日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG46] 岩石―流体相互作用の新展開:表層から沈み込み帯深部まで

2024年5月28日(火) 10:45 〜 12:00 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:岡本 敦(東北大学大学院環境科学研究科)、武藤 潤(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、片山 郁夫(広島大学大学院先進理工系科学研究科地球惑星システム学プログラム)、中島 淳一(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、座長:武藤 潤(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、岡本 敦(東北大学大学院環境科学研究科)

11:00 〜 11:15

[SCG46-02] 沈み込み帯ウェッジマントル起源蛇紋岩に残る堆積物・変質海洋地殻起源の流体:関東山地釜伏山蛇紋岩体の例

*會田 幸樹1ウォリス サイモン1角野 浩史2 (1.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、2.東京大学先端科学技術研究センター)

キーワード:希ガス、ハロゲン、三波川変成帯、交代反応

沈み込み帯プレート境界面における流体の挙動の解明は,水流体が関与して起こる火成・地震活動,物質循環などの現象の理解に重要となる.地球表層の水は,海洋堆積物中の間隙水,変質した海洋地殻,含水化(蛇紋岩化)した海洋リソスフェリックマントルなどの形態で地球内部に持ち込まれ,沈み込みによる温度・圧力の上昇に伴って段階的に脱水し,温かい沈み込み帯ではウェッジマントルに浸透し蛇紋岩を形成する(Hyndman & Peacock, 2003). このような沈み込み帯における流体の地球化学的トレーサーとして,表層物質とマントル物質で元素比・同位体比が大きく異なる希ガス・ハロゲンが注目されている(Nishiyama et al., 2020; Sumino et al., 2010). しかしながら,変成岩領域の岩石に対して希ガス・ハロゲン分析を適用した例は少なく,岩石から沈み込み境界面における3次元的流体の挙動の制約には未だ至っていない.本研究では,希ガス・ハロゲン分析により地下20-30kmのプレート境界面に相当する一連の岩石から脱水するスラブの痕跡を発見した.
プレート境界面の岩石を保存している三波川変成帯の超苦鉄質岩体のうち,最も浅いウェッジマントルの1つと考えられる関東山地釜伏山蛇紋岩体に着目し,流体が通過したとみられる交代反応帯の岩石(泥質片岩・滑石/アクチノ閃石岩・蛇紋岩)に対して希ガス・ハロゲン分析を行った.ヘリウム同位体比3He/4Heから,泥質片岩の流体包有物は海洋堆積物と変質海洋地殻の混合的な組成を持ち,蛇紋岩・滑石/アクチノ閃石岩の流体包有物はその流体と上部マントルの混合組成であることがわかった.非放射壊変起源希ガス元素比(130Xe/36Ar,84Kr/36Ar)並びにアルゴン同位体比40Ar/36Arは,沈み込む前の変質海洋地殻・堆積物の平均組成,海水組成の混合で説明される値を持っていた. ハロゲン元素比(I/Cl, Br/Cl)は,泥質片岩,滑石/アクチノ閃石岩は海洋間隙水の組成,蛇紋岩は変質海洋地殻と海洋間隙流体の混合で説明される値を持つことがわかった.以上の結果から,釜伏山蛇紋岩体は変質海洋地殻と海洋堆積物起源の流体が脱水してウェッジマントルに浸透して形成した蛇紋岩であると考えられる.この結果は,三波川帯を形成した古沈み込みプレート境界面では地下20-30 kmで海洋堆積物とともに変質海洋地殻が脱水を開始していた可能性を示唆する.