日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] 太陽系物質進化

2024年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、松本 徹(京都大学白眉センター)、橋口 未奈子(名古屋大学)、竹之内 惇志(京都大学)、座長:川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、竹之内 惇志(京都大学)


15:00 〜 15:15

[PPS08-18] 太陽系内側天体における炭素枯渇問題の解明に向けて

*岡本 珠実1,2井田 茂1 (1.東京工業大学地球生命研究所、2.コート・ダジュール天文台)

地球の炭素分率は太陽や星間物質の値に比べて3桁ほど低いと推定されている。また隕石の分析結果から、小惑星の炭素分率も太陽の値より2桁ほど低いことがわかっている (e.g., Alexander et al. 2007)。炭素は星間物質中や彗星中においてアモルファスカーボンや難揮発性有機物などの難揮発性物質として存在している。これらの物質は地球軌道付近では固体として存在するため、地球などの岩石天体を星間物質中と同じダスト組成を用いて形成した場合、これらの天体は現在に比べて非常に炭素に富んだ組成を持つと推測される。すなわち、現在の岩石天体の炭素分率を説明するためには、難揮発性炭素を天体形成前に破壊しなければならない。
難揮発性炭素の一つであるアモルファスカーボンは遠紫外線によって光分解されることが実験結果からわかっている(Alata et al. 2014; 2015)。原始惑星系円盤の表層面は中心星からの遠紫外線照射を受けることから、炭素ダストが円盤表層に十分な時間巻き上げられた場合において、太陽系内側では十分に炭素が破壊されると示されてた(Anderson et al. 2017)。しかし、炭素ダストの円盤内側への移流タイムスケールは光分解のタイムスケールに比べて十分に小さいことから、炭素ダストの円盤中での運動を考慮すると円盤内側の炭素分率はほぼ減少しないことが数値計算結果から示されている(Klarmann et al. 2018; Binkert & Birnstiel 2023)。先行研究ではダストの付着力は円盤全域で一定であると仮定していたが、実験結果からシリケイトは氷に比べて付着力が弱いと示されていることから、円盤内の氷が昇華するスノーラインの内側では付着力が低下し、シリケイト粒子が堆積すると予測される。この効果は円盤内のダスト組成に影響する可能性がある。
本研究では、シリケイトが氷よりも付着力が弱く、かつ炭素ダストとシリケイトの付着力が同程度であると仮定し、円盤内のダストの運動と炭素分率についてモンテカルロシミュレーションを行った。その結果、スノーライン近傍から炭素分率が低下し始め、最大で2桁程度低下することがわかった。これは、初期に円盤外側からスノーラインへと向かう氷ペブル流が早期に低下することでスノーライン以遠でダストの面密度が低下し、FUVに対する円盤の不透明度が低下することで光分解が促進されること、及びスノーライン内側でシリケイトダストが堆積することにより、外側から流入する新たな炭素ダスト流が無視できるためであると推測される。本研究で得られた炭素分率の分布は、隕石の炭素量の分布と整合的であることがわかった。一方で地球の炭素分率に比べると依然として高い値を保つため、今後の研究において高温領域( T > 1200 K)でのアモルファスカーボンの酸化や有機物の熱分解などの別の炭素破壊プロセスも考慮していく必要がある。