14:45 〜 15:00
[SCG44-11] 沈み込み帯浅部における粘土鉱物の摩擦特性
★招待講演
キーワード:粘土鉱物、摩擦、沈み込み帯
スメクタイトやイライトなどの粘土鉱物は海洋底で堆積する堆積物に多く含まれる。これらの粘土鉱物は低い摩擦強度をもち、また沈み込む過程で鉱物種が変化していく。そのため粘土鉱物の摩擦特性は沈み込み帯における地震発生プロセスに重要である。沈み込み帯におけるプレート境界断層のすべり挙動の理解に向けて、沈み込む堆積物を模擬した粘土鉱物を主成分とした物質の摩擦実験をこれまで行ってきた。本発表では粘土鉱物のうち、堆積物に多いスメクタイトと、続成過程の結果形成されるイライトの摩擦実験の結果を紹介する。
様々な粘土鉱物の中で、スメクタイトは力学的に最も弱い鉱物の一つである。そのため、スメクタイトが断層のすべり挙動に与える影響は、低速度条件(~1 μm/s)または高速度条件(~1 m/s)のいずれにおいても広く研究されてきた。しかし、中速度条件(~1 mm/s)での摩擦挙動は、自発的な破壊への遷移を特徴づけるものであるにもかかわらず、不明瞭な点が多かった。そこで、スメクタイトとガラスを混合したガウジの摩擦実験を、10 μm/sから1 m/sの速度条件下で行った。その結果、少量のスメクタイトを含む場合、1-3 mm/sの中速度条件で異常なすべり弱化挙動が起こることを発見した。すべり弱化による断層すべりの不安定性を考慮すると、このすべり弱化を示す断層においてすべりを加速するには非現実的な断層サイズが必要となる。したがって、粘土鉱物が含まれる断層ガウジは、地震発生時に中速度において断層すべりおよび破壊伝播を自発的に抑制する効果を持ち、結果としてスロー地震的なふるまいを引き起こす可能性がある。[1]
スメクタイトは約150℃までの深度でイライトへと変化する。このスメクタイトのイライト化は、沈み込み帯における地震発生帯の上限を支配していると考えられてきたが、スメクタイトもイライトも低速度条件では不安定すべりをほとんど示さないことが知られている。しかし沈み込み帯の実際の環境である熱水条件下での摩擦特性は十分に理解されていなかった。そこで、南海トラフのプレート境界に沿ったスメクタイトのイライト化をモデリングし、さらに原位置の温度圧力条件を再現した条件での摩擦実験を行うことで、スメクタイトおよびイライトの摩擦特性の変化を探った。その結果、スメクタイトのイライト化が起こる150℃までの条件では、安定すべりから不安定すべりへの遷移は見られなかった。このことは地震発生帯の上限がスメクタイトのイライト化に支配されていないことを示している。一方でより高温になる深い深度では、不安定すべりが見られた。これはイライトの高温での摩擦特性そのものである。南海トラフにおける地震活動の分布と比較してみると、イライトの不安定すべりは地震発生帯の上限の位置と調和的であり、地震発生帯の上限はイライトの摩擦特性が重要であるということが示唆される。浅部で安定すべりを示した領域では浅部スロー地震が起こっている。一般的に安定すべりでは自発的に断層すべりを加速させることができないため、浅部スロー地震のメカニズムとしては単純な不安定すべりではなく、すべり弱化などのメカニズムが複合的に作用しているのかもしれない。[2]
[1] H. Okuda, T. Hirose, A. Yamaguchi (2023). Potential role of volcanic glass-smectite mixtures in slow earthquakes in shallow subduction zones: Insights from low- to high-velocity friction experiments. JGR Solid Earth. 128, e2022JB026156.
[2] H. Okuda, M. Kitamura, M. Takahashi, A. Yamaguchi (2023). Frictional properties of the décollement in the shallow Nankai Trough: constraints from friction experiments simulating in-situ conditions and implications for the seismogenic zone. EPSL. 621, 118357.
様々な粘土鉱物の中で、スメクタイトは力学的に最も弱い鉱物の一つである。そのため、スメクタイトが断層のすべり挙動に与える影響は、低速度条件(~1 μm/s)または高速度条件(~1 m/s)のいずれにおいても広く研究されてきた。しかし、中速度条件(~1 mm/s)での摩擦挙動は、自発的な破壊への遷移を特徴づけるものであるにもかかわらず、不明瞭な点が多かった。そこで、スメクタイトとガラスを混合したガウジの摩擦実験を、10 μm/sから1 m/sの速度条件下で行った。その結果、少量のスメクタイトを含む場合、1-3 mm/sの中速度条件で異常なすべり弱化挙動が起こることを発見した。すべり弱化による断層すべりの不安定性を考慮すると、このすべり弱化を示す断層においてすべりを加速するには非現実的な断層サイズが必要となる。したがって、粘土鉱物が含まれる断層ガウジは、地震発生時に中速度において断層すべりおよび破壊伝播を自発的に抑制する効果を持ち、結果としてスロー地震的なふるまいを引き起こす可能性がある。[1]
スメクタイトは約150℃までの深度でイライトへと変化する。このスメクタイトのイライト化は、沈み込み帯における地震発生帯の上限を支配していると考えられてきたが、スメクタイトもイライトも低速度条件では不安定すべりをほとんど示さないことが知られている。しかし沈み込み帯の実際の環境である熱水条件下での摩擦特性は十分に理解されていなかった。そこで、南海トラフのプレート境界に沿ったスメクタイトのイライト化をモデリングし、さらに原位置の温度圧力条件を再現した条件での摩擦実験を行うことで、スメクタイトおよびイライトの摩擦特性の変化を探った。その結果、スメクタイトのイライト化が起こる150℃までの条件では、安定すべりから不安定すべりへの遷移は見られなかった。このことは地震発生帯の上限がスメクタイトのイライト化に支配されていないことを示している。一方でより高温になる深い深度では、不安定すべりが見られた。これはイライトの高温での摩擦特性そのものである。南海トラフにおける地震活動の分布と比較してみると、イライトの不安定すべりは地震発生帯の上限の位置と調和的であり、地震発生帯の上限はイライトの摩擦特性が重要であるということが示唆される。浅部で安定すべりを示した領域では浅部スロー地震が起こっている。一般的に安定すべりでは自発的に断層すべりを加速させることができないため、浅部スロー地震のメカニズムとしては単純な不安定すべりではなく、すべり弱化などのメカニズムが複合的に作用しているのかもしれない。[2]
[1] H. Okuda, T. Hirose, A. Yamaguchi (2023). Potential role of volcanic glass-smectite mixtures in slow earthquakes in shallow subduction zones: Insights from low- to high-velocity friction experiments. JGR Solid Earth. 128, e2022JB026156.
[2] H. Okuda, M. Kitamura, M. Takahashi, A. Yamaguchi (2023). Frictional properties of the décollement in the shallow Nankai Trough: constraints from friction experiments simulating in-situ conditions and implications for the seismogenic zone. EPSL. 621, 118357.