日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 惑星科学

2024年5月30日(木) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:荒川 創太(海洋研究開発機構)、田畑 陽久(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、冨永 遼佑(東京工業大学 理学院地球惑星科学系)

17:15 〜 18:45

[PPS07-P15] 内海を覆う氷地殻上のクレーター形成実験

*菊川 涼介1荒川 政彦1保井 みなみ1豊田 優佳里1笹井 遥1石井 竣基1 (1.神戸大学)

キーワード:クレーター、衝突実験、氷衛星、内海

氷衛星は表面を氷で覆われた衛星であり、木星の衛星エウロパ、ガニメデ、カリストや土星の衛星エンケラドスなどが知られている。これらの氷衛星はさまざまな表面地形をもち多様性に富むが、その中でも特に注目を集めているのが、内海を有する氷衛星である。内海を有する氷衛星表面で見られるカオス地形は、内部熱が氷地殻を溶かして形成した説(Ivanov et al., 2011)、または氷地殻が薄いまたはその強度を超える衝突により形成した説(Cox et al., 2008)など、その成因に関して未だ議論が続いている。また、内海には生命存在の可能性もあるとして、現在NASAにより木星の氷衛星のJUICE計画が実施されており、内海を有する氷衛星には未解明の点も多く残っている。
このような氷衛星の表面地形に関して、これまで氷地殻・内海を模擬した標的を用いた研究が過去に行われている。Harriss & Burchell(2017)は氷の下に水、砂、玄武岩を設置した標的を用いた高速度衝突実験を行い、クレーター形態やサイズが下層物質、特にその密度や氷の厚みによって変化することを確認した。Cox et al.(2008)は水や雪の上に設置した氷への高速度衝突実験を行い、クレーターの直径や放出されたエジェクタ破片の数、クレーター周囲の様子を調べ、それらの結果を基に衝突によりカオス地形が形成される可能性について調べた。しかし、内海を模擬した液体の上に氷を設置した標的を用いた研究は少なく、また、表面の氷上に形成した地形に着目した研究が多く、衝突時の内海に着目した研究はなかった。そこで本研究では、内海を覆う氷地殻を再現した標的への衝突実験を行い、氷地殻の厚さや内海の有無がクレーターの形成や、内海へ与える影響について調べた。
標的は、内径7.4cm×7.4cm×7.4cmのアクリルボックスに8mm、5mm、2.5mmと厚みを変えた氷をはめ込み、その下に、内海を模擬したシリコンオイル(粘度10cSt)を充填することで作成した。また、比較のため、11mm、8mm、5mm、2.5mmと厚みを変えた純粋な氷板標的も作成した。標的は全て-15℃の低温室内で作成した。実験は、神戸大学の-15℃の低温室に設置された横型二段式軽ガス銃を用いて行った。直径1mmのアルミニウム弾丸を衝突速度約1km/sで加速した。全ての実験は高速カメラを用いて撮影し、内海の観察を行った。また、撮影した映像を解析することで、内海中のクレーター成長に関する物理量を計測した。
実験の結果、氷板上のクレーター形状に関しては次のことが分かった。氷板のみの場合、氷板の厚みが増加しても、クレーターの直径は変化しなかった。しかし、氷板の厚みの増加に伴い、深さはわずかに減少した。また、シリコンオイルとの二層標的の場合を氷板のみの結果と比較した結果、同じ氷の厚さでは氷板のみに比べてクレーター直径が約2倍小さくなることが分かった。
次に、シリコンオイル中のクレーター成長に伴う反対点速度(クレーター孔の先端の成長速度)と衝突によって発生した衝撃波の速度を計測した。反対点速度は、氷板のみの場合、氷の厚みの増加とともに指数関数的に減少した。また、シリコンオイルが存在すると、反対点速度は約10倍小さくなることが分かった。一方、衝撃波速度は、シリコンオイルを用いた二層標的のみ確認され、氷の厚みの増加とともに指数関数的に減少し、約1200m/sに漸近することが分かった。衝撃波速度がほぼ一定になる氷の厚みは、弾丸が氷に貫入する長さにより制限されている可能性があり、そのため、弾丸物性により変化する可能性がある。