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[PPS08-P15] 原始太陽系円盤でのプレソーラー炭化ケイ素の残存可能性
キーワード:プレソーラー粒子、炭化ケイ素 (SiC)、蒸発、速度論、原始太陽系円盤
始原的隕石中で最も主要なプレソーラー粒子の一つである炭化ケイ素 (SiC) は (e.g., Zinner et al, 2014)、比較的酸化的な原始太陽系円盤ガス中では熱力学的に不安定であるため (Larimer & Bartholomay, 1979)、その残存可能性は、原始太陽系円盤の物理化学条件の指標となり得る。Menydybaev et al. (2002) では、1気圧における様々な温度-酸素フガシティ条件下でのSiC蒸発速度論が実験的に検証された。しかし、1気圧で得られた蒸発速度は、低圧円盤ガス条件には適用できない可能性がある。そのため本研究では、H2-H2O混合ガスの低圧ガス中でのSiCの蒸発実験をおこない、円盤中でのSiC蒸発反応の機構及び速度を検証した。
SiC蒸発実験は、ガス供給系を備えた高温真空炉を用いて、1506–1250℃、H2-H2O混合ガスの全圧 (Ptot.) =0.5, 2.5 Paで0.5–110.3 hおこなった。出発物質は、プレソーラーSiC粒子の主要な多形である β (3C)-SiC (Daulton et al., 2003) の多結晶板を用いた。本研究では以下の3つのガス条件を設定した; (1) Ptot. = 0.5 Pa、PH2O = 2.2 × 10–3 Pa、(2) Ptot. = 2.5 Pa、PH2O = 6.1 × 10–3 Pa、(3) Ptot. = 2.5 Pa、PH2O = 1.5 × 10–2 Pa。これらのガスの酸化還元状態は、典型的な原始太陽系円盤と同程度か、酸化的である (Lodders, 2003)。実験前後での試料の質量変化を高精度マイクロ天秤で測定した。一部の試料に関しては、FIB-SEM (Hitachi NX2000; Thermo Fisher Scientific Versa 3D) でFIB切片を作製し、STEM-EDS (JEOL JEM-2800) で観察をおこなった。顕微ラマン分光法による相同定もおこなった。
加熱した試料のSTEM-EDS分析結果から、試料表面に酸化物残渣層は見られないものの、多孔質の炭素に富む層が観察された。ラマン分光分析結果から、すべての分析試料においてグラファイトの均質な、または不均一な生成が確認された。これらの結果から、本研究でのSiC蒸発は、アクティブ酸化 (表面に酸化物残渣層を形成しない蒸発) に従うことが示唆される (e.g., Narushima et al., 1997)。試料の重量損失と初期サイズから推定される蒸発フラックスJは (Takigawa et al., 2009)、(1)–(3)のすべての加熱条件下で、~1350–1400℃より高温では弱い温度依存性を示し、より低温では大きな温度依存性を示した。高温での (大きく) 温度に依存しないJは、気体からのガス供給量が反応速度を律速している可能性を示す (e.g., Yamamoto et al., 2021)。一方、低温では、ガスに露出したSiC表面での化学反応が全体の反応速度を律速している可能性がある。本研究で得られた活性化エネルギー (~564–1160 kJ mol–1) は、PH2O増加とともに増加し、先行研究での報告されているアクティブ酸化における活性化エネルギーの範囲 (~460–1130 kJ mol–1) (e.g., Rosner & Allendorf, 1970; Mendybaev et al., 2002) と一致している。
本研究の結果は、原始太陽系円盤においてプレソーラーSiC粒子の蒸発は、酸化物残渣層を形成しないアクティブ酸化により進行することを示唆し、始原的隕石中のプレソーラーSiC粒子表面の酸化物リム (Bernatowicz et al., 2006) は、コンドリュール形成をもたらした酸化的な加熱イベントや、隕石母天体での水質変質に起因する可能性を示唆する。PH2O = 0.1Paの原始太陽系円盤中の1-µmサイズのSiC粒子の寿命は、~1400℃より高温ではほとんど温度に依存しないが、より低温では大きな温度依存性を持つ。プレソーラーSiC粒子は、プレソーラーコランダムの酸素同位体異常が太陽系円盤ガスとの同位体交換によって完全に失われるような条件下では (Prot & Monty, 1996)、蒸発により消失を免れることができないが、プレソーラー非晶質ケイ酸塩粒子の酸素同位体的特徴が失われるような低温での長時間加熱(e.g., Yamamoto et al., 2020) では残存可能であると考えられる。
SiC蒸発実験は、ガス供給系を備えた高温真空炉を用いて、1506–1250℃、H2-H2O混合ガスの全圧 (Ptot.) =0.5, 2.5 Paで0.5–110.3 hおこなった。出発物質は、プレソーラーSiC粒子の主要な多形である β (3C)-SiC (Daulton et al., 2003) の多結晶板を用いた。本研究では以下の3つのガス条件を設定した; (1) Ptot. = 0.5 Pa、PH2O = 2.2 × 10–3 Pa、(2) Ptot. = 2.5 Pa、PH2O = 6.1 × 10–3 Pa、(3) Ptot. = 2.5 Pa、PH2O = 1.5 × 10–2 Pa。これらのガスの酸化還元状態は、典型的な原始太陽系円盤と同程度か、酸化的である (Lodders, 2003)。実験前後での試料の質量変化を高精度マイクロ天秤で測定した。一部の試料に関しては、FIB-SEM (Hitachi NX2000; Thermo Fisher Scientific Versa 3D) でFIB切片を作製し、STEM-EDS (JEOL JEM-2800) で観察をおこなった。顕微ラマン分光法による相同定もおこなった。
加熱した試料のSTEM-EDS分析結果から、試料表面に酸化物残渣層は見られないものの、多孔質の炭素に富む層が観察された。ラマン分光分析結果から、すべての分析試料においてグラファイトの均質な、または不均一な生成が確認された。これらの結果から、本研究でのSiC蒸発は、アクティブ酸化 (表面に酸化物残渣層を形成しない蒸発) に従うことが示唆される (e.g., Narushima et al., 1997)。試料の重量損失と初期サイズから推定される蒸発フラックスJは (Takigawa et al., 2009)、(1)–(3)のすべての加熱条件下で、~1350–1400℃より高温では弱い温度依存性を示し、より低温では大きな温度依存性を示した。高温での (大きく) 温度に依存しないJは、気体からのガス供給量が反応速度を律速している可能性を示す (e.g., Yamamoto et al., 2021)。一方、低温では、ガスに露出したSiC表面での化学反応が全体の反応速度を律速している可能性がある。本研究で得られた活性化エネルギー (~564–1160 kJ mol–1) は、PH2O増加とともに増加し、先行研究での報告されているアクティブ酸化における活性化エネルギーの範囲 (~460–1130 kJ mol–1) (e.g., Rosner & Allendorf, 1970; Mendybaev et al., 2002) と一致している。
本研究の結果は、原始太陽系円盤においてプレソーラーSiC粒子の蒸発は、酸化物残渣層を形成しないアクティブ酸化により進行することを示唆し、始原的隕石中のプレソーラーSiC粒子表面の酸化物リム (Bernatowicz et al., 2006) は、コンドリュール形成をもたらした酸化的な加熱イベントや、隕石母天体での水質変質に起因する可能性を示唆する。PH2O = 0.1Paの原始太陽系円盤中の1-µmサイズのSiC粒子の寿命は、~1400℃より高温ではほとんど温度に依存しないが、より低温では大きな温度依存性を持つ。プレソーラーSiC粒子は、プレソーラーコランダムの酸素同位体異常が太陽系円盤ガスとの同位体交換によって完全に失われるような条件下では (Prot & Monty, 1996)、蒸発により消失を免れることができないが、プレソーラー非晶質ケイ酸塩粒子の酸素同位体的特徴が失われるような低温での長時間加熱(e.g., Yamamoto et al., 2020) では残存可能であると考えられる。
