日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] 太陽系物質進化

2024年5月26日(日) 09:00 〜 10:30 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、松本 徹(京都大学白眉センター)、橋口 未奈子(名古屋大学)、竹之内 惇志(京都大学)、座長:松本 徹(京都大学白眉センター)、橋口 未奈子(名古屋大学)


10:00 〜 10:15

[PPS08-05] リュウグウサンプル中の磁鉄鉱粒子3次元形状多様性から探る結晶成長条件

*土山 明1,2松本 恵3、大野 遼1松野 淳也4三宅 亮5伊神 洋平5中村 智樹3安武 正展6、上杉 健太朗6、竹内 晃久6橘 省吾7 (1.立命館大学総合科学技術研究機構、2.中国科学院広州地球科学研究所、3.東北大学理学研究科、4.九州大学大学院工学研究院、5.京都大学理学研究科、6.高輝度光科学研究センタースプリング8、7.東京大学理学系研究科)

キーワード:X線ナノCT、透過型電子顕微鏡、水質変成作用、結晶形態

C型小惑星リュウグウから持ち帰られたサンプルは、層状ケイ酸塩、Fe硫化物、磁鉄鉱、炭酸塩、アパタイトなどからなり、CIコンドライトに対応した物質である[1]。リュウグウ粒子(<~100 μm)の放射光ナノCT(XnCT)により、3次元組織(空間分解能:~200 nm)が明らかにされ、Fe硫化物、炭酸塩、アパタイトは特徴的な自形の結晶形状をもつのに対して、磁鉄鉱は多様な3次元形状(球晶、プラケット、フランボイド、棒状晶、等粒状晶、ウィスカー、立方晶)をもつ [2]。鉱物の相対的な包有関係から、リュウグウ母天体における水質変成作用時の析出順序が求められ、水質変成プロセスのモデルが提唱された[2]。このモデルでは、反応性に富む非晶質珪酸塩の溶解により生じた高飽和度水溶液から、結晶度の低い層状ケイ酸塩と磁鉄鉱球晶が最初に析出、その後飽和度の低下につれて、プラケットとフランボイド、やがて自形の鉱物結晶が析出した。一方で、磁鉄鉱の形状および析出順序に着目し、結晶形状の”進化”モデルが提案されたが[3]、結晶方位についての情報は断片的である。そこで本研究では、磁鉄鉱の3次元形状と、一部粒子のTEMによる結晶方位を組み合わせることにより、水質変成作用のより詳細な理解を試みた。
XnCTより3次元形状が得られている磁鉄鉱のTEM切片をFIBにより切り出し、SAEDパターンを取得し、3次元形状の方位を決める手法を新たに開発した[4]。これにより、プラケットは{100}と{110}の薄板が積層した2種類があり、棒状晶やウィスカーは〈100〉に伸長する(棒状晶側面も主として{100})ことがわかった[1,4]。球晶は電子線回折マッピングにより、針状晶の扇形の集合領域に同一の結晶方位をもつ部分があるなど、伸長方向と結晶方位との関係は単純ではないことがわかった。一方、3次元像での面角測定により、等粒状晶は主として{311}、立方晶は{100}からなることが推定された。今回の結果は、{110}薄板が積層したプラケットを除き、従来の球晶、等粒状晶の先行研究[5-7]とも整合的である。以上により、磁鉄鉱形状は、{100}系、{110}系、{311}系、特定の結晶方位をもたないものに分けられる。
結晶形状は、一定の体積に対して表面自由エネルギーの総和が最も小さいものが安定である(平衡形)。これに対して、実際に成長した結晶形状は、成長環境や条件に支配される(成長形)。例えば、高過飽和度では成長界面の不安定性が起き、表面積が大きく(表面自由エネルギーが高く)なっても、系全体の自由エネルギーが低下する様な成長がおこる。そこで本研究では、第0近似として(1)結晶は四角柱(長さL、幅W)からなり、(2)結晶面は同じ表面自由エネルギー, γ, をもつと仮定し、表面自由エネルギーの総和とバルク自由エネルギーとの比,ε,を、LW、γおよび単位体積あたりの自由エネルギー, G, で表した(ε= 2(1/L + 2/W) (γ/G))。これは、W-L図において一定のε/(γ/G)をもつ曲線が存在し、仮定によりγ/G比は一定なので、εの相対的な大きさが判定できることを示している。CT像でさまざまな磁鉄鉱結晶のL, Wを測定したところ(球晶は構成する針状結晶、プラケットは薄板、フランボイドは個々の結晶を測定した)、球晶 > フランボイド({311}系) > ウィスカー({100}系) ~ プラケット({100}/{110}系) > 立方晶({100}系)> 棒状晶({100}系)> 等粒状晶({311}系)の順にεが低くなることがわかった。この順序は、析出順序とも整合的で、過飽和度の低下に伴いεが低くなる順に磁鉄鉱が析出したことになる。しかしながら、これは結晶面での分類を考えると{311}系 → {100}系 → {110}系→ {100}系→ {311}系という順序になる。もし出現する結晶面が溶液のpHや不純物などの影響を受けているとすると、これらの環境変化が繰り返し起こったことになり、その理由を単純には説明できない。
[1] Nakamura et al. (2023) Science, 379, eabn8671. [2] Tsuchiyama et al. GCA (投稿中). [3] 𡈽山ら (2022) 日本鉱物科学会秋季講演会. [4] Ohno et al. (2024) LPSC. abstract #1488. [5] Chan et al. (2016) Am. Min.101, 2041. [6] Nozawa et al. (2011) JACS, 133: 8782. [7] Dobrică et al. (2023) GCA 346, 65-75.