日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS01] Outer Solar System Exploration Today, and Tomorrow

2024年5月28日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:木村 淳(大阪大学)、佐柳 邦男(NASA Langley Research Center)、土屋 史紀(東北大学大学院理学研究科惑星プラズマ・大気研究センター)

17:15 〜 18:45

[PPS01-P13] ひさき衛星の極端紫外分光データを用いたエウロパ軌道における磁気圏プラズマ診断

*松下 奈津子1土屋 史紀1笠羽 康正1吉岡 和夫2眞田 聖光2山崎 敦3村上 豪3吉川 一朗2木村 智樹4北 元5 (1.東北大学、2.東京大学、3.JAXA/ISAS、4.東京理科大学、5.東北工業大学)

キーワード:エウロパ、イオプラズマトーラス、ひさき衛星

木星のガリレオ衛星の一つ、エウロパは、木星中心から約9.4木星半径離れた軌道に位置している。表層は氷に覆われており、酸素分子を主成分とした希薄な大気を保持している。酸素分子の大気は、表層に磁気圏の荷電粒子が衝突し、スパッタリングされた分子のうち軽い水素が散逸することで形成される。エウロパ軌道より内側(約5.9木星半径)には、太陽系の中で最も火山活動の活発な衛星イオがある。火山から噴出した硫黄酸化物のガスは、イオの重力圏から脱出・電離し、硫黄や酸素のイオン(S+, S2+, S3+, O+, O2+等)となる。イオンは電子とともに木星の強力な磁場に捉えられ、イオ軌道よりも外側でドーナツ状に分布する。このプラズマの高密度領域はイオプラズマトーラスと呼ばれ、エウロパ軌道まで広がっている。したがって、エウロパ周辺におけるトーラスのプラズマ特性を調べることは、衛星大気の形成と磁気圏プラズマの相互作用を理解するにあたり、必要不可欠である。しかし、これまでのエウロパ軌道での観測には制限があり、プラズマ特性の不確定性が大きい。そこで私たちは、JAXAの惑星分光観測衛星ひさきの極端紫外分光データを用いて、エウロパ軌道における電子密度・温度、イオンの組成を導出することを目的として、解析に取り組んでいる。
 イオプラズマトーラスの密度や温度、組成は、その場観測とリモートセンシングによって調べられてきた。ひさき衛星は、2013年9月から2023年12月まで、イオプラズマトーラスのイオンが電子衝突励起により発光したスペクトルを55~145 nm の波長帯で地球周回軌道から観測してきた。スペクトルの形状は、イオンの組成や電子温度、密度を反映するため、プラズマ診断という手法を用いることで、これらのプラズマ特性の導出が可能である。
 輝線強度はイオ付近で最も強く、木星からの距離が大きくなるにつれて弱まる。最も強度の強い68.0 nmのS2+の輝線においても、エウロパ軌道ではイオ軌道の約50分の1程度となり、地球の高層で太陽共鳴散乱によって発光するジオコロナの前景光や、放射線帯の高エネルギー粒子によるノイズの影響を避けられない。そこで、ジオコロナ発光を抑えるために、ひさき衛星が地球の影にいる(22LT~2LT)データのみを抽出し、シグナル・ノイズ比を改善するために、ひさき衛星の視野にエウロパ軌道が収まる2015年4月において7日間(約1000分)の積分を行った。
 エウロパ軌道におけるイオンの発光の強度は、代表的なS2+ (68.0 nm), S3+ (74.9 nm), O+ (83.4 nm) においてそれぞれ 0.9±0.2 R, 0.7±0.2 R, 0.7±0.2 R となった。イオ軌道においては、同じ輝線の発光強度がそれぞれ45.3±1.1 R, 17.2±0.7 R, 25.5±0.9 R である。S2+に対するS3+とO+の相対的な強度比は、どちらもイオ軌道よりエウロパ軌道の方が大きくなっていた。S3+の輝線が明るいことは、エウロパ軌道において電子温度が高いためにイオンの電離が進んでいることを示唆している。O+が明るいことは、イオ由来の酸素イオンに加え、エウロパ大気から流出した酸素イオンが存在する可能性を示している。現在、これらの仮説を定量的に検討するために、シグナル・ノイズ比の低いスペクトルに適用可能なプラズマ診断の手法の改良を行い、エウロパ軌道におけるプラズマ特性の決定を試みている。