16:30 〜 16:45
[PPS07-05] 応力履歴依存レオロジーモデルを用いた2次元円環マントル対流シミュレーションによるプレートテクトニクス再現の試み

キーワード:応力履歴依存レオロジー、マントル対流、プレートテクトニクス、低温熱境界層
プレート運動を再現することは、マントル対流シミュレーション研究の最大の目標の1つである。そのためには、ほとんど変形しない「硬い」プレート内部と、顕著に変形する「柔らかい」プレート境界という、力学的特性の異なる2つの状態を同時に表現しうる高度なレオロジーのモデルが重要である。
そこで本研究では Ogawa らによる先行研究 (Ogawa, 2003; Miyagoshi et al., 2020) で提案されている「応力履歴依存レオロジー」に注目し、我々の研究室で開発した2次元円環状領域内のマントル対流シミュレーションプログラムへ導入し、低温の「硬い」表層付近の挙動を検討した。
本研究では、地球のマントルの形状 (厚さ約 3000 km、内径と外径の比 0.55) を模した2次元半円環形状内における、ブシネスク近似のもとでのマントル物質の熱対流を考える。なお対流は下面からの加熱のみによって駆動されるものとし、簡単のため内部発熱の効果は無視している。マントル物質の粘性率は温度や圧力 (深さ) に依存するものとし、粘性率の強い温度依存性によって地表面沿いの低温の部分に高粘性の「硬い板」(リソスフェア) を発達させる。
これに加えて、粘性率は応力履歴にも依存するものとする。具体的には、流体にはたらく応力σ がある範囲内であると( σm<σ<σp )、 粘性率は「無傷で硬い」状態 (プレートの内部に相当) と「壊れて柔らかい」状態(プレート境界に相当) に対応する2つの値をとり得るが、そのどちらをとるかは過去の応力状態 (「無傷」か「壊れた」か) によって定まるものとしている。なお本研究は、このような応力履歴依存性をもつレオロジーモデルを非デカルト座標系の熱対流シミュレーションに適用した初めての例である。
本研究のシミュレーションの結果、ある条件下においては「プレートらしい」挙動が2次元円環モデルでも発現することが確認できた 。具体的には、上面境界ではリソスフェアはいくつかの硬い「プレート」に分かれ、それぞれのプレートが極めて剛体的 (|∂vθ/∂θ|≈ 0) に運動している。その際、となり合うプレート間の相対運動によって引き起こされるリソスフェアの変形は、ごく狭い「プレート境界」に集中して起こっている。またプレートの剛体的な水平運動に起因して地表面での熱流量は海嶺から離れるとともに減少するが、特にプレートの拡大境界 (海嶺) に近いところでは半無限体の冷却モデルによる予測 (いわゆるルート t 則、例えばTurcotte and Schubert, (2014) など ) と調和的な減少の傾向を示している。
これに加えて、粘性率の温度依存性の強さを系統的に変化させ同様の数値シミュレーションを実施することにより、本研究で採用した応力履歴依存レオロジーが「プレートらしい」挙動の発現に極めて重要な役割を果たしていることを見出した。具体的には、プレートにはたらく力の源としてそれ自身のもつ負の浮力 (いわゆる「海嶺押し力 (ridge push force)」) を想定し、表層の「硬い」リソスフェア内に発生する応力レベルσcTBL を見積ったところ、「プレートらしい」挙動を示す対流構造 (以下 PL 型) が発現したのは粘性率に応力履歴依存性がもたらされる場合 ( σm<σcTBL<σp ) に限られていることが分かった。
さらに本研究の結果を先行研究 (Ogawa, 2003) の2次元箱型モデルと比較したところ、PL 型の対流が発現する条件はモデル形状の「丸い」効果の有無によらずほぼ不変であることも分かった。その原因として、モデル形状の「丸い」効果によって低温熱境界層の厚さやそれが上下に支える温度差にはそれぞれ変化 (前者は増加、後者は減少)があるものの、両者の積などから見積られる σcTBL の値は「丸い」効果の有無によらずほぼ同じになることが挙げられる。
本研究の結果は、応力履歴依存レオロジーが「プレートらしい」挙動の発現に重要な役割を果たしていることを再確認するとともに、その発現する条件はマントル対流シミュレーションのモデル形状によらずほぼ不変である可能性を示唆している。今後は3次元球殻形状モデルや2次元全円環形状モデルを含めた (側面境界のない) より高度なシミュレーションの実現と、その計算結果の定量的な解析、形状による再現結果の差異の検討を並行して進めていきたい。
そこで本研究では Ogawa らによる先行研究 (Ogawa, 2003; Miyagoshi et al., 2020) で提案されている「応力履歴依存レオロジー」に注目し、我々の研究室で開発した2次元円環状領域内のマントル対流シミュレーションプログラムへ導入し、低温の「硬い」表層付近の挙動を検討した。
本研究では、地球のマントルの形状 (厚さ約 3000 km、内径と外径の比 0.55) を模した2次元半円環形状内における、ブシネスク近似のもとでのマントル物質の熱対流を考える。なお対流は下面からの加熱のみによって駆動されるものとし、簡単のため内部発熱の効果は無視している。マントル物質の粘性率は温度や圧力 (深さ) に依存するものとし、粘性率の強い温度依存性によって地表面沿いの低温の部分に高粘性の「硬い板」(リソスフェア) を発達させる。
これに加えて、粘性率は応力履歴にも依存するものとする。具体的には、流体にはたらく応力σ がある範囲内であると( σm<σ<σp )、 粘性率は「無傷で硬い」状態 (プレートの内部に相当) と「壊れて柔らかい」状態(プレート境界に相当) に対応する2つの値をとり得るが、そのどちらをとるかは過去の応力状態 (「無傷」か「壊れた」か) によって定まるものとしている。なお本研究は、このような応力履歴依存性をもつレオロジーモデルを非デカルト座標系の熱対流シミュレーションに適用した初めての例である。
本研究のシミュレーションの結果、ある条件下においては「プレートらしい」挙動が2次元円環モデルでも発現することが確認できた 。具体的には、上面境界ではリソスフェアはいくつかの硬い「プレート」に分かれ、それぞれのプレートが極めて剛体的 (|∂vθ/∂θ|≈ 0) に運動している。その際、となり合うプレート間の相対運動によって引き起こされるリソスフェアの変形は、ごく狭い「プレート境界」に集中して起こっている。またプレートの剛体的な水平運動に起因して地表面での熱流量は海嶺から離れるとともに減少するが、特にプレートの拡大境界 (海嶺) に近いところでは半無限体の冷却モデルによる予測 (いわゆるルート t 則、例えばTurcotte and Schubert, (2014) など ) と調和的な減少の傾向を示している。
これに加えて、粘性率の温度依存性の強さを系統的に変化させ同様の数値シミュレーションを実施することにより、本研究で採用した応力履歴依存レオロジーが「プレートらしい」挙動の発現に極めて重要な役割を果たしていることを見出した。具体的には、プレートにはたらく力の源としてそれ自身のもつ負の浮力 (いわゆる「海嶺押し力 (ridge push force)」) を想定し、表層の「硬い」リソスフェア内に発生する応力レベルσcTBL を見積ったところ、「プレートらしい」挙動を示す対流構造 (以下 PL 型) が発現したのは粘性率に応力履歴依存性がもたらされる場合 ( σm<σcTBL<σp ) に限られていることが分かった。
さらに本研究の結果を先行研究 (Ogawa, 2003) の2次元箱型モデルと比較したところ、PL 型の対流が発現する条件はモデル形状の「丸い」効果の有無によらずほぼ不変であることも分かった。その原因として、モデル形状の「丸い」効果によって低温熱境界層の厚さやそれが上下に支える温度差にはそれぞれ変化 (前者は増加、後者は減少)があるものの、両者の積などから見積られる σcTBL の値は「丸い」効果の有無によらずほぼ同じになることが挙げられる。
本研究の結果は、応力履歴依存レオロジーが「プレートらしい」挙動の発現に重要な役割を果たしていることを再確認するとともに、その発現する条件はマントル対流シミュレーションのモデル形状によらずほぼ不変である可能性を示唆している。今後は3次元球殻形状モデルや2次元全円環形状モデルを含めた (側面境界のない) より高度なシミュレーションの実現と、その計算結果の定量的な解析、形状による再現結果の差異の検討を並行して進めていきたい。