15:45 〜 16:00
[PPS08-20] NWA7678 reduced CV3コンドライト隕石中のcmサイズ暗色クラスト構成鉱物のラマン分光法を用いた岩石学的研究

コンドライト隕石には異なる母天体を起源とする,もしくは同じ母天体内で異なる変質・変成作用を受けた岩石が集積し,角礫岩化したものが存在する。こうした角礫岩化した隕石に含まれるクラストは,ホスト母天体の形成過程や内部環境を理解するのに重要な指標となる。例えばKaidun隕石には,あらゆる種類の隕石クラストが存在しており,クラストの鉱物学的特徴,形成年代測定から,Kaidun隕石母天体の形成年代に制約が与えられている[1]。また,CVコンドライトにはしばしば同じ母天体を起源とし,ホストとは変質の程度が異なる暗色包有物が含まれており,その鉱物学的特徴,化学組成から,CV母天体内部の環境の多様性について議論されてきた[2]。このようにクラストの起源,成因を明らかにすることは,初期太陽系における隕石母天体の形成から進化の過程を理解する上で重要である。
本研究で用いたNWA7678 reduced CV3コンドライトの厚片は,2cm x 4 cmの大型の暗色クラストを含む角礫岩である。これまで暗色クラストに対して詳細な岩石学的研究,及びホストの岩石学的特徴との比較は行われておらず,暗色クラストの起源や成因については全く不明瞭であった。JpGU2023の発表では,暗色クラストとホストの岩石組織および構成鉱物の詳細な岩石学的記載を行い,その岩石組織および鉱物組成を詳細に比較することで,ホストとクラストの違いを明らかにした。暗色クラストにはコンドル―ルに普遍的にみられるオリビン及び輝石の仮晶と考えられるFeに富むオリビンへの変質や,暗色クラスト全体に渡って硫黄を含む鉱物の欠乏,マトリクスに普遍的にみられるCa,Feに富む鉱物と共存するCa-炭酸塩の存在,Ca-炭酸塩とリン酸塩に富む特異な構成物の存在など,ホストにはみられない構成鉱物の特徴がみられた。特にCa-炭酸塩とリン酸塩に富む特異な構成物は既知のどのコンドライトでも報告されていない。これらの結果から,暗色クラストはホストと明らかに異なる岩石学的特徴をもち,ホストとは異なる隕石母天体を起源とするクラストである可能性が高い。
しかし,上記の岩石学的記載だけでは情報が不足しており,クラストの起源,成因に制約を与えるためにはより詳細な岩石学的特徴や,水素,酸素及び炭素などの安定同位体組成の分析,同位体年代測定が必要である。
こうした背景から本発表では,同位体分析を行う前にラマン分光法を用いてSEM-EDSでは特定できなかったクラストに含まれる鉱物,特にCa-炭酸塩に着目し,その鉱物同定を行い,これら鉱物の成因を議論することを目的とした。
鉱物同定の結果,クラスト上に特異な構成物として存在するCa-炭酸塩はアラゴナイト(CaCO3)であり,その周囲を覆うように存在するリン酸塩はメルリライト(Ca9NaMg(PO4)7)であることがわかった。アラゴナイトはこれまでにCM2.2-2.5において確認されており,Mg/Ca比が高く,水温13℃以上の環境下で形成されたことが示唆されている[3]。一方,アラゴナイトの形成要因としてもう一つ考えられるのがカルサイトからの高圧・高温下での相転移である[4]。今回の結果において確認されたメルリライトは普通コンドライトなどの熱変成を受けたと考えられる隕石から報告されており[5],母天体上でリン酸塩が熱変成作用を受け,形成されたことが示唆されている[6]。そのメルリライトがアラゴナイトの周囲を覆うように存在していることから,アラゴナイトはメルリライトが形成されたプロセスに関連し,高圧・高温下で形成された可能性が考えられる。
今後,このアラゴナイトについて,U-Pb年代測定法を適応し,年代学的な制約から,この暗色クラストの起源や成因に制約を与えることを目指す。
[1] Petitat et al. (2011), MAPS, 46, 275-283. [2] Kojima and Tomeoka (1996), GCA, 60, 2651-2666. [3] Lee et al. (2014), GCA, 144, 126-156. [4] Jamieson (1953), The Journal of Chemical Physics, 21, 1385-1390. [5] Rubin (1997), MAPS, 32, 231-247. [6] Jones et al. (2014), GCA, 132, 120-140
本研究で用いたNWA7678 reduced CV3コンドライトの厚片は,2cm x 4 cmの大型の暗色クラストを含む角礫岩である。これまで暗色クラストに対して詳細な岩石学的研究,及びホストの岩石学的特徴との比較は行われておらず,暗色クラストの起源や成因については全く不明瞭であった。JpGU2023の発表では,暗色クラストとホストの岩石組織および構成鉱物の詳細な岩石学的記載を行い,その岩石組織および鉱物組成を詳細に比較することで,ホストとクラストの違いを明らかにした。暗色クラストにはコンドル―ルに普遍的にみられるオリビン及び輝石の仮晶と考えられるFeに富むオリビンへの変質や,暗色クラスト全体に渡って硫黄を含む鉱物の欠乏,マトリクスに普遍的にみられるCa,Feに富む鉱物と共存するCa-炭酸塩の存在,Ca-炭酸塩とリン酸塩に富む特異な構成物の存在など,ホストにはみられない構成鉱物の特徴がみられた。特にCa-炭酸塩とリン酸塩に富む特異な構成物は既知のどのコンドライトでも報告されていない。これらの結果から,暗色クラストはホストと明らかに異なる岩石学的特徴をもち,ホストとは異なる隕石母天体を起源とするクラストである可能性が高い。
しかし,上記の岩石学的記載だけでは情報が不足しており,クラストの起源,成因に制約を与えるためにはより詳細な岩石学的特徴や,水素,酸素及び炭素などの安定同位体組成の分析,同位体年代測定が必要である。
こうした背景から本発表では,同位体分析を行う前にラマン分光法を用いてSEM-EDSでは特定できなかったクラストに含まれる鉱物,特にCa-炭酸塩に着目し,その鉱物同定を行い,これら鉱物の成因を議論することを目的とした。
鉱物同定の結果,クラスト上に特異な構成物として存在するCa-炭酸塩はアラゴナイト(CaCO3)であり,その周囲を覆うように存在するリン酸塩はメルリライト(Ca9NaMg(PO4)7)であることがわかった。アラゴナイトはこれまでにCM2.2-2.5において確認されており,Mg/Ca比が高く,水温13℃以上の環境下で形成されたことが示唆されている[3]。一方,アラゴナイトの形成要因としてもう一つ考えられるのがカルサイトからの高圧・高温下での相転移である[4]。今回の結果において確認されたメルリライトは普通コンドライトなどの熱変成を受けたと考えられる隕石から報告されており[5],母天体上でリン酸塩が熱変成作用を受け,形成されたことが示唆されている[6]。そのメルリライトがアラゴナイトの周囲を覆うように存在していることから,アラゴナイトはメルリライトが形成されたプロセスに関連し,高圧・高温下で形成された可能性が考えられる。
今後,このアラゴナイトについて,U-Pb年代測定法を適応し,年代学的な制約から,この暗色クラストの起源や成因に制約を与えることを目指す。
[1] Petitat et al. (2011), MAPS, 46, 275-283. [2] Kojima and Tomeoka (1996), GCA, 60, 2651-2666. [3] Lee et al. (2014), GCA, 144, 126-156. [4] Jamieson (1953), The Journal of Chemical Physics, 21, 1385-1390. [5] Rubin (1997), MAPS, 32, 231-247. [6] Jones et al. (2014), GCA, 132, 120-140
