日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 惑星科学

2024年5月30日(木) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:荒川 創太(海洋研究開発機構)、田畑 陽久(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、冨永 遼佑(東京工業大学 理学院地球惑星科学系)

17:15 〜 18:45

[PPS07-P19] 自転する粘弾性天体の扁平化に関する数値シミュレーションと月の化石バルジの再現条件についての検討

*寺戸 聖菜1亀山 真典2 (1.愛媛大学大学院理工学研究科、2.国立大学法人愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター )

キーワード:月、化石バルジ、マクスウェル粘弾性

「化石バルジ」とは、静水圧理論から導き出される理論上の形状よりも逸脱した、月の赤道域の過剰な膨らみを意味する。これは、月の公転軌道半径が現在よりも小さかった過去に獲得された形状が、現在まで維持された結果であると解釈されている。本研究の究極の目標は、化石バルジに表わされる月の大局的な形状を鍵にして、月地球の軌道進化や月自身の進化を理解することにある。この最終目標の達成に向け我々は、Qin et al. (2018) の先行研究を参考として、自転する岩石天体が遠心力の影響を受けて時間とともに形状を変える過程を追跡するプログラムの開発を行っている。

 本研究で開発したプログラムでは、核とマントルの2層から構成された岩石天体の内部および境界面 (地表、CMB) が、自転による遠心力と潮汐力、自らの重力を受けて変形する様子を数値的に解く。その際、天体の内部構造は、核の大きさと密度、およびマントルの密度およびレオロジー (粘性あるいはマクスウェル粘弾性) によって特徴づけられるものとしている。天体の変形を記述する基礎方程式は変数分離法により解くが、その際水平方向には球面調和関数展開、鉛直方向には有限差分法を用いている。本研究のプログラムの大きな特徴は、独自に開発した鉛直方向の境界値問題の解法にある。具体的には、鉛直方向の変位速度のみを未知変数とする4階の常微分方程式に基礎方程式群を変形・統合し、離散化によって得られた連立一次方程式を直接解法によって解く。この方法には、よく知られる propagator matrix 法とは異なり、反復計算が不要となることや、高精度化が容易であるといった特徴がある。

 ここで開発したプログラムの検証の第一歩として、岩石天体マントルを (弾性変形しない) 高粘性流体と仮定したシミュレーションを行った。ここでは、マントル内部の粘性構造をさまざまに変更することによって、形状の変化する時定数がどう変化するかに注目して解析した。その結果、天体が平衡な形状に達するまでの時定数はマントル全体の粘性率、あるいは「地殻」に相当する表面付近の薄い層内の粘性率に比例して増加するものの、その時定数が数十億年程度の長さになるには 10^27 Pa・s 程度の粘性率を必要とすることが分かった。

次に、岩石天体マントルのレオロジーをマクスウェル粘弾性に変更することにより、弾性変形の効果に注目した予備的なシミュレーションを実施した。外力 (遠心力、潮汐力)の時間変化がなく、マントルの粘性率が空間的に一様であると仮定した簡単な場合で検証したところ、粘弾性の効果が正しくモデル化できていることが確認できた。具体的には、外力を加えた直後には弾性による変形が卓越するが、十分長い時間が経過した後は弾性の値によらず、静水圧理論で与えられる形状に到達した。さらに粘性流体モデルと粘弾性体モデルの結果を比較すると、弾性の効果を加えることで平衡値に至るまでの時間が長くはなるものの、その遅延はごくわずか (10倍程度) であることも分かった。このことは、化石バルジを数十億年という長期間にわたって保持するためには、マントルの粘性の空間変化、とりわけ低温の表層付近で粘性が高く、変形が弾性優位で起こることが重要であることを示唆しているのであろう。

 我々は現在、月の軌道進化を模した外力項の時間変化や、月の熱史を反映したマントル内部のレオロジー構造の時間変化の効果を取り入れたシミュレーションを目指し、プログラムのさらなる改良を進めている。本発表ではその成果についても触れる予定である。