17:15 〜 18:45
[PPS06-P18] 火星大気Neの同位体比その場測定のためのNe-Ar分離装置の開発:分離膜を用いた真空配管設計に関する実験と考察
キーワード:火星、ネオン、同位体、惑星探査
火星大気はCO2を主成分に、希ガスを含んでいる(e. g., Mahaffy et al. 2013)。希ガスは化学的に不活性で、惑星進化の物理過程をよく反映しているため、惑星大気の進化の理解のために重要である(Lammer et al. 2020)。中でもNeは質量数が小さく散逸しやすく、MAVENの観測から推定される火星大気Neの大気散逸のタイムスケールは0.6-1×108年と短いため、現在の火星大気Neは最近の脱ガスを通じて供給されており、火星マントルの組成を反映していると考えられているので(Kurokawa et al. 2021)、Ne同位体比から火星形成段階を制約できる可能性がある。火星起源隕石は火星由来のガスを捕獲しているが(e.g. Smith et al. 2020)、宇宙線生成核種による影響が大きく、火星大気の正確なNe同位体比を知るためには、その場測定が重要となる。ところが、火星大気中のNe同位体比の正確な測定は実現できていない。Neより豊富に存在するArが生成する40Ar++が20Ne+と干渉し、質量分析法による正確な計測ができていないためである。地上では、高分解の質量分析計や、コールドトラップを用いる手法があるが、惑星探査において実現するためには課題も多い。そこで、NeとArを分離する膜を用いる方法が提案されており(Miura et al. 2020)、火星大気からNeを選択的に透過することで、質量分析器に入るNe/Ar比を増大できることが報告されている。
これまでに、分離膜を用いたNe, Arの透過量、惑星探査を想定した振動、衝撃、温度、放射線に対する膜や固定用フランジの耐性は確かめられている(Cho et al. 2024)が、探査機に搭載するために使用すべき宇宙向け真空ポンプ、バルブの種類や、それらを用いた際に真空ラインにおいて達成できる真空度については試験されていなかった。そこで本研究では、宇宙用部品であるポンプとバルブについて、それらを用いた場合の到達真空度やコンダクタンスを計測し、それらを組み合わせた際の装置全体の到達真空度を計算により見積もった。
まず、40Arの二重電荷比(40Ar++/40Ar+ ~ 0.1)を想定し、装置の40Arのバックグラウンドが想定する20Ne透過量(0.04pmol)と同程度になることとして真空度を計算し、10-4Paのオーダーまで排気する必要があると求められた。
次に、探査機搭載向けに開発された装置におけるこの真空度の実現可能性を調べた。真空ポンプについては、Creare社とNASA Goddard Space Flight Centerとの共同開発の火星大気圧下で動作可能なターボ分子ポンプ(Wide Range Pump, Sorensen et al., 2014)を入手し稼働して、その到達真空度を実測した。このポンプは、火星探査車Curiosityに搭載されており、小型軽量で、5L/sの排気速度を持つ宇宙用のポンプである。ポンプ直上で真空度を計測した結果、1.27x10-5Paまで到達することができることが分かった。
この値は、Sorenson et al.(2014)で報告されている到達真空度より低い圧力である。これは本計測では、Wide Range Pumpのバックポンプとして、火星大気圧よりも低い到達圧力を持つスクロールポンプを使用していた影響かもしれない。
バルブについては、高砂電気工業社の電動バルブ(HVOL-2-N1F, 全長約20cmの1/4インチ配管付き)とMindrum Precision社の電動バルブ(Microvalve, 約10cmの配管付き)の二種類について、市販のターボ分子ポンプと接続し、バルブ両端の圧力の時間変化を計測した。その結果、バルブの上流と下流との圧力は計測開始から3時間時点において1桁のオーダーの差が生じることが分かり、コンダクタンスはそれぞれ、1.7±0.5 ×10-2L/s、 1.8±0.5×10-2L/s程度と見積もった。
これらの結果を用いてWide Range Pumpから外気吸入口まで、長さ90 cm、 外径1/4インチの配管で構成されるガス分析装置を想定し、これらのバルブとポンプを使用した際の到達真空度を計算した。Wide Range Pump、バルブ(HVOL-2-N1F)を使用する場合、ベーキング後のガス放出率を考慮しても到達真空度は、0.9-1.0×10-4Paとなり、必要な圧力に到達することが分った。以上の実験と計算から、Ne同位体比を計測するために必要な真空度を達成できる真空ポンプとバルブ、配管の組み合わせの設計解に目処が得られたため、今後は実際に装置を組み実証実験を行うことを計画する。
これまでに、分離膜を用いたNe, Arの透過量、惑星探査を想定した振動、衝撃、温度、放射線に対する膜や固定用フランジの耐性は確かめられている(Cho et al. 2024)が、探査機に搭載するために使用すべき宇宙向け真空ポンプ、バルブの種類や、それらを用いた際に真空ラインにおいて達成できる真空度については試験されていなかった。そこで本研究では、宇宙用部品であるポンプとバルブについて、それらを用いた場合の到達真空度やコンダクタンスを計測し、それらを組み合わせた際の装置全体の到達真空度を計算により見積もった。
まず、40Arの二重電荷比(40Ar++/40Ar+ ~ 0.1)を想定し、装置の40Arのバックグラウンドが想定する20Ne透過量(0.04pmol)と同程度になることとして真空度を計算し、10-4Paのオーダーまで排気する必要があると求められた。
次に、探査機搭載向けに開発された装置におけるこの真空度の実現可能性を調べた。真空ポンプについては、Creare社とNASA Goddard Space Flight Centerとの共同開発の火星大気圧下で動作可能なターボ分子ポンプ(Wide Range Pump, Sorensen et al., 2014)を入手し稼働して、その到達真空度を実測した。このポンプは、火星探査車Curiosityに搭載されており、小型軽量で、5L/sの排気速度を持つ宇宙用のポンプである。ポンプ直上で真空度を計測した結果、1.27x10-5Paまで到達することができることが分かった。
この値は、Sorenson et al.(2014)で報告されている到達真空度より低い圧力である。これは本計測では、Wide Range Pumpのバックポンプとして、火星大気圧よりも低い到達圧力を持つスクロールポンプを使用していた影響かもしれない。
バルブについては、高砂電気工業社の電動バルブ(HVOL-2-N1F, 全長約20cmの1/4インチ配管付き)とMindrum Precision社の電動バルブ(Microvalve, 約10cmの配管付き)の二種類について、市販のターボ分子ポンプと接続し、バルブ両端の圧力の時間変化を計測した。その結果、バルブの上流と下流との圧力は計測開始から3時間時点において1桁のオーダーの差が生じることが分かり、コンダクタンスはそれぞれ、1.7±0.5 ×10-2L/s、 1.8±0.5×10-2L/s程度と見積もった。
これらの結果を用いてWide Range Pumpから外気吸入口まで、長さ90 cm、 外径1/4インチの配管で構成されるガス分析装置を想定し、これらのバルブとポンプを使用した際の到達真空度を計算した。Wide Range Pump、バルブ(HVOL-2-N1F)を使用する場合、ベーキング後のガス放出率を考慮しても到達真空度は、0.9-1.0×10-4Paとなり、必要な圧力に到達することが分った。以上の実験と計算から、Ne同位体比を計測するために必要な真空度を達成できる真空ポンプとバルブ、配管の組み合わせの設計解に目処が得られたため、今後は実際に装置を組み実証実験を行うことを計画する。