日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG44] 地球惑星科学におけるレオロジーと破壊・摩擦の物理

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:桑野 修(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、清水 以知子(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、田阪 美樹(静岡大学 )、東 真太郎(東京工業大学 理学院 地球惑星科学系)

17:15 〜 18:45

[SCG44-P14] 粒子充填率が固着すべりと剪断帯構造に与える影響:浮遊粒子分散系を用いたアナログ実験

*佐々木 勇人1桂木 洋光1 (1.大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻)

キーワード:固着すべり、剪断帯、グーテンベルグリヒター則、ジャミング転移、アナログ実験

空隙率が断層の固着すべりの振る舞いに与える影響を調べるために,液面に浮遊させた粒子分散系の剪断変形実験を行った.粒子分散系において粒子の充填率を変化させた各条件で,回転剪断中にトルクの測定と粒子運動の撮影とを同時に行った.その結果,粒子の充填率が増加するにしたがって,固着すべりが卓越するとともに,剪断帯の幅が狭くなり異方性を持つようになった.

断層すべりの挙動は,断層破砕帯における空隙率や微細構造の影響を強く受ける(例えば [1, 2]).本研究では,断層すべりを質的に模擬するモデル系として,液体に浮遊させた多数の粒子を回転剪断させるアナログ実験を行い,粒子の充填率と配列が固着すべりに与える影響を調べた.粒子には不透明の球体ゲル(粒径 約4 mm)を用いて液面に浮遊させ,1粒子分の厚さを持った粒子層を準備した.粒子層の中央に鉛直に回転円柱を挿し入れて,準2次元的な回転剪断実験を行った.回転円柱の側面には浮遊粒子と同じ粒子を接着し,円柱側面の境界条件として粒子が強制的に回転するものとした.粒子を浮遊させるための液体には,ポリタングステン酸ナトリウム水溶液(比重〜3)を用いた.

粒子の充填率が0–0.9までの範囲で粒子数を変えて各条件で剪断を加えた.回転円柱は渦巻バネを介してモーターと繋がっており,このモーターの回転速度は0.6°/sで一定とした.回転剪断実験中に,トルクの測定と粒子運動のその場撮影を同時に行った.粒子が不透明であるため,撮影画像の解析により粒子の追跡が可能となる.

その結果,粒子の充填率が0.8の場合は,トルクのゆっくりとした上昇と降下が断続的に生じたのに対して,充填率が0.9の場合では,トルクのゆっくりとした上昇と瞬間的な降下が周期的に生じ固着すべりの挙動を示した.トルクの増減の再来周期は,充填率が増加するとともに短くなった.定常状態でのトルクの平均値および振幅はともに,充填率が0.8のときに比べて0.9では約3倍増加した.一方,トルク降下のイベント統計について調べると,トルク降下量に対するイベント累積数のべき分布の指数は小さくなった(充填率0.8でべき指数が約0.6,充填率が0.9でべき指数が約0.3).こうした統計的な性質の違いは地震学におけるグーテンベルグ・リヒター則 [3] のb値と比較して議論できる.

その場撮影で得られた画像解析から,粒子運動についても調べた.回転円柱から動径方向に3種類の変形帯が見られた.内側から順に,粒子が剪断方向に激しく運動する剪断帯,粒子が動径方向に小さな振幅で振動を続ける振動帯,粒子が剪断方向にゆっくりと変位するクリープ帯と定義した.剪断帯は,粒子の充填率が増加するほど幅が狭くなっていき,多角形状の異方的な広がりを持つようになった.

以上のことから,浮遊させた粒子分散系の回転剪断においても,固着すべりの挙動と応力降下イベントのべき分布が再現され,粒子充填率の変化が固着すべりの周期,振幅,統計的性質,剪断帯の発達に強く影響を与えることがわかった.

[1] Pozzi et al. (2022) The Role of Fault Rock Fabric in the Dynamics of Laboratory Faults. JGR.
[2] 野田(2020)断層滑りの支配的な変形機構の遷移を考慮に入れた動的地震サイクルシミュレーション.地学雑誌.
[3] Gutenberg & Richter (1941) Seismicity of the Earth. GSA.