日本地球惑星科学連合2024年大会

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[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG41] 地殻表層の変動・発達と地球年代学/熱年代学の応用

2024年5月29日(水) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:末岡 茂(日本原子力研究開発機構)、長谷部 徳子(金沢大学環日本海域環境研究センター)、Tamer Taner Tamer(China Earthquake Administration)、田上 高広(京都大学大学院理学研究科)

17:15 〜 18:45

[SCG41-P05] 谷川岳花崗岩類中の石英に発達するマイクロクラックが示す鮮新世の逆断層型応力

*安邊 啓明1南 沙樹2 (1.日本原子力研究開発機構、2.京都大学大学院理学研究科)

キーワード:流体包有物解析、マイクロクラック、北部フォッサマグナ、古応力、鮮新世、谷川岳花崗岩類

谷川岳地域は東北日本弧,西南日本弧,伊豆-小笠原-マリアナ弧が会合する領域の北東部に位置する.ここでは約6 Maより若い花崗岩類が貫入しており(例えば,Harayama, 1992; Minami et al., 2021),一般的な花崗岩の定置深度を考えると,本地域は急速に隆起・削剥された可能性がある.この要因として,丹沢・伊豆地塊の衝突やフィリピン海プレートの運動方向の変化などにより,中部日本の応力場が変化したことが考えられる.谷川岳地域の花崗岩類に記録された応力史を構築し,急速隆起をもたらしたメカニズムを解明することは,これらのテクトニクスを考える上で極めて重要である.そこで本研究は,谷川岳地域の花崗岩類中の石英に発達するマイクロクラックについて,その三次元方位分布を利用した古応力解析,ならびに流体包有物解析による形成温度推定を行った.
試料は,後期中新世-鮮新世谷川岳花崗岩類の3つの岩体のうち,谷川岩体の2地点において,定方位で採取した(試料A,B).方位を復元しながら作成した直交三面の薄片において,石英に発達したヒールドマイクロクラック (HC) およびシールドマイクロクラック (SC) の三次元方位を,ユニバーサルステージを用いて測定した.得られた方位分布を,混合ビンガム分布法 (Yamaji and Sato, 2011) で解析した.さらに試料Aについて,測定したHCの流体包有物の加熱冷却実験を行い,氷点測定による塩濃度の推定,および均質化実験によるHC形成温度の推定を行った.
方位解析の結果,HCからE–W圧縮の逆断層型応力(応力H)が,SCからENE–WSW圧縮の逆断層型応力(応力S)が,2試料で共通して検出された.マイクロクラック同士の切断関係を観察したところ,HCの後にSCが形成されたことが分かった.試料Aの流体包有物解析の結果,HCの均質化温度は約210℃または約260℃だった.南ほか (2022) は,試料Aと同一地点で約3.3 Maのジルコン U–Pb 年代(閉鎖温度>~900 °C)と,約2.6 Maのジルコン (U–Th)/He 年代(~180 °C)を報告している.以上のことから谷川岳地域では,約3.3~2.6 Maの間に応力Hが働き,その後に応力Sに変化したと考えられる.ただし,応力Hと応力Sは大きく異なる応力ではなく,異なる時階の応力なのか,同一の時階の応力の時間的な揺らぎかを判別することはできていない.
Takeuchi (1980) は,後期中新世から現在までの東北日本南部で貫入した火成岩脈の方位を測定した.このうち鮮新世の岩脈群の方位分布から,貫入当時の水平面内での最大圧縮方向 (σHmax軸方向) はENE–WSWからE–Wと考えられる.また,報告されている岩脈群の方位分布を混合ビンガム分布法で解析すると,応力の型は正断層型および横ずれ断層型である.本研究で得られた応力H,Sをこれらの応力と比較すると,σHmax軸方向についておおむね一致している一方,応力の型は一致しない.谷川岳地域の花崗岩類は北部フォッサマグナ地域の高井–美ヶ原帯(小坂,1984)に分布する深成岩類の北東延長に位置づけられる.これらの岩体は北東へ向かうにつれて貫入年代が若くなる傾向があり(川野,2017),北東部でより急速に削剥されたと考えられる.従って,北部フォッサマグナ地域の中でも鮮新世以降の歪速度は異なっていると考えられる.Takeuchi (1980) の岩脈群が示唆する応力と本研究で検出した応力の型の違いも,同様の地域差を反映している可能性がある.今後は,谷川岳地域の花崗岩類のうち年代の異なる岩体の試料について同様の検討を行い,谷川岳地域内での応力の時空間的な一様性を検討する.
<参考文献> Harayama (1992) Geology, 20, 657–660. 川野 (2017) 地球科学, 71, 75–86. 小坂 (1984) 信州大学理学部紀要, 19, 121–141. Minami et al. (2021) Earth Planets Space, 73, 231. 南ほか (2022) フィッション・トラック ニュースレター, 35, 22–26. Takeuchi (1980) J. Geosci. Osaka City Univ., 23, 1–64. Yamaji and Sato (2011) J. Struct. Geol., 33, 1148–1157.
<謝辞>野外調査の一部について,令和4年度深田野外調査助成の支援を受けた.