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[SCG44-01] 石英c軸ファブリックと動的再結晶微細構造研究の新展開:変形温度と歪速度の精密な指標
石英の微細構造、特に動的再結晶微細構造から得られる重要な情報は、岩石の変形時における温度および歪速度条件で、日本ではこのテーマについてMasuda and Fujimura (1981)が先駆的な研究を行い、より低温および高歪速度下でS type(伸長状)の、より高温および低歪速度下でP type(等粒状)の動的再結晶石英粒子の形状が生じるという結果を得た。その後、Masuda (1982)は四国の三波川変成岩の四国中央部汗見川ルートで、実際に実験と対応するS typeとP typeの石英微細構造がメタチャート(石英片岩)に形成されていることを明らかにし、変成岩変形時における温度と歪速度の空間変化を論じた。引き続いて、Hirth and Tullis (1992)は天然石英岩について変形実験を行い、より高温および低歪速度に向かい石英の転位クリープレジームが1, 2および3と変化することを明らかにし、これらの変形レジームは動的再結晶メカニズムで定義出来るとした。すなわち、レジーム2は亜結晶粒回転、レジーム3は粒界移動および亜結晶粒回転により石英再結晶粒子が生じたとした。ただし、Hirth and Tullis (1992)のレジーム2と3は基本的にMasuda and Fujimura (1981)のS typeとP typeと同一である。さらに、Stipp et al. (2002)は天然の変形石英岩の研究に基づき、動的再結晶メカニズムは温度増加とともにバルジング(BLG)、亜結晶粒回転(SGR)および粒界移動(GBM)と変化し、Hirth and Tullis (1992)のレジーム1, 2および3との対比を議論した。一方、Stipp et al. (2002)は、石英c軸ファブリックはSGR/GBM転移付近の約500 oCでガードルタイプからY-集中へのファブリックへと転移し、その転移は優勢すべり系がbasal, rhomb, prismの混合すべりからprismの単一すべりへ転移するため生じたと議論した。したがって、Stipp et al. (2002)の研究では、動的再結晶メカニズム転移と石英の優勢すべり系転移の物理条件は一致しているかの様に考えられた。
Sakakibara (1995)および榊原(1996)は変形実験条件から類推して、天然の低歪速度下では上記のレジーム2と3の遷移条件と優勢すべり系の遷移条件が温度―歪速度空間で斜交すると予想した。その結果、天然ではS type-basal, S type-prism, P type-basal, P type-prismの4つの動的再結晶組織と優勢すべり系の組み合わせが出現すると考えた。ここで、basalおよび prismが優勢すべり系であった場合、type-Iおよびtype-IIクロスガードルc軸ファブリックがそれぞれ形成される(例えば、Lister et al., 1978; Takeshita and Wenk, 1988)。実際、Sakakibara (1995)および榊原(1996)は三重県粥見地域の領家南縁剪断帯を構成するマイロナイトにおいて、このような異なる石英微細組織とc軸ファブリック組み合わせが存在することを明らかにして、マイロナイト帯形成条件の空間変化を議論した。
最近になってTakeshita (2021)は実験および天然条件を通じて、変形石英岩のSGR/GBM転移の条件は約30 MPaの等差応力線で近似出来ることを再結晶粒径差応力計(例えばTwiss, 1980)と流動則(Gleason and Tullis, 1995)から得られる温度-歪速度関係式に基づき議論した。また、Takeshita (2021)はMasuda (1982)が明らかにした通り、S type/P typeの再結晶石英組織の転移は汗見川ルートでガーネット帯の最上部で生じているが、石英c軸ファブリックは変成度に拘わらず一貫してtype-Iクロスガードルc軸ファブリックが認められ、黒雲母帯の一部のみにtype-IIが認められることを報告した(Yagi and Takeshita, 2002)。一方、Bui et al. (2023)が解析した三重県月出地域の領家帯花崗岩類起源のマイロナイトでは、殆どの石英c軸ファブリックがY集中成分の優勢なtype-IIクロスガードルである一方、再結晶石英組織はY集中石英c軸ファブリックを示すマイロナイト中でS typeからP typeに転移することを明らかにした。これらの事実は、Sakakibara (1995)および榊原(1996)の説に基づくと、三波川帯と領家帯の変形岩中でc軸ファブリック転移はほぼ同じ温度(約400 oCと推定される)で生じている一方、三波川帯の岩石が領家帯の岩石に比べて低歪速度で変形したことで説明可能である。したがって、従来、古差応力計と流動則に基づく温度―歪速度関係の推定は温度と歪速度の推定に任意性を残していたが、c軸ファブリック転移(優勢すべり系転移)が温度計と使えると判明したことにより精度の高い歪速度の推測が可能となった。また本発表では、何故優勢すべり系転移が歪速度に殆ど依存せず、温度のみにほぼ依存するのか、その物理的理由について試案を述べる。
Sakakibara (1995)および榊原(1996)は変形実験条件から類推して、天然の低歪速度下では上記のレジーム2と3の遷移条件と優勢すべり系の遷移条件が温度―歪速度空間で斜交すると予想した。その結果、天然ではS type-basal, S type-prism, P type-basal, P type-prismの4つの動的再結晶組織と優勢すべり系の組み合わせが出現すると考えた。ここで、basalおよび prismが優勢すべり系であった場合、type-Iおよびtype-IIクロスガードルc軸ファブリックがそれぞれ形成される(例えば、Lister et al., 1978; Takeshita and Wenk, 1988)。実際、Sakakibara (1995)および榊原(1996)は三重県粥見地域の領家南縁剪断帯を構成するマイロナイトにおいて、このような異なる石英微細組織とc軸ファブリック組み合わせが存在することを明らかにして、マイロナイト帯形成条件の空間変化を議論した。
最近になってTakeshita (2021)は実験および天然条件を通じて、変形石英岩のSGR/GBM転移の条件は約30 MPaの等差応力線で近似出来ることを再結晶粒径差応力計(例えばTwiss, 1980)と流動則(Gleason and Tullis, 1995)から得られる温度-歪速度関係式に基づき議論した。また、Takeshita (2021)はMasuda (1982)が明らかにした通り、S type/P typeの再結晶石英組織の転移は汗見川ルートでガーネット帯の最上部で生じているが、石英c軸ファブリックは変成度に拘わらず一貫してtype-Iクロスガードルc軸ファブリックが認められ、黒雲母帯の一部のみにtype-IIが認められることを報告した(Yagi and Takeshita, 2002)。一方、Bui et al. (2023)が解析した三重県月出地域の領家帯花崗岩類起源のマイロナイトでは、殆どの石英c軸ファブリックがY集中成分の優勢なtype-IIクロスガードルである一方、再結晶石英組織はY集中石英c軸ファブリックを示すマイロナイト中でS typeからP typeに転移することを明らかにした。これらの事実は、Sakakibara (1995)および榊原(1996)の説に基づくと、三波川帯と領家帯の変形岩中でc軸ファブリック転移はほぼ同じ温度(約400 oCと推定される)で生じている一方、三波川帯の岩石が領家帯の岩石に比べて低歪速度で変形したことで説明可能である。したがって、従来、古差応力計と流動則に基づく温度―歪速度関係の推定は温度と歪速度の推定に任意性を残していたが、c軸ファブリック転移(優勢すべり系転移)が温度計と使えると判明したことにより精度の高い歪速度の推測が可能となった。また本発表では、何故優勢すべり系転移が歪速度に殆ど依存せず、温度のみにほぼ依存するのか、その物理的理由について試案を述べる。