日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM17] 宇宙プラズマ科学

2024年5月30日(木) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:天野 孝伸(東京大学 地球惑星科学専攻)、三宅 洋平(神戸大学大学院システム情報学研究科)、諌山 翔伍(九州大学総合理工学研究院)、梅田 隆行(北海道大学 情報基盤センター)

17:15 〜 18:45

[PEM17-P08] 振幅エンコーディング法を用いた微分方程式量子アルゴリズムの汎用的境界条件演算子の開発

*溝上 雄大1樋口 颯人1 (1.九州大学)

宇宙プラズマでは、しばしば、プラズマの運動論的な振る舞いが巨視的なダイナミクスのトリガーとなることが知られている。例えば、磁気リコネクションのように運動論的効果を内包した宇宙プラズマ現象は多く存在するが、理論・観測ともに詳細な物理の理解に至っていない。これを再現するには、プラズマの運動論的な効果(ミクロ)からMHD(マクロ)のスケールまで、第一原理的に計算する必要がある。それを担うのが”Vlasov-Maxwell方程式”である。
しかし、Vlasov-Maxwell方程式の大規模シミュレーションを運動論的スケールの解像度で行うにあたって、6次元分布関数の時間発展計算は現代のスーパーコンピュータでさえメモリ容量、データストレージ、計算時間などの制約から現実的ではない。
そこで、我々は量子コンピュータの応用に焦点を当てた。量子コンピュータでは古典コンピュータの古典ビットに対応して量子力学的な原理(重ね合わせの原理)を応用した量子ビットという概念がある。それによって、1つの量子ビット内に2つの情報が同時に存在することができる。スケーラブルな拡張を考えると、n個の量子ビットで個の情報が表現できることになる。これにより並列的に、かつ膨大な情報量を表現することが期待されている。そして、この量子ビット上で計算を行うにあたって必要になるのは量子アルゴリズムである。近年、金融・量子化学・素粒子・流体などの多くの分野で量子アルゴリズム開発が盛んに行われている。
先行研究[Higuchi et al., (2023)]では宇宙プラズマシミュレーションの応用を目的としたVlasov-Maxwell方程式系を解く量子アルゴリズムを開発した。その際、量子ウォークを用いて、Vlasov-Maxwell方程式系を差分化する手法を採用した。それはまた周期境界条件を自動的に満たすことが示唆されている。
しかし、本来量子コンピュータの目的として量子系の計算を行うことにあったため、我々の分野の数値計算で使用する境界条件は整備されていない。宇宙プラズマシミュレーションではノイマン境界条件、ディリクレ境界条件などを筆頭に、現象に応じて適切な境界条件が要求される。そこで本研究では、量子ウォークを構成する演算子着目し、適切な変形を施すことで、汎用的に使用可能な境界条件演算子を開発した。
本発表では量子計算の背景、手法を交えて、同様の古典数値計算で検証しながら、今回開発した境界条件演算子に加え、量子数値結果の特徴を示し、この境界条件演算子を内包したシミュレータの構想について述べる予定である。