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[PPS08-19] CRコンドライトMIL090657中のHeに富むクラスト:前主系列星期太陽起源の高エネルギー粒子照射の証拠
キーワード:同位体イメージング、CRコンドライト、ヘリウム、太陽高エネルギー粒子
希ガスは揮発性が高く化学的に不活性であるため、太陽系固体物質中の存在度は太陽組成に比べて非常に低い。月・小惑星表層レゴリスのような太陽風に曝された物質は太陽風イオンの注入によって多量の希ガスを獲得する[e.g., 1, 2, 3]。隕石にも太陽風希ガスを豊富に含むものが多数存在するが、それらはかつて太陽風に曝された母天体表層物質に由来すると考えられている。最近、同位体ナノスコープ(LIMAS)を用いた同位体イメージングにより、太陽風希ガスに富む隕石中のナノメートルスケールの太陽風He分布が明らかになった[4]。一方、今回新たに太陽風希ガスに乏しいCRコンドライトであるMIL090657隕石 [5]からHeに富む特徴的なクラストを発見した。本発表ではこのクラストの岩石鉱物学的特徴とナノメートルスケールのHe分布に基づき、He獲得過程について考察する。
MIL090657隕石の研磨厚片試料を作製し、LIMASによる4He, 24Mg, 32S, 58Niの同位体イメージングを行った。その結果、大きさ約10μmのHeに富むクラストを発見した。その後、走査電子顕微鏡観察および集束イオンビーム装置を用いて作成した薄膜試料の透過電子顕微鏡観察によりクラストの岩石鉱物学的特徴を調べた。
Heに富むクラストは隕石の細粒マトリクスに埋まっていた。このクラストは主に数十nmの硫化鉄微結晶(ピロータイトまたはトロイライト)からなる多孔質の集合体で構成されていた。集合体にはマグネタイトおよびNiに富む硫化物の微結晶も含まれていた。集合体中には最大2μmのシュライバーサイトが存在していた。また、最大3μmの自形のピロータイトがクラストを囲うように存在していた。同位体イメージングの結果、高濃度の4He(~4 × 1019 atoms/cm3)がシュライバーサイトから検出された。一方、微結晶集合体や自形ピロータイトからはほとんど検出されなかった。小さなスポットサイズ(~300nm)の一次ビームを用いた同位体イメージングにより、4Heは2μmのシュライバーサイト結晶の内部に均一に分布していることが明らかになった。
クラストを構成する多孔質な微結晶集合体は、その組織や鉱物組成からトチリナイトの熱分解によって形成されたと考えられる[6]。トチリナイトと自形のピロータイトはCRコンドライト母天体集積後まもなく発生した水質変質作用(CAI形成後400–1300万年後[7])によって形成された可能性が高い。Heがシュライバーサイトのみに濃集していることから、Heの獲得は水質変質以前に起きたと考えられる。水質変質作用の年代から、このときの太陽は前主系列星期(誕生から約1000万年間[8])にあった可能性が高い。
TRIMプログラム[9] を用いたイオン注入シミュレーションによれば、現在の平均的な太陽風4He(~4keV)がシュライバーサイトに注入されると約20nmの深さで停止する。これは粒径2μmのシュライバーサイトに見られた均一分布と矛盾する。均一な4He分布は、シュライバーサイトが1MeV以上のエネルギーを持つ多量の太陽高エネルギー粒子(solar energetic particles; SEP)にさらされたことを示唆する。太陽に似た質量の前主系列星からは頻繁に発生する強力なX線フレアが観測されており、前主系列星期の太陽は現在よりも桁違いに多量のSEPを放出していたと推測されている[10]。シュライバーサイトの高濃度かつ均質なHe分布は前主系列星期の太陽が現在と比べて非常に活動的だった証拠であると考えられる。
[1] Wieler (2002) RiMG vol. 47, 21–70. [2] Nagao et al. (2011) Science 333, 1128–1131. [3] Okazaki et al. (2023) Science 379, eabo0431. [4] Wada et al. (2023) JpGU2023, PPS08-12 (abstract). [5] Obase et al. (2021) GCA 312, 75–105. [6] Harries and Langenhorst (2013) M&PS 48, 879–903. [7] Jilly-Rehak et al. (2017) GCA 201, 224–244. [8] Feigelson and Montmerle (1999) ARAA 37, 363–408. [9] Ziegler, http://www.srim.org. [10] Feigelson et al. (2002) ApJ 572, 335–349.
MIL090657隕石の研磨厚片試料を作製し、LIMASによる4He, 24Mg, 32S, 58Niの同位体イメージングを行った。その結果、大きさ約10μmのHeに富むクラストを発見した。その後、走査電子顕微鏡観察および集束イオンビーム装置を用いて作成した薄膜試料の透過電子顕微鏡観察によりクラストの岩石鉱物学的特徴を調べた。
Heに富むクラストは隕石の細粒マトリクスに埋まっていた。このクラストは主に数十nmの硫化鉄微結晶(ピロータイトまたはトロイライト)からなる多孔質の集合体で構成されていた。集合体にはマグネタイトおよびNiに富む硫化物の微結晶も含まれていた。集合体中には最大2μmのシュライバーサイトが存在していた。また、最大3μmの自形のピロータイトがクラストを囲うように存在していた。同位体イメージングの結果、高濃度の4He(~4 × 1019 atoms/cm3)がシュライバーサイトから検出された。一方、微結晶集合体や自形ピロータイトからはほとんど検出されなかった。小さなスポットサイズ(~300nm)の一次ビームを用いた同位体イメージングにより、4Heは2μmのシュライバーサイト結晶の内部に均一に分布していることが明らかになった。
クラストを構成する多孔質な微結晶集合体は、その組織や鉱物組成からトチリナイトの熱分解によって形成されたと考えられる[6]。トチリナイトと自形のピロータイトはCRコンドライト母天体集積後まもなく発生した水質変質作用(CAI形成後400–1300万年後[7])によって形成された可能性が高い。Heがシュライバーサイトのみに濃集していることから、Heの獲得は水質変質以前に起きたと考えられる。水質変質作用の年代から、このときの太陽は前主系列星期(誕生から約1000万年間[8])にあった可能性が高い。
TRIMプログラム[9] を用いたイオン注入シミュレーションによれば、現在の平均的な太陽風4He(~4keV)がシュライバーサイトに注入されると約20nmの深さで停止する。これは粒径2μmのシュライバーサイトに見られた均一分布と矛盾する。均一な4He分布は、シュライバーサイトが1MeV以上のエネルギーを持つ多量の太陽高エネルギー粒子(solar energetic particles; SEP)にさらされたことを示唆する。太陽に似た質量の前主系列星からは頻繁に発生する強力なX線フレアが観測されており、前主系列星期の太陽は現在よりも桁違いに多量のSEPを放出していたと推測されている[10]。シュライバーサイトの高濃度かつ均質なHe分布は前主系列星期の太陽が現在と比べて非常に活動的だった証拠であると考えられる。
[1] Wieler (2002) RiMG vol. 47, 21–70. [2] Nagao et al. (2011) Science 333, 1128–1131. [3] Okazaki et al. (2023) Science 379, eabo0431. [4] Wada et al. (2023) JpGU2023, PPS08-12 (abstract). [5] Obase et al. (2021) GCA 312, 75–105. [6] Harries and Langenhorst (2013) M&PS 48, 879–903. [7] Jilly-Rehak et al. (2017) GCA 201, 224–244. [8] Feigelson and Montmerle (1999) ARAA 37, 363–408. [9] Ziegler, http://www.srim.org. [10] Feigelson et al. (2002) ApJ 572, 335–349.
