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[SCG44-P09] 含水石英岩の定常再結晶組織への封圧の影響
キーワード:石英、高温高圧変形実験、動的再結晶、転位クリープ
高圧変成帯や剪断帯において、変成度などによって石英の組織が系統的に変化することが知られている。これらの組織は、その岩石がかつて変形した際の温度や歪速度などの条件を反映していると考えられる。最終的にはその組織と変形条件の関係を自然に外挿することを目的として、高温高圧の変形実験が行われ、組織観察が行われてきた。
Masuda and Fujimura (1981) (以下、M & F)は、細粒な含水石英岩(メノウ)を用いて、封圧0.4 GPa, 温度700―1000℃, 歪速度10-6 -10-4/secで高温高圧変形実験を行い、低温-高歪速度条件下では、扁平な結晶粒と鋸状の結晶粒界を持つSタイプの再結晶組織、高温-低歪速度条件下では、等粒状な結晶粒と直線的な結晶粒界を持つPタイプの再結晶組織が発達することを報告した。彼らはこれら2つの石英組織が、時間や歪によらない定常組織であると解釈した。一方、Hirth and Tullis (1992)(以下、H & T)は、メノウに比べ、より粗粒な石英岩 (quartzite) を出発物質として、封圧1.5 GPa、温度約500-1200℃, 歪速度はおよそ10-7-10-5/secの範囲で高温高圧変形実験を行い、主要な再結晶機構によって、3つの組織に分類した。
M & Fは温度と歪速度を変化させてSタイプ、Pタイプを分類したが、実際の地球においては圧力、すなわち実験における封圧も深さによって変化しうる。したがって、実験で得られるSタイプ-Pタイプの境界線を天然系に外挿するためには、定常組織の封圧に対する依存性も考慮しなければならない。H & Tは、M & Fより高圧で変形実験を行ったが、粗粒石英岩を用いていたため再結晶が遅く、定常組織には至らなかった。また、H & Tの組織の分類基準がM & Fとは異なるため、S-P境界の封圧依存性についてはほとんどわかっていない。そこで、本研究ではM & Fと同じ出発物質であるメノウを用いて、M & Fより高圧 (封圧1.5 GPa)で、温度800-1000℃, 歪速度10-6 - 10-4/sec の条件で変形実験を行った。
実験試料には、メノウの初期組織の繊維状結晶に平行に、直径8.0 mm, 長さ8.0 mmでコアリングしたものを用いた。圧媒体にはタルクを使用し,試料を囲むスリーブには,試料に水を供給し塑性変形を促進するため, 800℃の条件では脱水温度約500℃のパイロフィライト, 900℃以上の条件では脱水温度が約800℃であるタルクを使用した。スリーブからの水が試料に加わりやすいように、試料は金属ジャケットで覆わなかった。実験装置は京都大学理学部設置の熊澤型固体圧式変形試験機を使用した。熊澤型試験機では,上下のピストンに取り付けたロードセルを用いて固体圧媒体中の内部摩擦を実験中にリアルタイムに補正し、差応力を精度よく求めることができる (Shimizu and Michibayashi, 2022)(以下、S & M)。
実験後の試料薄片の偏光顕微鏡観察では、SタイプとPタイプの見られる温度―歪速度領域に関して、M & Fと同じ傾向が見られた。鋭敏色検板を通した結晶方位観察により、ほとんどの実験の回収試料において、メノウの初期組織が失われていることを確認した。得られた力学データは、Fukuda and Shimizu (2017)が拡散係数を用いて半経験的に導出した石英の転位クリープ流動則と、温度・歪速度依存性及び流動応力の大きさにおいて、やや一致した。
封圧のS-P境界線への影響という観点では、M & F(封圧0.4 GPa)ではPタイプが観察されていた温度900-1000℃, 歪速度10-5/secの条件でSタイプが見られたことから、封圧が高いほどS–P境界線が高温-低歪速度側へ移動すると考えられる。逆もしかり。S & MによるM & FのSタイプ試料のEBSD解析によると、比較的大きい扁平な石英再結晶粒子のc軸方向がσ1方向に集中しており、石英の底面すべりがSタイプ組織の発達に有利に働いていたことが推測できる。また、別の変形実験 (Ave’Lallemant & Carter, 1971) では、高封圧ほど石英の底面滑りが卓越するという結果が報告されている。これらの実験事実を組み合わせると、S–P境界線のシフトが、石英の卓越滑り系の変化によっておきた可能性が考えられる。
引用文献
Fukuda, J. and Shimizu, I. (2017) J. Geophys. Res. Solid Earth, 122, 5956–5971.
Masuda, T. and Fujimura, A. (1981) Tectonophysics, 72, 105–128.
Shimizu, I. and Michibayashi, K. (2022) Minerals, 12, 329.
Ave’Lallemant, H. and Carter, N. (1971) American J. Science, 270, 218–235.
Masuda and Fujimura (1981) (以下、M & F)は、細粒な含水石英岩(メノウ)を用いて、封圧0.4 GPa, 温度700―1000℃, 歪速度10-6 -10-4/secで高温高圧変形実験を行い、低温-高歪速度条件下では、扁平な結晶粒と鋸状の結晶粒界を持つSタイプの再結晶組織、高温-低歪速度条件下では、等粒状な結晶粒と直線的な結晶粒界を持つPタイプの再結晶組織が発達することを報告した。彼らはこれら2つの石英組織が、時間や歪によらない定常組織であると解釈した。一方、Hirth and Tullis (1992)(以下、H & T)は、メノウに比べ、より粗粒な石英岩 (quartzite) を出発物質として、封圧1.5 GPa、温度約500-1200℃, 歪速度はおよそ10-7-10-5/secの範囲で高温高圧変形実験を行い、主要な再結晶機構によって、3つの組織に分類した。
M & Fは温度と歪速度を変化させてSタイプ、Pタイプを分類したが、実際の地球においては圧力、すなわち実験における封圧も深さによって変化しうる。したがって、実験で得られるSタイプ-Pタイプの境界線を天然系に外挿するためには、定常組織の封圧に対する依存性も考慮しなければならない。H & Tは、M & Fより高圧で変形実験を行ったが、粗粒石英岩を用いていたため再結晶が遅く、定常組織には至らなかった。また、H & Tの組織の分類基準がM & Fとは異なるため、S-P境界の封圧依存性についてはほとんどわかっていない。そこで、本研究ではM & Fと同じ出発物質であるメノウを用いて、M & Fより高圧 (封圧1.5 GPa)で、温度800-1000℃, 歪速度10-6 - 10-4/sec の条件で変形実験を行った。
実験試料には、メノウの初期組織の繊維状結晶に平行に、直径8.0 mm, 長さ8.0 mmでコアリングしたものを用いた。圧媒体にはタルクを使用し,試料を囲むスリーブには,試料に水を供給し塑性変形を促進するため, 800℃の条件では脱水温度約500℃のパイロフィライト, 900℃以上の条件では脱水温度が約800℃であるタルクを使用した。スリーブからの水が試料に加わりやすいように、試料は金属ジャケットで覆わなかった。実験装置は京都大学理学部設置の熊澤型固体圧式変形試験機を使用した。熊澤型試験機では,上下のピストンに取り付けたロードセルを用いて固体圧媒体中の内部摩擦を実験中にリアルタイムに補正し、差応力を精度よく求めることができる (Shimizu and Michibayashi, 2022)(以下、S & M)。
実験後の試料薄片の偏光顕微鏡観察では、SタイプとPタイプの見られる温度―歪速度領域に関して、M & Fと同じ傾向が見られた。鋭敏色検板を通した結晶方位観察により、ほとんどの実験の回収試料において、メノウの初期組織が失われていることを確認した。得られた力学データは、Fukuda and Shimizu (2017)が拡散係数を用いて半経験的に導出した石英の転位クリープ流動則と、温度・歪速度依存性及び流動応力の大きさにおいて、やや一致した。
封圧のS-P境界線への影響という観点では、M & F(封圧0.4 GPa)ではPタイプが観察されていた温度900-1000℃, 歪速度10-5/secの条件でSタイプが見られたことから、封圧が高いほどS–P境界線が高温-低歪速度側へ移動すると考えられる。逆もしかり。S & MによるM & FのSタイプ試料のEBSD解析によると、比較的大きい扁平な石英再結晶粒子のc軸方向がσ1方向に集中しており、石英の底面すべりがSタイプ組織の発達に有利に働いていたことが推測できる。また、別の変形実験 (Ave’Lallemant & Carter, 1971) では、高封圧ほど石英の底面滑りが卓越するという結果が報告されている。これらの実験事実を組み合わせると、S–P境界線のシフトが、石英の卓越滑り系の変化によっておきた可能性が考えられる。
引用文献
Fukuda, J. and Shimizu, I. (2017) J. Geophys. Res. Solid Earth, 122, 5956–5971.
Masuda, T. and Fujimura, A. (1981) Tectonophysics, 72, 105–128.
Shimizu, I. and Michibayashi, K. (2022) Minerals, 12, 329.
Ave’Lallemant, H. and Carter, N. (1971) American J. Science, 270, 218–235.