日本地球惑星科学連合2024年大会

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[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS06] 火星と火星衛星

2024年5月30日(木) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:宮本 英昭(東京大学)、今村 剛(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)、中村 智樹(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所)

17:15 〜 18:45

[PPS06-P02] 火星の低周波火震S1022aの特徴とその原因の可能性

*小谷 輝1久家 慶子1 (1.京都大学大学院理学研究科地球物理学教室)

キーワード:火震

1.はじめに
2018年に地震計が備わった火星探査機「InSight」が火星に着陸した。2019年3月、火星の内部で発生したと考えられる震動が初めて記録され、2022年12月にミッションが終了するまで、約1300個の火震が観測された (Lognonné et al. 2023)。
InSight Marsquake Service(MQS)が検知した各火震は、火震の起こった火星日付をもとにラベル付けされ、データの質を基準にして質が良いものからQuality A、B、C、Dの4つに分類されている。P、S波を明瞭に識別でき、さらにP波のpolarizationが明確に見えている、つまりこれらから震央を推定できる火震は、Quality Aに分類されている。Quality Aに分類された火震は14個あり、Mwは3~5程度である(MQS 2023)。
私たちは、これらQuality Aの14火震のP、S波の波形データを調べた。その結果、S1022aとラベル付けされた火震が他の火震と異なり特定の低周波数に卓越していることをみつけた。本発表では、この低周波火震S1022aの特徴を示すとともに、その原因を考察する。

2.低周波火震S1022aの特徴
S1022aは、MQSにより、地震計から東北東方向に約1800km(31°)離れた場所で起こったと推定されるMw3.6の火震である。火星でのノイズは昼間に大きく、夜間に小さくなる傾向があり(Giardini et al. 2020)、S1022aは火星での夕方頃の比較的ノイズが大きい時間帯に発生した。
S1022aのP波のvertical成分、S波のtransverse成分の変位振幅スペクトルをみると、いずれも、0.2Hz付近にピークをもち、0.4~0.5Hz付近で急激に値が下がり、0.5Hz以上では、前日の火震が起きていない同時間での値より小さくなる。この特徴はP、S波のvertical、radial、transverseの全成分に見えている。またparticle motion解析では、0.2Hz付近のP波は直線状に振動しており、その方向は推定されている逆方位と調和的である。0.2Hz付近のS波の振動はこれにおおよそ直交する。
S1022a以外のQuality Aの多くの火震のスペクトルは、1Hz以下の特定の周波数に顕著なピークをもたない。特徴的なピークをもたない一部の火震のスペクトルがBrune震源モデル(ω2モデル)とt*による減衰構造の影響で説明できることはGiardini et al. (2020)などで示されている。
また、S1022a前後のノイズが大きい時間帯でも、S1022aと同じ特徴のスペクトルはみられない。

3.特徴の原因は何か
火震 S1022aでみられる特徴が、他のQuality Aの火震には見られないことから、地震計近傍の地下構造によるとは考えにくい。そのため地下構造が原因であるならば、地震計から離れた場所に原因となる構造を考える必要がある。その構造は卓越周波数がP波とS波で類似する必要もある。
一方、震源が原因である場合は、0.2Hzが卓越し、高周波成分をあまり励起しない震源モデルが必要である。
Kedar et al. (2021)は、それぞれ0.35、0.6HzでピークをもつQuality Bの2つの火震を、Julian(1994)の火山性微動モデルで説明することに試みた。その一方でMartire et al. (2020)は、地表付近のインフラサウンドにより、Kedar et al. (2021)が扱った火震の1つを説明できると主張している。
S1022aはKedar et al.(2021)で扱われている2つの火震と比べて、Mwが大きい、P、S波の到着が明瞭に見える、震動の継続時間が短い、ピーク周波数が低いなどの違いがある。
S1022aの特徴はMartire et al. (2020)で述べられているインフラサウンドによる震動の特徴と大きく異なっており、S1022aの単色低周波震動の原因がインフラサウンドである可能性は低いと考えられる。
他方でS1022aが火山性微動である可能性を調べるため、Kedar et al. (2021)と同様にJulian (1994)のモデルで、変数を調整して0.2Hzに極端なピークをもつようなモデルを探したところ、高周波にも複数のピークをもつ特徴が見られることがわかった。この特徴はS1022aのスペクトルと合わない。Julian(1994)以外のモデルが必要かもしれない。

謝辞
IRISのデータとInSight Mars SEIS Data Serviceのデータとカタログを使用した。記して感謝する。