日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG44] 地球惑星科学におけるレオロジーと破壊・摩擦の物理

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:桑野 修(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、清水 以知子(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、田阪 美樹(静岡大学 )、東 真太郎(東京工業大学 理学院 地球惑星科学系)

17:15 〜 18:45

[SCG44-P05] エンスタタイト相転移における粒径・応力の効果

*岩合 麻耶1田阪 美樹1 (1.静岡大学)

キーワード:エンスタタイト、相転移、粒径、応力

鉱物は相転移によって結晶構造や化学結合、物性を変化させる。相転移の起こる条件は温度(T)・圧力(P)など熱力学条件で予想できるが、最近の鉱物学的な研究により粒径や応力により相転移する条件が変化することが提案されている。本研究は輝石の一種であるエンスタタイト(Mg2Si2O6)多結晶体を用いて、粒径と応力が相転移に与えるメカニズムを理解することを目的に焼結実験と変形実験を行った。
エンスタタイトは大気圧・高温で安定なプロトエンスタタイト(PEn、T = 985-1557°C)、中温で安定なオルソエンスタタイト(OEn、 T = 500-985°C)、低温で安定なクライノエンスタタイト(CEn、T < 500°C)がある。粒径が相転移に与える影響を調べるために焼結時間(1~50時間)と焼結温度(T = 1310 to 1360°C)を変え粒径の異なる試料を大気圧真空焼結により作製した。応力が相転移に与える影響を調べるために応力の異なる大気圧高温圧縮変形実験をT = 1310°Cで行った。実験試料は走査型電子顕微鏡(SEM)、X線回折(XRD)、結晶方位(EBSD)を用いて解析した。焼結温度1360℃の試料は時間経過によって円柱試料が粉々に崩壊した。これは高温の焼結で粒径が大きくなり、粒子内欠陥が増えることによりPEnがCEnに相転移して体積変化が起こったためと考える。焼結温度1310℃と1340℃の試料はPEnとCEnの結晶相が混在する組織が見られた。粒径の異なる試料(~0.5 to 5 μm) を用いたXRDやEBSDの分析から、粒径によりPEnとCEnの鉱物量比が変化し、粒径の大きい試料ほどCEn相の割合が増えることが分かった。変形実験によって試料は拡散クリープで塑性変形をしたが、変形試料と未変形試料における鉱物相の割合に差は見られなかった。一方切断や研磨によって発生した脆性的な変形によって試料のCEn相の割合が増加したことから、変形の種類によって相転移しやすさの影響が異なることが考えられる。EBSD解析からCEn粒子内に[100]または[001]を回転軸に回転角180度の変態双晶が見られることから、輝石の相転移メカニズムについて平面欠陥である双晶を起点に単位格子が回転することで相転移が起こったと考えた。本研究は輝石をアナログ物質として、これまで考えられてきた温度・圧力のほかに粒径や応力によって鉱物相の安定性が変化することを提案する。本研究結果は将来的には輝石のみならず他のケイ酸塩鉱物への応用も期待できる。