16:15 〜 16:30
[PPS07-19] 木星衛星イオの表面環境を想定した低温二酸化硫黄固体の中間赤外線イメージング分光測定と変性実験

昨今の探査機や天体望遠鏡による高感度・高分散分光観測により、太陽系天体の表層や大気の化学組成のみならず、系外惑星の大気組成までも明らかになりつつある。これらの分光観測の解釈には、実験室で取得した詳細な分光測定データが不可欠である。そこで、我々は低温低圧の天体環境を再現可能な液体窒素冷却クライオスタットを開発し、多様な化学種に適応する低温分光撮像システムを構築した(Koga et al. (2024))。本発表では、このシステムで分光測定が可能であり、かつ太陽系内で最も火山活動が活発な木星衛星イオの大気および表面で支配的に存在する二酸化硫黄(SO2)に着目した。
イオでは、火山噴火によってSO2を主成分とするガスが供給され、10-3 Pa程度の希薄な大気が形成されている。イオの表面は、夜や木星蝕中では約90 Kまで冷却され、大気中のSO2ガスが凝華(凝縮)することで霜状のSO2固体が表面に堆積する。一方で、昼になると太陽光によって表面が約120 Kまで加熱されることでSO2固体の一部は昇華する。以上のように、イオでは昼夜の周期(~1.8日)に応じて、大気と表面の間でSO2の気相-固相循環が成立している。表面のSO2固体については、赤外線領域での分光観測が数例行われており、Galileo探査機はイオ表面の近赤外線を分光観測し、SO2固体の大きさや疎密がイオ表面の場所によって異なることを明らかにした(Douté et al. (2001))。また、SO2固体の物性の解明を目的とした模擬中間赤外線分光実験(e.g. Nash and Betts (1995))が過去に少数行われてきたが、イオ表面環境下における熱や紫外線によるSO2固体の変性メカニズムとスペクトルとの対応関係はこれまでに解明されていない。
本研究では、開発したクライオスタットでイオ表面の低温低圧な環境を再現してSO2固体を堆積し、アニーリングや紫外線照射の過程を分光測定することでSO2固体の変性メカニズムの解明を目指した。分光器には、准共通光路波面分割型位相シフト干渉法(Qi et al. (2015))に基づく、イメージングフーリエ変換中間赤外線分光器(2D FT-MIR)を用い、空間二次元の中間赤外線透過吸収スペクトルを取得した。本実験では以下の操作を行った。(1)クライオスタットの真空チャンバー内を10-3 Pa程度まで減圧、(2)サンプルホルダー上のセレン化亜鉛(ZnSe)基板を90 K程度まで冷却、(3)真空チャンバー内にSO2ガスを噴出して冷却されたZnSe基板上にSO2固体を堆積、(4)スペクトル測定を行いながら、~90 K−120 Kのアニーリングや、重水素ランプの紫外線(~190 nm−340 nm)の照射をした。~7.5 μm(SO2 ν3領域)に強いバンドが、~8.7 μm(SO2 ν1領域)に弱いバンドが観測されていたが、アニーリングを1回行うとν1領域のバンド強度比が温度に対して不可逆的に増強した。本発表では、多数回アニーリングを実施してバンド強度比の変化を考察する。また、紫外線照射によって、三酸化硫黄(SO3)と、7.4 μm付近にピークを有する未知吸収物質の生成を確認した(根岸他, 第23回分子分光研究会)。SO3については、SO2分子の結合解離エネルギーが218.7 nmであることから、解離・再結合反応と、電子励起(B←Xバンド)にともなう項間交差で獲得する余剰エネルギーによって引き起こされる協奏反応(Ito et al. (2023))との競合反応で生成したと考えられる。本発表では、カットオン波長250 nmのロングパスフィルターを用いた紫外線照射を行い、未知吸収物質の生成が解離・再結合反応と協奏反応のどちらが優位な反応経路であるかを議論する。
イオでは、火山噴火によってSO2を主成分とするガスが供給され、10-3 Pa程度の希薄な大気が形成されている。イオの表面は、夜や木星蝕中では約90 Kまで冷却され、大気中のSO2ガスが凝華(凝縮)することで霜状のSO2固体が表面に堆積する。一方で、昼になると太陽光によって表面が約120 Kまで加熱されることでSO2固体の一部は昇華する。以上のように、イオでは昼夜の周期(~1.8日)に応じて、大気と表面の間でSO2の気相-固相循環が成立している。表面のSO2固体については、赤外線領域での分光観測が数例行われており、Galileo探査機はイオ表面の近赤外線を分光観測し、SO2固体の大きさや疎密がイオ表面の場所によって異なることを明らかにした(Douté et al. (2001))。また、SO2固体の物性の解明を目的とした模擬中間赤外線分光実験(e.g. Nash and Betts (1995))が過去に少数行われてきたが、イオ表面環境下における熱や紫外線によるSO2固体の変性メカニズムとスペクトルとの対応関係はこれまでに解明されていない。
本研究では、開発したクライオスタットでイオ表面の低温低圧な環境を再現してSO2固体を堆積し、アニーリングや紫外線照射の過程を分光測定することでSO2固体の変性メカニズムの解明を目指した。分光器には、准共通光路波面分割型位相シフト干渉法(Qi et al. (2015))に基づく、イメージングフーリエ変換中間赤外線分光器(2D FT-MIR)を用い、空間二次元の中間赤外線透過吸収スペクトルを取得した。本実験では以下の操作を行った。(1)クライオスタットの真空チャンバー内を10-3 Pa程度まで減圧、(2)サンプルホルダー上のセレン化亜鉛(ZnSe)基板を90 K程度まで冷却、(3)真空チャンバー内にSO2ガスを噴出して冷却されたZnSe基板上にSO2固体を堆積、(4)スペクトル測定を行いながら、~90 K−120 Kのアニーリングや、重水素ランプの紫外線(~190 nm−340 nm)の照射をした。~7.5 μm(SO2 ν3領域)に強いバンドが、~8.7 μm(SO2 ν1領域)に弱いバンドが観測されていたが、アニーリングを1回行うとν1領域のバンド強度比が温度に対して不可逆的に増強した。本発表では、多数回アニーリングを実施してバンド強度比の変化を考察する。また、紫外線照射によって、三酸化硫黄(SO3)と、7.4 μm付近にピークを有する未知吸収物質の生成を確認した(根岸他, 第23回分子分光研究会)。SO3については、SO2分子の結合解離エネルギーが218.7 nmであることから、解離・再結合反応と、電子励起(B←Xバンド)にともなう項間交差で獲得する余剰エネルギーによって引き起こされる協奏反応(Ito et al. (2023))との競合反応で生成したと考えられる。本発表では、カットオン波長250 nmのロングパスフィルターを用いた紫外線照射を行い、未知吸収物質の生成が解離・再結合反応と協奏反応のどちらが優位な反応経路であるかを議論する。