日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 惑星科学

2024年5月30日(木) 15:30 〜 16:45 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:荒川 創太(海洋研究開発機構)、田畑 陽久(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、冨永 遼佑(東京工業大学 理学院地球惑星科学系)、座長:田畑 陽久(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、冨永 遼佑(理化学研究所 開拓研究本部 坂井星・惑星形成研究室)、荒川 創太(海洋研究開発機構)

16:15 〜 16:30

[PPS07-04] 原始大気-マグマオーシャン間相互作用に基づく地球形成シナリオの検証

*前田 悠陽1佐々木 貴教1 (1.京都大学 大学院理学研究科 宇宙物理学教室)

キーワード:地球、原始大気、マグマオーシャン、N体計算

地球に海洋をもたらした水の起源は、地球史個別の問題にとどまらず、それ以前の、惑星形成の描像を探るという点で、惑星科学における重要な課題のひとつである。岩石惑星の形成過程において、原始惑星の形成後の環境は現在と大きく異なる。第一に、降着に伴う重力エネルギーの解放により、原始惑星の表面は溶融状態にあった(マグマオーシャン)。第二に、原始惑星は原始惑星系円盤のガスを捕獲し、水素に富む原始大気を獲得する。

本発表では、岩石惑星の形成過程を、この原始惑星形成後の特徴的な表層環境と水の供給過程を通して明らかにすることを目指す。先行研究として、Young et al.(2023)では、水素に富む原始大気とマグマオーシャン、その下部のコアの間で起こる化学反応に注目し、原始地球をモデル化した系の化学平衡を数値的に計算した。その結果、原始大気中の水素が、マグマオーシャン中の酸素と結びついて水を生成すること、同じく原始大気中の水素がコアに入り込み、コアの密度減少を引き起こすことなどを明らかにした。さらに、こうした化学的な特徴量が、現在の地球の値とほぼ一致することを示した。

実際の原始惑星系円盤では、古典的な微惑星の暴走成長を仮定すると、1AUで0.1地球質量程度の原始惑星が形成されることが数値的に確かめられている(Kokubo and Ida, 2000)。これらの原始惑星は、巨大衝突を何度か経験し、最終的に地球質量程度まで成長する。原始惑星が円盤ガスから大気を獲得し、重力で保持するには、巨大衝突によって原始惑星自身が質量を増やす必要があり、その閾値は0.2地球質量程度である(Young et al., 2023)。すなわち、原始惑星と原始大気の化学平衡は、巨大衝突を経験し、円盤ガスから大気を獲得した後の問題となる。また、巨大衝突はそのたびに大気の一部または大部分を吹き飛ばし(Genda and Abe, 2003)、改めて円盤から大気を獲得する。つまり、原始惑星は巨大衝突のたびに新たな化学平衡に達するのである。

現在の地球の化学組成を決める最も重要な要素は、このとき原始惑星が獲得する大気の量である。原始大気のもととなる原始惑星系円盤のガスは、時間経過に伴い円盤から散逸し、数百万年で失われることが知られている(Haisch et al., 2001)。すなわち、原始惑星が獲得する大気量は、巨大衝突時に円盤のガス散逸がどの程度進行しているかによって決まる。原始惑星の巨大衝突のタイムスケールは、現実的にはガス散逸のタイムスケールと競合しうると考えられる。このことから、惑星の化学組成を決定するという問題は、原始惑星から惑星に成長するまでの、一連の時間経過が極めて重要となる。円盤ガス中での原始惑星の軌道計算を行なった先行研究に、Kominami and Ida(2002)がある。原始惑星は円盤ガスから抵抗力を受けるため、これにより原始惑星が巨大衝突を起こすタイムスケールが大きく変化する。

本研究では、原始大気の量を固定して単一の計算を行なったYoung et al.(2023)の結果をモデルケースとして用いる。まず、Kominami and Ida(2002)をベースに、原始惑星の軌道計算を行い、巨大衝突に対して、ガス散逸の進行度により決まる量の大気を与える。これをもとに、原始惑星の化学平衡計算を行なった。そして、複数回の巨大衝突によって化学平衡が移動し、最終的に形成される惑星の化学組成を見積もった。その結果、原始惑星は原始大気を大量に獲得する巨大衝突フェーズと、その後の原始大気をほとんど獲得しない巨大衝突の両方を経験し成長することが明らかになった。前者では、大量の水素がコアに進入し、原始惑星のコアは現在の地球より低密度となる。Young et al.(2023)で示されたような、単一の化学平衡で現在の地球を再現するようなケースは存在しない。しかし、初期の巨大衝突でコアに水素を過剰に溜め込んだ原始惑星は、後の原始大気を獲得しない巨大衝突後に、コアの水素を大気に戻すことを化学平衡モデルによる計算から確かめた。大気に戻った水素は、その一部が水の生成に使われる。そこで、本発表では、巨大衝突に伴う再平衡化によって現在の地球の化学組成が再現される可能性を指摘し、その実現可能性を議論する。