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[PPS06-P10] MEx/OMEGA観測データ2.7μm-CO2吸収帯から導出したダスト量による局所砂嵐の統計解析

キーワード:火星、放射輸送、気象、分光
火星大気中を浮遊するダストは、太陽光を直接吸収して大気を加熱し、気象現象を駆動する。中でも1.6×106 km2以下の局所規模の砂嵐(ローカルダストストーム、以下LDS)は、ロケットダストストームのような高高度まで鉛直方向にダストを高速輸送する運動に発達可能性(Spiga et al.,2013; Wang et al., 2017)や、集合することで地域規模の砂嵐(リージョナルダストストーム、以下RDS)への発達可能性(Martin and Zurek, 1993, Cantor et al., 2001; Hinson and Wang, 2010; Wang and Richardson, 2015)などが示唆され、鉛直・水平方向双方のダスト運動の理解において重要である。1.6×106 km2を超えるRDSについては、周回探査機による可視撮像観測データによってその時空間的振る舞いが統計的に調べられている(Cantor et al., 2001; Wang and Richardson, 2015; Battalio and Wang, 2020)。しかしLDSの観測数は少なく、統計的調査がなされた例はない。私たちは、高解像度の観測が可能な欧州周回探査機Mars Expressに搭載の近赤外分光撮像装置OMEGAが火星年27-29に得た観測データを用いて、ダスト量マップとLDSの統計的な検出に成功した。この結果を用いて、全球規模の砂嵐が発生したMY28を含む3火星年分のLDSの統計的解析を行い、発生箇所や発生頻度などを調査した。
この解析では、2.77 μmのCO2吸収バンドからダスト量を推定する新たな手法を用いた。このバンドは火星の環境下で約400 Pa以上の大気圧で通常飽和するため、ダストが少ない場合、観測放射輝度はほぼ0になる。しかしダストが高高度へ巻き上げられていると、飽和されず放射輝度は明るくなるため、この差を利用して大気中ダスト量の推定を行う。2.77 μmを含むOMEGAのLチャンネルには、観測機器の姿勢制御に伴って観測波長がシフトする問題があるため、私たちはモデルスペクトルと相関を取ることで波長較正を行った。その上、放射輸送計算DISORT(Stamnes et al., 1988)より、ダスト混合比を鉛直方向で一様と仮定したうえで、2.77 μmのモデルスペクトルを計算してLook up table(Forget et al.,2007; Toigo et al., 2011)に格納し、これを観測スペクトルと比較することで、高速なダスト量の導出を実現した。この手法の妥当性は、OMEGAを使用した(1) 2 μmのCO2吸収帯からダスト量導出を行った研究(Leseigneur and Vencendon, 2023)と(2)連続波の傾きからダスト量導出を行った研究(Vencendon et al., 2008)の2つの先行研究との比較で評価した。ダスト量が濃い領域・季節(τが0.05以上)では、先行研究と誤差範囲内で導出されたダスト量は一致するが、ダスト量が薄い領域・季節(τが0.05以下)では不一致がみられた。これは、(1)太陽天頂角が高い領域では、光路長が長くなり地表に達する前に飽和してしまうこと(2)ダスト混合比が一様でなく低高度に集中している、という2つの可能性が考えられた。太陽天頂角が十分に小さい領域(60°以下)でも不一致が確認されているため、この不一致は(2)が主因と考えている。
この手法で火星年27-29年におけるOMEGAの全観測データ(約8300軌道)に適用し、LDSの統計的な検出を行った。この解析は、太陽天頂角が小さい(60°以下)観測で、低中緯度域(±60°)のみに焦点を当てた。ダストと切り分けることができない氷雲は、3.4 μmと3.5 μmの比を使って検出し、氷雲が存在するデータは除外した(Langevin et al., 2007)。検出するLDSの水平規模は1°×1 °(〜4000 km2)、0.5°×0.5 °(〜1000 km2)、0.1°×0.1°(〜50 km2)とし、背景場(3°×3°)よりも1.5倍以上ダストが濃い場合に検出と判定した。〜50 km2の解析結果では、約4900軌道中789軌道でLDSが検出された。この季節変化に着目すると、Ls 130°-200°とLs 280°-330°にLDSの発生が多くなることがわかった。この結果は、可視撮像データから得られたRDSの発生季節と一致する(Wang and Richardson, 2015)。また、興味深いことに先行研究によるRDSの統計ではみられないLs 0°-90°付近に小さな発生ピークが確認できた。本講演では、この統計解析の結果を総括するとともに、従来の観測やモデルとの比較を報告する。
この解析では、2.77 μmのCO2吸収バンドからダスト量を推定する新たな手法を用いた。このバンドは火星の環境下で約400 Pa以上の大気圧で通常飽和するため、ダストが少ない場合、観測放射輝度はほぼ0になる。しかしダストが高高度へ巻き上げられていると、飽和されず放射輝度は明るくなるため、この差を利用して大気中ダスト量の推定を行う。2.77 μmを含むOMEGAのLチャンネルには、観測機器の姿勢制御に伴って観測波長がシフトする問題があるため、私たちはモデルスペクトルと相関を取ることで波長較正を行った。その上、放射輸送計算DISORT(Stamnes et al., 1988)より、ダスト混合比を鉛直方向で一様と仮定したうえで、2.77 μmのモデルスペクトルを計算してLook up table(Forget et al.,2007; Toigo et al., 2011)に格納し、これを観測スペクトルと比較することで、高速なダスト量の導出を実現した。この手法の妥当性は、OMEGAを使用した(1) 2 μmのCO2吸収帯からダスト量導出を行った研究(Leseigneur and Vencendon, 2023)と(2)連続波の傾きからダスト量導出を行った研究(Vencendon et al., 2008)の2つの先行研究との比較で評価した。ダスト量が濃い領域・季節(τが0.05以上)では、先行研究と誤差範囲内で導出されたダスト量は一致するが、ダスト量が薄い領域・季節(τが0.05以下)では不一致がみられた。これは、(1)太陽天頂角が高い領域では、光路長が長くなり地表に達する前に飽和してしまうこと(2)ダスト混合比が一様でなく低高度に集中している、という2つの可能性が考えられた。太陽天頂角が十分に小さい領域(60°以下)でも不一致が確認されているため、この不一致は(2)が主因と考えている。
この手法で火星年27-29年におけるOMEGAの全観測データ(約8300軌道)に適用し、LDSの統計的な検出を行った。この解析は、太陽天頂角が小さい(60°以下)観測で、低中緯度域(±60°)のみに焦点を当てた。ダストと切り分けることができない氷雲は、3.4 μmと3.5 μmの比を使って検出し、氷雲が存在するデータは除外した(Langevin et al., 2007)。検出するLDSの水平規模は1°×1 °(〜4000 km2)、0.5°×0.5 °(〜1000 km2)、0.1°×0.1°(〜50 km2)とし、背景場(3°×3°)よりも1.5倍以上ダストが濃い場合に検出と判定した。〜50 km2の解析結果では、約4900軌道中789軌道でLDSが検出された。この季節変化に着目すると、Ls 130°-200°とLs 280°-330°にLDSの発生が多くなることがわかった。この結果は、可視撮像データから得られたRDSの発生季節と一致する(Wang and Richardson, 2015)。また、興味深いことに先行研究によるRDSの統計ではみられないLs 0°-90°付近に小さな発生ピークが確認できた。本講演では、この統計解析の結果を総括するとともに、従来の観測やモデルとの比較を報告する。