17:15 〜 18:45
[SCG42-P01] オマーンオマントルかんらん岩の全岩微量元素組成と多変量解析によるマントルプロセスの検討
キーワード:オフィオライト、組成データ解析、独立成分分析、マントル、オマーン、微量元素
オマーンオフィオライトは全長500km,幅80kmに達し,海洋リソスフェアの層序をよく保存している.これまでオマーンオフィオライトのマントルかんらん岩の研究により,初期島弧のマントルプロセスやその空間分布に関する地質学的,地球化学的研究が精力的に行われてきた.しかしながら,これらの研究では鉱物化学組成,REEパターンなどの一部の指標による解釈が多く,多変量解析は行われていない.そこで,本研究では多変量解析により,マントルプロセスの定量的な解釈とそのプロセスの空間分布を認識することを目的とした.
今回は,互いに独立な成分(独立成分)を計算する独立成分分析を用いた.この成分を地質学的に解釈することで,独立なマントルプロセスに分離した.解析対象は,オマーンオフィオライト北部のFizh岩体と南部のWadi Tayin岩体から採取された169個のかんらん岩の全岩化学組成(Ga,Rb,Sr,Y,Cs,Ba.La,Ce,Nd.Sm,Eu,Gd,Tb.Dy,Ho,Er,Yb,Lu,Hf)である.今回は独立成分分析により4つの成分を抽出した.化学組成データは変数の数より次元が1つ低い空間に存在する.この制約を解決するために対数比変換法であるAdditive Log Ratioを使用した.計算は元素濃度をSiO2で規格化して自然対数を取った.
解析の結果,得られた成分は無相関かつ非線形関係もなく独立な成分である.各独立成分において,異なるマントルプロセスを示す特徴が見られた.第一独立成分はかんらん石モードに正の相関,輝石モードと負の相関があり,全ての微量元素と負の相関がある.また,スピネルCr#と正の相関がある.第二独立成分はかんらん石モードと弱い正の相関,輝石モードと弱い負の相関がある.また,LILE,HFSEおよびLREEに正の相関,HREEに負の相関がある.第三独立成分は,SrとBaに強い負の相関がある.第四独立成分は,Cs,Rb,Ba,ThのLILEと強い正の相関がある.
これらの結果に基づき,4つのマントルプロセスの地質学的意味を検討した.第一独立成分は減圧による部分溶融,第二独立成分はスラブ流体の供給によるフラックス溶融,第三独立成分は低温下の蛇紋岩化作用によるSrとBaの濃縮,第四成分はスラブ流体の付加による交代作用である.これらの成分を地質図と断面図にプロットすることでマントルプロセスの空間分布を検討した.第一独立成分(減圧による部分溶融の度合い)はマントル基底部で低く,モホ付近で高い傾向がある.第二独立成分からフラックス溶融はマントル内で不均一に起こり,Kanke and Takazawa(2014)で報告された高枯渇帯とモホ面付近で強く起こった.第三独立成分から低温変形領域と中温変形領域の境界で蛇紋岩化作用によるSrとBaの濃縮が強かったことが分かった.第四独立成分によると,LILE元素に富む流体は基底部から1.7kmの高さまで浸透し,交代作用をもたらしたことが明らかとなった.
本研究では統計的手法である独立成分分析により,オマーンオフィオライトにおける最上部マントルのマントルプロセスを解釈した.独立成分を地質学的に解釈することで,最上部マントルの化学組成の不均質の原因は4つのプロセスで説明可能である.また,マントルプロセスごとの空間分布の特徴も明らかとなった.
1. Kanke, N., Takazawa, E., 2014. A kilometre-scale highly refractory harzburgite zone in the mantle section of the northern Oman Ophiolite (Fizh Block): implications for flux melting of oceanic lithospheric mantle. Geological Society, London, Special Publications 392, 229–246. https://doi.org/10.1144/SP392.12
今回は,互いに独立な成分(独立成分)を計算する独立成分分析を用いた.この成分を地質学的に解釈することで,独立なマントルプロセスに分離した.解析対象は,オマーンオフィオライト北部のFizh岩体と南部のWadi Tayin岩体から採取された169個のかんらん岩の全岩化学組成(Ga,Rb,Sr,Y,Cs,Ba.La,Ce,Nd.Sm,Eu,Gd,Tb.Dy,Ho,Er,Yb,Lu,Hf)である.今回は独立成分分析により4つの成分を抽出した.化学組成データは変数の数より次元が1つ低い空間に存在する.この制約を解決するために対数比変換法であるAdditive Log Ratioを使用した.計算は元素濃度をSiO2で規格化して自然対数を取った.
解析の結果,得られた成分は無相関かつ非線形関係もなく独立な成分である.各独立成分において,異なるマントルプロセスを示す特徴が見られた.第一独立成分はかんらん石モードに正の相関,輝石モードと負の相関があり,全ての微量元素と負の相関がある.また,スピネルCr#と正の相関がある.第二独立成分はかんらん石モードと弱い正の相関,輝石モードと弱い負の相関がある.また,LILE,HFSEおよびLREEに正の相関,HREEに負の相関がある.第三独立成分は,SrとBaに強い負の相関がある.第四独立成分は,Cs,Rb,Ba,ThのLILEと強い正の相関がある.
これらの結果に基づき,4つのマントルプロセスの地質学的意味を検討した.第一独立成分は減圧による部分溶融,第二独立成分はスラブ流体の供給によるフラックス溶融,第三独立成分は低温下の蛇紋岩化作用によるSrとBaの濃縮,第四成分はスラブ流体の付加による交代作用である.これらの成分を地質図と断面図にプロットすることでマントルプロセスの空間分布を検討した.第一独立成分(減圧による部分溶融の度合い)はマントル基底部で低く,モホ付近で高い傾向がある.第二独立成分からフラックス溶融はマントル内で不均一に起こり,Kanke and Takazawa(2014)で報告された高枯渇帯とモホ面付近で強く起こった.第三独立成分から低温変形領域と中温変形領域の境界で蛇紋岩化作用によるSrとBaの濃縮が強かったことが分かった.第四独立成分によると,LILE元素に富む流体は基底部から1.7kmの高さまで浸透し,交代作用をもたらしたことが明らかとなった.
本研究では統計的手法である独立成分分析により,オマーンオフィオライトにおける最上部マントルのマントルプロセスを解釈した.独立成分を地質学的に解釈することで,最上部マントルの化学組成の不均質の原因は4つのプロセスで説明可能である.また,マントルプロセスごとの空間分布の特徴も明らかとなった.
1. Kanke, N., Takazawa, E., 2014. A kilometre-scale highly refractory harzburgite zone in the mantle section of the northern Oman Ophiolite (Fizh Block): implications for flux melting of oceanic lithospheric mantle. Geological Society, London, Special Publications 392, 229–246. https://doi.org/10.1144/SP392.12