観測性能の評価

*岩井 一正1 (1.名古屋大学 宇宙地球環境研究所)

キーワード:コロナ質量放出、惑星間空間シンチレーション、磁気流体シミュレーション、電波観測装置

コロナ質量放出(CME)の惑星間空間における伝搬過程の解明は太陽圏科学における重要な科学課題である。また、CMEの地球への到来を予測することは宇宙天気予報にとっても重要である。惑星間空間を伝搬中のCMEの観測には電波の散乱現象を利用した惑星間空間シンチレーション(IPS)観測が重要な手段の一つである。現在、IPS観測の高精度化を目指して次世代太陽風観測装置の開発が進められている。本装置は327MHz帯域において多数のアンテナから構成される平面フェーズドアレイアンテナを建設し、そこにデジタルフェーズドアレイ装置を搭載することで、多数の方向を同時に観測できる。本計画の主要な科学目標の一つは惑星間空間におけるCMEの伝搬過程の解明、およびCMEの高精度な予測である。次世代装置は段階的に拡張可能なアレイシステム構成で、開発途中でも段階的に科学成果を出しながら完成を目指せることが特徴である。本研究の目的は次世代太陽風観測装置によって段階的に到達できる科学目標をより厳密に明確化することである。そこで、モデルシミュレーションを用いて擬似的なCME観測を行い、その結果を解析した。

モデルには太陽圏のグローバル磁気流体(MHD)シミュレーションであるSUSANOO-CMEを用いた。このモデルは太陽圏を模した3次元空間の内側境界に太陽風プラズマ、およびCMEを模したSpheromakを注入し、その伝搬を解くことができる。MHDシミュレーション結果から得られる太陽圏の密度の3次元分布を用いて、地球から任意の方向に電波の散乱を解くことで疑似的なIPSデータを計算した。本研究では全天に仮想的な電波源が一様に分布していると仮定し、それぞれの電波源を現在の観測装置とほぼ同じ200秒間観測するとした。また、次世代装置は4または8方向を同時に観測できるため、観測視野内にある4または8方向の擬似IPSデータを計算した。

まず、理想的な状態としてビームを南北方向・東西方向ともに最大+-60度で走査きるように設定した。この擬似データではCMEの形状や伝搬、およびに伴う形状変化までが導出できるという結果になった。しかしこの設定は約16000ものADCが必要となり、その建設は現実的ではない。次に現実的な設定として、現在の次世代装置Phase-I計画で目指している南北方向+-60度、東西方向+-5度にビームを走査できるように設定した。その結果、CMEの3次元構造が十分に導出できることがわかった。また、この結果得られたCMEを地球の位置まで外挿すれば約1時間精度で地球への到来が予測できることが分かった。加えて、今後より多くのデジタルバックエンドを搭載することで、東西方向のビーム幅が広がれば、CMEの追尾性能が更に向上することも示唆された。本研究で用いた擬似観測の手法は他の観測装置によるIPS観測にも適用しやすく、また観測結果を用いた科学研究においてもモデルとの比較を容易にするため、今後も幅広く応用できると期待される。