日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM16] 太陽圏・惑星間空間

2024年5月29日(水) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:岩井 一正(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)、成行 泰裕(富山大学学術研究部教育学系)、西野 真木(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、坪内 健(電気通信大学)


17:15 〜 18:45

[PEM16-P03] 次世代太陽風観測装置用ディジタルマルチビームフォーマの開発

*竹原 大智1岩井 一正1 (1.名古屋大学 宇宙地球環境研究所)

キーワード:太陽風、フェーズドアレイ、ビームフォーマ、電波望遠鏡

太陽大気の一番外側にはコロナと呼ばれる約100万度の超高温大気が存在する。このコロナから惑星間空間に向かって常に、300km/sから800km/sのプラズマの流れ、すなわち太陽風が流れ出している。太陽風は常に地球に衝突しており、地球磁気圏と相互作用している。太陽風の擾乱は人工衛星の障害を引き起こしたり、誘導電流を発生させ地上の送電線を破壊したりするなど社会インフラに影響を及ぼすことがある。このため、宇宙天気予報に注目が集まっているが、現状では取り組むべき課題がたくさんある。
地上から遠方電波天体を電波観測しているとき、太陽風や太陽表面での爆発によって太陽大気の一部が宇宙空間に吹き飛ばされる現象(コロナ質量放出: CME)が通過すると、太陽風やCMEの密度擾乱により、天体から発せられた電波が散乱される。その結果、電波望遠鏡では受信電波の強度や位相が時間的に変化する様子が観測される。この受信電波の揺らぎを惑星間空間シンチレーション(Interplanetary Scintillation: IPS)現象といい、IPS現象を観測することをIPS観測という。
現在、名古屋大学では327MHzにおいてシリンドリカルパラボラアンテナ3局で構成されるIPS 観測装置を用いて、太陽風の擾乱を効率よく検出している。現在運用中の観測装置では1日に最大100天体、1天体あたり約200秒の観測が行われている。我々のIPS 観測から得たデータを活用することで太陽風擾乱の到達予報精度が向上することが明らかになっている。しかし、宇宙天気予報の精度向上のためにはIPS観測データが不足しているのが現状である。
そこで名古屋大学では、マルチビームを実装した2次元ディジタルフェーズドアレイを構築することで、既存の観測装置と比べて約10 倍の太陽風速度データを創出できる次世代太陽風観測装置(以下、”次世代装置”)の開発を行っている。次世代装置では327MHzにおいて、1024チャンネル、総面積4000平方メートルの広視野大口径のアレイを設置することで、1日に最大1000 天体を観測する。この目標を達成するため、マルチビームシステムと広視野な光学系の開発が必要となる。
現在、段階的に拡張可能な大規模フェーズドアレイを実現するディジタルバックエンドの開発を行っている。まずは、全体の5~10%程度に相当する面積のアレイを先行して建設する。これにより、要素技術を獲得しつつ、キーサイエンスを先行実施する。現在はその一部である64 チャンネルのディジタルバックエンドが開発されている。
AD変換モジュールは8チャンネルのアナログ入力を持ち、サンプリング速度100Msps、分解能12ビットでディジタル化できる。なお、アンダーサンプリングにより、300MHzから350MHzの信号入力にも対応可能である。ビームフォーマは多数のFPGAを使用しており、ビーム合成は8ビームモード(8192点FFT)と4ビームモード(16384点FFT)のいずれかを選択可能である。合成ビームの指向方向の最大鉛直角は60度、ビームフォーマからの出力は16bitで、データ保存間隔8ミリ秒である。なお、AD変換モジュールから制御用コンピュータまでの各モジュールの接続はすべて光ケーブで行われる。
本研究では、開発済みの64 チャンネルのディジタルバックエンドについて評価試験を行う。試験項目はキャリブレーション、線型性、グレーティングローブ、フィルターカーブ、アラン分散の5項目である。なお、現時点では64チャンネル分のアンテナの用意ができていないので、評価試験は室内で実施され、入力信号として白色雑音源を用いた疑似信号を使用する。
研究の最初のステップとして、評価試験の手順を確立するため、次世代機のプロトタイプ機の性能評価を行った。このプロトタイプ機には次世代機に搭載する信号合成装置と解析装置が実装されており、AD変換器とFPGAが1つのボードに実装されている。プロトタイプ機のアナログ入力は8チャンネルであり、4ビームを合成できる。プロトタイプ機の評価試験では、白色雑音源を用いた疑似信号を入力してキャリブレーションの動作確認や、線型性の評価試験を実施した。その結果、プロトタイプ機のダイナミックレンジは約50dBm(-95dBmから-45dBm)であった。正弦波を用いた試験ではグレーティングローブの存在も確認できた。