日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM17] 宇宙プラズマ科学

2024年5月30日(木) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:天野 孝伸(東京大学 地球惑星科学専攻)、三宅 洋平(神戸大学大学院システム情報学研究科)、諌山 翔伍(九州大学総合理工学研究院)、梅田 隆行(北海道大学 情報基盤センター)

17:15 〜 18:45

[PEM17-P16] Arase衛星の衛星電位を用いた地球磁気圏・電離圏における電子密度導出の検討

*川潟 桂也1笠羽 康正1土屋 史紀1、風間 洋一2城 剛希1加藤 雄人1 (1.東北大学 理学研究科、2.台湾中央研究院 天文及天文物理研究所)

キーワード:Arase衛星、BepiColombo、磁気圏・電離圏、電子密度、衛星電位

Arase衛星は、2017年3月以降、約7年間に渡りジオスペースを飛翔し、この領域の電子密度決定に資する多様なデータを取得し続けている。密度は、電離圏・プラズマ圏・磁気圏の構造を決める基本情報である。また、密度は波動の分散関係を左右するため、その成長・減衰・伝搬にも支配的である。
 Arase衛星では、PWE/HFA(プラズマ波動計測器/高周波受信部)の電場スペクトル(10 kHz~10 MHz)からUHR(高域ハイブリッド共鳴)周波数を自動判定と目視の組み合わせで同定し(時間分解能:1 min)、背景磁場強度と併せて電子密度を決定している。この方法は、10 eV以下の低温成分を含む電子密度を高精度で決定できる。しかし、UHR周波数近傍に他の強い波動が見られる領域やUHR波動強度が弱い低密度領域の場合、UHR周波数の決定は難しく、このため電子密度情報が決定されていない領域が多く生じている。他衛星では低エネルギーイオン・電子の直接計測データが用いられてきたが、Araseの静電プラズマ分析器LEPe・LEPiは~20 eV以下の計測が難しい。Arase軌道では低温プラズマが多く、粒子計測からの密度導出には20 eV以下での分布関数に仮定が必要となる。
 衛星電位も、電子密度の指標となりえる。プラズマ中における衛星の浮動電位は、太陽紫外線による光電子流出と周辺プラズマからの電子流入のバランスで決定される。衛星表面材料に依存する光電子流出・二次電子放出効率、衛星の形状・姿勢、および周辺電子温度にも影響されることから、衛星電位から演繹される電子密度の精度は低い。しかし、目視決定や特定の仮定に依存せず、容易に1-spin(8 sec程度)の分解能で観測量を取得できるため、Araseの全データである程度の信頼性を持った電子密度を導出することが潜在的に可能である。とはいえ、Geotail衛星やCluster衛星におけるプラズマ密度(イオン直接計測で決定)ー衛星電位の関係と比べると、Arase衛星は特に1 /cc以下の精度が低いことが確認されてきた。低密度域では、UHR周波数から導出した電子密度の精度が低いこと、アンテナ長が15 mと短く(Geotail・Clusterは50 m長)Debye長>アンテナ長となりやすいことなどに起因する可能性がある。

 これらの検証のため、Arase軌道全域において各手法によるプラズマ密度導出の比較と精度の検証に着手した。まず、UHR周波数による電子密度決定情報が存在する2017年4月~2022年4月でUHR周波数-衛星電位の相関解析を行い、その軌道依存性・経年変化の評価を行っている。特に、Geotail・Cluster事例および理論予測される「電子密度exp⁡(衛星電位)」の関係から外れるデータについて、その原因をLEPe・LEPiデータも参照して探る。次いで、LEPeによる低温電子密度・温度データ、LEPiによる低温イオン密度・温度データとの比較に進む予定である。
 衛星電位計測の基準点は、ワイヤアンテナ先端プローブの電位である。プローブにはバイアス電流を供給し、光電子流出量と周辺電子流入量のアンバランスを補正して周辺プラズマ電位に近づけている(差:< 0.1-0.2 V)。このプローブ電位の安定度は、電場・低周波波動の精度決定要因でもある。低密度域でみられる衛星電位のゆらぎはプローブ電位の安定度に起因する可能性もあり、この場合、衛星電位の精度は直接Araseの電場計測精度につながる問題となる。本研究は、喧々諤々の議論が続く電場計測の精度追求への一助でもあり、また2026年から周回観測を開始するBepiColombo/Mio水星探査機における同型プローブを用いた電子密度・電場計測の精度保証の基盤ともなる。