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[SCG45-P02] 低結晶化度炭質物のラマンスペクトルにレーザー照射が与える影響の評価
キーワード:炭質物、ラマン分光法、炭質物ラマン温度計、レーザー照射
現在、炭質物ラマン温度計の測定対象の炭質物は、岩石薄片またはチップにおいて他の鉱物に内包されているものに限られている。そこで、新しい試料形態を検証し、炭質物ラマン温度計に適応可能な試料を拡大することを本研究の目的とした。試料形態による違いの比較を行うために、まず、分析時に考えられる影響について検証を行った。ラマン分光法は非破壊分析であるとされているが、炭質物が分析時に照射されるレーザーの影響を受けることで、比較的低いレーザー強度であってもラマンスペクトルの形が変化することが報告されている。この変化は黒色で不透明な炭質物がレーザーの影響を受けやすいことが原因であり、大きく分けて下記の二つの原因によって起きる。一つ目はレーザー照射による熱(heat)の影響で、炭質物の温度が上がることでラマンスペクトルのピーク位置が変化することが知られている[1]。二つ目は、レーザーの照射により炭質物に不可逆的な損傷(damage)が起きることである[2]。しかし、先行研究の多くは高結晶化度の炭質物(=石墨)を対象としており、低結晶化度の炭質物へのレーザー照射の影響は十分に評価されていないため、さらなる検証が必要である。
低結晶化度の炭質物ラマンスペクトルの変化の評価を行うため、南部北上帯稲井層群大沢層(下部三畳系)、九頭竜層群(中部ジュラ系)、三波川帯汗見川地域緑泥石帯(白亜紀)の3つの時代と続成史が異なる地質体から採取した泥質岩または泥質片岩を用いた。それぞれの炭質物ラマン温度計の推定続成・変成温度は、約250℃、270℃、300℃であった。レーザー照射によって引き起こされるラマンスペクトルの変化は、レーザー強度を変えて測定し、比較を行なった。そして、レーザー照射による炭質物のラマンスペクトルの変化をheatとdamageに分けて評価した。この結果、炭質物の欠陥(defect)構造を反映するラマンバンド(D1バンド, D2バンド)のピーク位置が、特にheatによって減少する傾向がみられ、高結晶化度炭質物と同様に温度が上昇したことによりピーク位置の低下が起きた[1]と考えられる。それに対し、D1バンドの半値全幅の値は、特にdamageによって増加する傾向がみられた。D1バンドの半値全幅の値は、炭質物ラマン温度計のパラメーターであり[3]、結晶構造の変化をよく反映することが示唆される。これらの変化は炭質物ラマン温度計による温度推定に影響を与える可能性があるため、さらなる検証が必要である。今後、新しい試料形態として、岩石切断面、破断面やフッ酸分解を行った試料に対しても検証を行っていく予定である。
[1] Kagi et al. (1994) Geochimica et Cosmochimica Acta, 58, 3527–3530. [2] Niwase (1995) Physical Review B, 23, 15785–15798. [3] Kouketsu et al. (2014) Island Arc, 52, 33–50.
低結晶化度の炭質物ラマンスペクトルの変化の評価を行うため、南部北上帯稲井層群大沢層(下部三畳系)、九頭竜層群(中部ジュラ系)、三波川帯汗見川地域緑泥石帯(白亜紀)の3つの時代と続成史が異なる地質体から採取した泥質岩または泥質片岩を用いた。それぞれの炭質物ラマン温度計の推定続成・変成温度は、約250℃、270℃、300℃であった。レーザー照射によって引き起こされるラマンスペクトルの変化は、レーザー強度を変えて測定し、比較を行なった。そして、レーザー照射による炭質物のラマンスペクトルの変化をheatとdamageに分けて評価した。この結果、炭質物の欠陥(defect)構造を反映するラマンバンド(D1バンド, D2バンド)のピーク位置が、特にheatによって減少する傾向がみられ、高結晶化度炭質物と同様に温度が上昇したことによりピーク位置の低下が起きた[1]と考えられる。それに対し、D1バンドの半値全幅の値は、特にdamageによって増加する傾向がみられた。D1バンドの半値全幅の値は、炭質物ラマン温度計のパラメーターであり[3]、結晶構造の変化をよく反映することが示唆される。これらの変化は炭質物ラマン温度計による温度推定に影響を与える可能性があるため、さらなる検証が必要である。今後、新しい試料形態として、岩石切断面、破断面やフッ酸分解を行った試料に対しても検証を行っていく予定である。
[1] Kagi et al. (1994) Geochimica et Cosmochimica Acta, 58, 3527–3530. [2] Niwase (1995) Physical Review B, 23, 15785–15798. [3] Kouketsu et al. (2014) Island Arc, 52, 33–50.