日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG46] 岩石―流体相互作用の新展開:表層から沈み込み帯深部まで

2024年5月28日(火) 15:30 〜 16:30 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:岡本 敦(東北大学大学院環境科学研究科)、武藤 潤(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、片山 郁夫(広島大学大学院先進理工系科学研究科地球惑星システム学プログラム)、中島 淳一(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、座長:岡本 敦(東北大学大学院環境科学研究科)、片山 郁夫(広島大学大学院先進理工系科学研究科地球惑星システム学プログラム)

15:45 〜 16:00

[SCG46-07] 全岩化学組成と熱水変質鉱物の産状から推定される雲仙地獄の酸性変質過程

*坂本 光瑠1、宮本 知治2、池端 慶3石橋 純一郎4松島 健5 (1.九州大学大学院 理学府地球惑星科学専攻、2.九州大学大学院 理学研究院地球惑星科学部門、3.筑波大学 生命環境系、4.神戸大学 海洋底探査センター、5.九州大学大学院理学研究院 附属地震火山観測研究センター)

キーワード:熱水変質作用、雲仙地獄、ラマン分光、全岩化学組成

[はじめに] 雲仙地獄は,長崎県雲仙火山西部の矢岳と絹笠山に挟まれた標高約700 m の小盆地に広がる地熱徴候地である。東西500 m, 南北 600 m の領域内で角閃石安山岩組成の角礫岩を原岩とする熱水変質岩が分布し,その内部では活発な噴気活動によって温泉水が自噴している。雲仙地獄に産する熱水変質岩のXRD分析の結果,熱水変質帯は特徴的に含まれる石英,クリストバライト及び酸性変質鉱物 (明礬石及びカオリナイト) の組み合わせにより,雲仙地獄全域をなす珪化帯とその北部を覆う酸性変質帯に区分された。珪化帯は現在の熱水変質作用以前に地下で形成したと考えられ,その一部をなす石英に富む領域は100 ℃ を超える熱水の活動によって形成したことが明らかとなった。他方,酸性変質帯はその構成鉱物の産状から,地表付近にて温泉水から珪化帯の一部に酸性変質鉱物が沈殿することで形成されたと考えられ,温泉水の化学組成を用いた変質鉱物の飽和指数の計算結果もその過程を支持する。この酸性変質作用については関与している流体の温度,pH及び組成が直接測定可能であることや大気圧下での反応であることから,変質過程のより詳細な解明が可能であると期待される。本研究は雲仙地獄で湧出しているH-SO4型の温泉水による変質作用における鉱物の溶解及び生成反応過程を明らかにすることを目的として,酸性変質岩の微小領域における変質鉱物の産状を検討した。さら試料の全岩組成と鉱物組み合わせに基づき,酸性変質過程における元素の移動を考察した。
[試料と分析] 雲仙地獄では,外側から内側にかけて変質強度が異なり,内側が原岩の色の残存している弱変質部,外側が酸性変質して白色化した酸性変質部となっている変質角礫が産した (Fig. 1)。このような変質角礫は活発に噴騰する湯だまりの付近に産することから,外側は温泉水により酸性変質作用を被ったと考えられる。本研究ではこのような変質角礫試料を数点採取し,エポキシ系の樹脂を用いて補強を施した後に薄片及び研磨片を作成した。薄片は偏光顕微鏡観察により,研磨片は反射顕微鏡観察及びSEM-EDSにより組織を観察した。さらに研磨片については,弱変質部と酸性変質部のそれぞれの石基及び斑晶部分の構成鉱物を顕微ラマン分光分析 (Renishaw inVia Raman microscope) にて同定した。加えて,試料を弱変質部と酸性変質部に分離して粉砕し,バルク試料としてXRF分析 (Rigaku Primus Ⅳ, 測定元素はSi, Ti, Al, Fe, Mn, Mg, Ca, Na, K, P, Sc, V, Cr, Ni, Cu, Zn, Rb, Sr, Y, Zr, Nb, Ba, Ce, Pb及びTh) とXRD分析 (Rigaku Ultima Ⅳ) に供した。また雲仙地獄の周辺地域で採取した変質岩の原岩と考えられる角閃石安山岩についても同様に薄片,研磨片観察及びXRF・XRD分析をして変質岩試料と比較した。
[変質鉱物の産状] 偏光顕微鏡下において,変質角礫試料の石基は弱変質部及び酸性変質部共に均質であった。その一方で,斑晶である斜長石及び角閃石も酸性変質部では変質して常時消光する様子が観察されたが,弱変質部ではそのまま残存していた。顕微ラマン分光分析の結果,変質角礫の石基部分からはクリストバライト及び鋭錐石が同定された。弱変質部において鏡下では斜長石斑晶は残存していたものの,そのリム付近ではクリストバライト,明礬石及びカオリナイトが斜長石の一部を交代して共存していることが明らかになった。一方,酸性変質部の斜長石斑晶部から斜長石は検出されず,オパールと思われる含水非晶質シリカ及び明礬石が検出された。検鏡結果と併せ考えると,酸性変質部の斜長石斑晶は含水非晶質シリカ及び明礬石に完全に交代されていることが明らかになった。よって酸性変質において斑晶は,斜長石の溶解と含水非晶質シリカ及び明礬石による交代という過程を経て変質が進行したと理解される。
[全岩組成と鉱物組み合わせ] 全岩組成について,そのSiO2濃度は原岩から弱変質部,酸性変質部にかけて増加する傾向がみられた。元素の濃度増減を検討するために,熱水への溶解度が低いと考えられるTiO2とZrを不動成分に設定し,弱変質部を基準として酸性変質部の組成をIsocon解析 (Grant, 1986) した。その結果,酸性変質作用の前後でSiO2は増減を示さず,その他の元素は減少する傾向が明らかになった。XRD分析では,弱変質部でクリストバライト,斜長石,角閃石及び鋭錐石が同定され,酸性変質部でクリストバライト,明礬石及び鋭錐石が同定された。酸性変質部における明礬石のピーク強度は微弱であったことから,酸性変質部に含有されている明礬石はその他の変質鉱物と比較して少ないと推定される。それに加えて,Isocon解析の結果で明礬石を構成するK及びAlがその他の元素と同程度の減少を示したことから,酸性変質の過程で明礬石は僅かしか生成されないことが示唆される。以上より,弱変質部から酸性変質部への変質過程における元素の移動は,斜長石及び角閃石の溶解によるほとんどの元素の溶脱とシリカ鉱物の生成によるSiO2の残留で説明される。