日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS02] Regolith Science

2024年5月29日(水) 14:00 〜 15:15 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:和田 浩二(千葉工業大学惑星探査研究センター)、Michel Patrick(Universite Cote D Azur Observatoire De La Cote D Azur CNRS Laboratoire Lagrange)、中村 昭子(神戸大学大学院理学研究科)、小林 真輝人(東京大学)、座長:小林 真輝人(東京大学)、清水 雄太(東京大学)

14:30 〜 14:45

[PPS02-03] 基盤岩を覆うレゴリス層のクレーター成長が抑制されるメカニズム:衝突励起振動の影響

*柿木 玲亜1荒川 政彦1保井 みなみ1長谷川 直2黒崎 健二1 (1.神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻、2.宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)

キーワード:クレーター、衝突励起振動

小惑星の表層や内部構造はその起源や進化の理解に必要不可欠な情報であり、その推定のために2つの特徴が注目されている。1つ目は衝突クレーターの中央に存在するピットと呼ばれる孔の存在である。例えば小惑星リュウグウ上に形成されたSCIクレーターでは、中央ピットが確認された。この観測結果より、リュウグウ表層には、結合強度を持たないレゴリス層の下に比較的強度の大きいレゴリス層および基盤層があると考えられている。このようにクレーター形態は小惑星の内部構造の推定において重要な手がかりとなる。2つ目は衝突励起振動である。この振動は天体表層や内部を伝播し、レゴリスを流動化し、表面地形を緩和する。これは小惑星上の地形を変化させる最も重要な効果の一つである。層構造をもつ小惑星で起こる衝突励起振動の数値モデルの結果から、基盤岩上のレゴリスは流動化しやすいことが知られている。したがって、小惑星表層の流動化による地形緩和の程度は、層構造などの内部構造に依存すると思われる。
以上より本研究では、レゴリスで覆われた基盤岩を持つ小惑星のクレーター形成過程と、衝突励起振動による地形緩和を調べるため、層構造をもつ小惑星表層を模擬した標的へのクレーター形成実験を行い、レゴリス層の厚さと基盤強度がクレーター形成過程に与える影響や、標的表面や基盤を伝播する衝突励起振動を計測して、震動波形の距離減衰に対する基盤の影響を調べた。
本実験では、①自由落下による低速度実験 (衝突速度3m/s)、②神戸大の縦型一段式軽ガス銃による中速度実験 (12〜200m/s)、③宇宙科学研究所の縦型二段式軽ガス銃による高速度実験 (2km/s) を行った。①では、石膏・砂混合物(以下砂:石膏の質量比=f:1とする。f=10、引張強度60.4kPa)、②では閃緑岩 (引張強度6.7MPa)、③では石膏・砂混合物 (f=4, 10, 20、引張強度26.9kPa〜358kPa) を基盤に用い、この上に石英砂(粒径500µmまたは100µm)およびガラスビーズ(粒径100µm)を0〜50mmの厚さで敷いた。弾丸には①②で鉄球、③でアルミ球を用いた。この際、基盤表面の複数箇所に加速度計を設置し、加速度を測定した。①では1次元レーザー変位計を標的表面上に設置し、基盤層および粒子層の表面変位の時間変化を計測した。
層構造標的では、粒子層の厚みの減少に伴い、クレーター形状がお椀型から平底型、同心円型へと変化した。③の結果から、粒子層に形成されるクレーターのリム直径はクレーターが平底型または同心円型の場合、粒子層の厚みの減少に伴い減少した。また、基盤上の平底クレーター半径と基盤に形成されるピット半径は、粒子層の厚みの減少に伴い増加した。基盤強度を変えて同様の実験を行うと、リム半径・平底半径は基盤強度に依存せず、ピット半径のみが基盤層強度の増加に伴い減少した。ピットのサイズは弾丸直径で規格化した粒子層の厚みの増加に伴い減少したが、ピット体積の減少率はモルタル層に覆われた玄武岩に形成されるクレーターの体積減少率 (Dohi et al.,2012) より小さかった。しかし、本実験で得られた体積減少率は異なる強度の基盤を用いても変わらなかったため、その減少率は粒子層の物性により決まっている可能性がある。
衝突励起振動に関しては、層構造標的の場合、均質砂標的と均質基盤標的に励起する加速度波形の周波数(それぞれ300Hz, 1400Hz)の中間の周波数を持つ加速度波形が励起された。また、③の実験から、均質基盤層標的を伝播する振動の最大加速度は均質砂の場合より約40倍大きくなった。また、①の実験で得られた鉛直方向の変位波形の結果より、衝突直後に基盤や粒子層は下向きに変位し、その後粒子層は基盤の振動より高周波数で振動していた。この結果より、基盤の振動が粒子層の振動を励起していると解釈できる。
これらの実験結果から、層構造標的における掘削流の減衰について考察した。Zモデルを適用して、均質砂標的と層構造標的のトランジェントクレーターおよび平底部分の外縁部での掘削流速度が等しいと仮定した。同心円型および平底型クレーターが形成されるような粒子層厚さの範囲では、層構造標的中での掘削流速度の距離減衰は均質砂標的よりも大きいことがわかった。この掘削流速度の減衰率の増加は、衝突計算コードiSALEによる数値シミュレーションでも見られるような、基盤に発生する衝突励起振動が粒子層に伝播することで引き起こされると考えられる。

謝辞: 実験結果を解釈するためにiSALEを利用しました。iSALEの開発者であるG. Collins, K. Wünnemann, B. Ivanov, J. Melosh, D. Elbeshausenの各氏に感謝致します。